その一杯の主役はスープだ。鶏ガラをじっくり炊くことで白さを手に入れた濃厚な無化調鶏白湯。奥深い旨味と共に後味の清らかさも同居する鶏スープの魅力を最大限に引き出すべく選ばれたのは、中華麺でもきしめんでもなく、コシが強めの熊本のにゅうめん。ズルッと啜ればうまい具合にスープが乗ってくる。具がなくても十分に成立する強度だが、途中で大量のブラックペッパーを投入しレモンを搾れば味わいがぎゅっと引き締まり、あっという間に完飲だ。店長の高梨大悟さん曰く「真っ黒になるくらい卓上のブラックペッパーをかけてもらいたい」。
すべての要素がスープを生かすための必然として皿に集ったオリジナルな一杯。箸でなくスプーンとフォークが添えられるのも納得だ。鶏スープのヌードルだから、名前は「トリスヌードル」(ちなみに店にトリスサワーは……ない)。生み出したのは予約の取れない焼き鳥人気店『鳥さわ』。もともと西麻布『鳥さわ22』の〆で人気を博していた鶏出汁の麺を気軽に食べてもらえるように、との思いからスピンオフ的に誕生した。トリスヌードル一杯をサクッと食べるもよし、『鳥さわ』で経験を積んだ職人による焼き鳥をつまみにのんびり呑むのもよし。武骨なカウンターがドンと置かれた店内で、昼から麺に焼き鳥にお酒に……と、その自由さがとにかく楽しい。
素トリスヌードル¥1,000。トッピングも豊富で、ネギトリスヌードル(¥1,200)、パクチートリスヌードル(¥1,200)なども。大山どりなど上質な鶏肉をジューシーに焼き上げる焼き鳥(¥300~)も。
鳥さわジグボーンクラブ白金高輪 東京都港区白金6‐2‐4 TEL:090・7017・0022 12:00~22:00(17:00以降は予約可) 不定休 詳細はインスタグラム(@torisawa.jigbornclub)で。
ひらの・さきこ 1991年生まれ。フードエッセイスト。著書にエッセイ集『生まれた時からアルデンテ』(平凡社)など。
※『anan』2022年11月16日号より。写真・清水奈緒 取材、文・平野紗季子
(by anan編集部)