ボーダレスな表現で拓く無限の可能性。いま注目のジャパンブランドに迫る

「こうあるべき」という既存の枠組みを飛び越えた表現が、人々の心を惹きつける。多彩な個性を放つジャパンブランドについて、国内外のコレクションを追うお二人に伺いました。


お話を伺った方々

Profile

岡部駿佑

おかべ・しゅんすけ 『SPUR』や『VOGUE JAPAN』を経て独立。エディターとして雑誌や広告ビジュアルの制作に携わるほか、YouTubeチャンネル「CARTE BLANCHE」での発信やイベント出演など、ファッションを軸に多岐にわたり活動中。

柴田麻衣子

しばた・まいこ セレクトショップ『RESTIR』バイヤー、クリエイティブディレクター。パリやミラノ、東京など各地のファッションウィークを訪れバイイングを行うほか、自社が手がけるブランド『LE CIEL BLEU』のディレクションも手がける。

さまざまな境界を超える注目のブランドたち

岡部駿佑(以下、岡部) ボーダレスファッションと聞いて、まず思いついたのが『RYUNOSUKEOKAZAKI』。岡﨑さんは東京藝術大学大学院出身で、まるで布の彫刻を作るようなアプローチで服を作っているんです。ニューヨークの「メトロポリタン美術館」やロンドンの「V&A博物館」にも作品が収蔵されていたりと、まさにアートとファッションの境界を超えるような創作をしているブランドです。

柴田麻衣子(以下、柴田) 昨シーズンくらいから立ったり座ったりできる服が登場したけど、それまでは着た状態で身動きがとれないくらいで。まさに“着られるアート”っていう感覚でしたよね。初めてショーを観た時はすごい衝撃を受けました。“着られるもの”や“売れるもの”へのさじ加減がアンバランスなところもまさに芸術家肌で、これからどうなるかがとても楽しみ。

まるでアートピースのような彫刻的なデザインを創造

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RYUNOSUKEOKAZAKI

Brand

アーティスト、デザイナーとして活動する岡﨑龍之祐によるブランド。2021年9月に初のランウェイショーを開催。翌年にLVMH PRIZE 2022ファイナリスト選出。'24年にはニューヨークのメトロポリタン美術館、'25年にはロンドンのV&A博物館に作品が収蔵、展示。今年のフジロックでXGが衣装として着用したことも話題に。'26年秋冬は継続するテーマである“祈り”を軸としながら、個々に内包される「感情」に焦点を当てている。ブランドを象徴する彫刻的なドレスのほか、リアルクローズに通じるフォルムに落とし込んだアイテムも発表。

岡部 そうそう。ただ前衛的なだけでなく、根幹にきちんと芯があって。クリエイティブとの向き合い方が真摯なブランドだなと感じます。スタイルは違うけど、川西遼平さんが手がける『LES SIX(レ・シス)』にも似たものを感じます。自分の主義主張に偽りがないというか、「これを表現したい」という想いがしっかり伝わってくるクリエイションで、ショーを観るたびになんだか背筋が伸びる。

柴田 そういう情熱が伝わっているのか、『LES SIX』は熱狂的なファンが多いんですよね。『ANCELLM(アンセルム)』もそうで、発売日になるとショップに行列ができるくらいファンの多いブランド。デニムの本場として知られる岡山県を拠点としていて、ベーシックに見えるアイテムも、熟練の技術による細やかな加工が施されているんです。

岡部 正直、僕はこれまで見逃しちゃっていました。高い加工技術と上質さが支持されているんでしょうか?

柴田 手をかけて作っているからこそ、大量生産ができなくて。その希少性も人々の心をくすぐっているのかもしれません。そもそもクオリティがすごく高いから、もはやファッションというよりクラフトという感じ。

岡部 なるほど、ものづくりの部分で一つ芯が通っているブランドは、ファンがしっかりつく印象がありますね。

柴田 “職人技”が日本人に刺さりやすいのかも。あとは、近年はラグジュアリーブランドがどんどん高価になっていてなかなか手に取りにくいから、ブランドの価値やデザイン性だけでなく、さらにものづくりに熱意を持っているブランドが支持されているのかなと思います。

デニムの聖地・岡山ならではのクラフトが光るブランド

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ANCELLM

Brand

文化服装学院卒業後、国内ブランドで企画・生産を担当していた山近和也が、岡山県を拠点に2021年にスタート。“視点を変えた経年変化の提案”をコンセプトに、着込んで馴染むことで独自の色合いや風合いが生まれるウェアを提案。経年変化するという視点のもとで選んだ素材を使い、熟練の職人たちの手で仕上げている。今季は定番のデニム加工に加え、ウールやキュプラなど、新たな素材にも積極的に挑戦。スポーティなアイテムや、オレンジやレッド、グリーンなどの差し色で、冬から春に向かっていく軽やかでポジティブな雰囲気を演出。

岡部 それはありますね。ものづくりの背景を知ると、より大切に着ようって気持ちにもなるし。ファンダムのあるブランドで言うと、僕は『MASU(エムエーエスユー)』も大好き。いい意味で軽さがあって、見ていて楽しいんです。よく見ると複雑なパターンだけど、パッと見た時にその重さを感じさせないような塩梅が絶妙。ブランドの在り方もなかなかユニークで、サンプルセールでパターンやプロトタイプ、お蔵入りになった一点ものなどを販売するんです。

クラシックを自由に再解釈する、軽やかな遊び心のあるデザイン

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MASU

Brand

ブランド名の由来は丁寧語の「ます」。日常的に使われる言葉でありながら決して価値を失わない「ます」のように、既成概念を再定義することで生まれる新しい量産品を目指している。服の型や伝統を尊重しつつ、現代らしい空気を纏わせることに重きを置いたアイテムが若い世代を中心に人気を博す。2026年秋冬シーズンは“SUGAR RIOT”をテーマに、ファッションを縛る既存のルールや価値観への反逆を表現。プレッピーやミリタリーといった異なる要素を自由に組み合わせることで、服の歴史や階級、ジェンダーの境界を再構築した。

柴田 普通なら隠すような裏の裏まで見せるYouTube的な発想が、すごく現代っぽいですよね。それが若者の心を掴む要因の一つなのかも。『mukcyen(ムッシャン)』も少し似たところがあって、デザイナーの木村由佳さんはもともとモデルやインフルエンサーとして活躍していた方。自分自身を表現の一部として広く発信しているところが、現代っぽくて面白いなと感じます。

岡部 繊維にビタミンEを練り込んだインナーを作ったり、他にはないことをしていますよね。SNSと相性の良いキャッチーさや、“可愛い”にいきすぎない繊細さを兼ね備えたデザインで、唯一無二だなと思います。

柴田 AIを活用したり、最先端の技術を取り入れたり、日本のファッション界に新しい風を吹き込んでくれるような存在。そういう意味でもボーダレスだなと感じますよね。

既成概念を崩し、違和感を美学に変えていく

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mukcyen

Brand

中国にルーツを持ち、学生時代からセルフィーという形式を通じてスタイリングやヘアメイクなど独自の世界観を発信してきたデザイナーの木村由佳が手がける。2024年秋冬シーズンにデビューコレクションを発表。構造と感覚、身体と衣服の間に生じる違和感や境界をテーマに服作りを行う。これまで中国の清代の小説やポーランド映画などを題材にしてきた中、この秋冬のテーマに選んだのはマリー・アントワネット。18世紀フランスの華やかな服飾に着想を得つつ、それをそのまま反映するのではなく、流行の根底にある精神を形にしている。

岡部 中国とアメリカ、日本の文化が織り混ざった『VIVIANO』もおすすめしたいブランドの一つ。2025年の春夏にリブランディングして以来、海外セレブやK-POPアーティストの間でも大人気です。

柴田 なんといっても、装うことに対してピュアなところがいい。「好きにドレスアップして何が悪いの?」「男の子がお花を身につけて何が悪いの?」と、無邪気な魅力がありますよね。『VIVIANO』のヴィヴィアーノ・スーさんもそうですが、最近のデザイナーはSNSの活用がうまい方が多いように感じます。海外セレブやスタイリストに直接コンタクトをとって営業したりだとか。

岡部 それはコロナ禍のいい影響なのかも。SNSの使い方が変わって、オンラインとリアルの繋がりがグッと近づいたというか。少し前まで、日本人は特に、“寡黙であることが美学”みたいな考え方があったと思うのですが、最近は「この人に自分の作った服を着てほしい!」という想いに対してピュアに動いているデザイナーが多いように感じます。「ファッションデザイナーはこうあるべき」というこれまでの固定観念をひょいっと飛び越えてくるような軽やかさがありますよね。

柴田 その軽やかさがあるからこそ、すごく派手なデザインのドレスでも、一目見て「可愛い!」って感じたお客さんが無邪気に着こなせるのかなって。『RESTIR』でも70代くらいの素敵なマダムに『VIVIANO』を買っていただいたことがあります。

国や性別、世代を超えて愛されるエッジーなロマンティシズム

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VIVIANO

Brand

アメリカで育ち、文化ファッション大学院大学出身のヴィヴィアーノ・スーが手がけ、2020年から東京コレクションに参加。色彩豊かなチュールやフリル、ロマンティックなシルエットを特徴としながら、自由な表現を追求する。レディー・ガガなどがステージ衣装として着用したことも話題に。今季のテーマは“Portrait of Her, Unnamed”。まだ何者とも定義されていない女性の姿をイメージし、異なる素材やシルエットを大胆にミックス。可憐な装飾性とシャープなテーラリングを行き来するデザインにより、自由な人物像を表現する。

岡部 えー、素敵! 世代を問わずに届く、ピュアな可愛さがあるんですね。あと、ここ数年いろんなジャパンブランドを見ていると、日本らしい要素への苦手意識が薄まっているように感じます。日本にルーツを持つファッションブランドでは長い間、着物や和柄など、わかりやすい日本的要素から距離をとることがよしとされてきたと思うんです。でも近年だと、例えば『SOSHIOTSUKI(ソウシオオツキ)』が和の要素をうまく昇華していて。’80年代の日本のサラリーマンのスーツに着想を得たアイテムを作ったりしているんです。

柴田 「キモノ」「サムライ」とかじゃない、リアルなジャポニズムって感じ。

岡部 『pillings(ピリングス)』がスーパーの「まいばすけっと」にインスピレーションを得たコレクションを発表していたのも面白かった。コンビニやスーパーに行く時の服装が、何より日本ぽいと。そうやってこれまでとは違う“日本らしさ”の捉え方をしているのも、最近のジャパンブランドの特徴かもしれません。

柴田 たしかに。今までとは違う、ここ数年の潮流ですね。

岡部 国内外のファッション業界の傾向としては、毎シーズン大胆にイメージを変えたり、シーズンごとにワードローブをごっそり入れ替えましょうっていうのではなく、“シーズンレス”や“トレンドレス”の流れが強いですよね。

柴田 そうそう。トレンドというものが、なくなりつつあるというか…。

岡部 同じブランドの最新コレクションと3年前のものを合わせても遜色がない、っていうことがよしとされていたり。シーズンやトレンドを気にせずに着回せる提案をしているブランドがすごく支持されている。

柴田 もちろん服はたくさん欲しいけど、全部をうまく着回すのもなかなか難しいですし。環境に配慮して過剰な生産やロスをなくすという意味でも、時代に合っているのかなと思います。

岡部 性別に関係なく着用できるジェンダーレスなブランドはこれまでも支持されていましたが、いま求められているのはシーズンレスでトレンドレス。できるだけ長く愛用できる、自分の定番になるようなものを提案できるブランドが、今の時代には強いのかなと感じています。

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取材、文・大場桃果

anan 2512号(2026年9月16日発売)より
Check!

No.2512掲載

ボーダレスカルチャー 2026

2026年09月16日発売

ジャンル、国境、世代など、既存の枠組みに囚われず、様々な垣根を越えて輝く人や事象に注目。様々な分野からアプローチした“ボーダレス”なトピックスをお届けします。

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