
Ⓒ岡崎京子/マガジンハウス
ananの55年の歴史の中で、初めて行われるマンガの公募。今回のテーマは、前向きになれる恋愛マンガ。第1回の選考委員を務めてくれる3名のクリエイターに、それぞれの選考基準、応募者へのメッセージを伺いました。
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第1回「anan新作マンガ大賞」を主催するのはアンアン編集部と、小社のマンガサイト「SHURO」の編集部。「SHURO」編集長の関谷武裕によると、
「アンアンは、20〜30代の女性たちのいま気になるもの、好きなもの、ときめくものに、ジャンルを問わず素直に飛びつく、そんな印象がある雑誌です。そこがますますボーダーレスになる今のマンガのエンタメ感と親和性があると思い、この賞を立ち上げました」
募集するのは恋愛にまつわる作品で、読後前向きになれるもの。これは、既存の作品の中から読者におすすめの作品を選ぶ、年に1度行われている弊誌の企画「ananマンガ大賞」の選考基準に則っています。
「とても素敵な3名に選考委員を務めていただけることになりました。マンガ雑誌で募集するのとは異なる才能に出合えるのを楽しみにしています!」
松田奈緒子さん「“こう描きたいんだ”という熱意を曲げずに、自由に描いてほしい」
いわゆる恋愛マンガは実は苦手分野という松田奈緒子さん。以前、女性向けマンガ誌で作品を描く際、その媒体が求める“主人公女子がかっこいい男子に恋をされて幸せになる”というタイプのストーリーが描けず、苦しんだ経験があるそう。
「ただ時代とともに、恋愛の意味や扱いも変わってきました。マンガの世界においても同様で、例えば主人公が他者の恋愛を見つめる物語や、あるいはアイドルへの思い、またアイドルの幸せを願う気持ちが描かれているような物語も、バリエーションの一つといえるかもしれません。今回の公募は恋愛マンガであることが応募の条件だそうですが、いわゆる定型の恋愛にこだわらず、何かを抱きしめたくなる気持ちやときめきを描いている作品で、選考委員をワクワクさせてほしいです」
いま世の中がどんな物語を求めているか、またどういうものがウケるか、といったことは考えなくていい、とも。
「きっと皆さんいろいろ勉強されて、メソッドやセオリーなども身につけられていると思います。もちろんそれも大事ですが、せっかくの公募なので、そういったことに囚われすぎずに、描きたいことを思い切り自由に描いてください。“私はこれを、こう描きたいんだ!!”という熱い気持ちこそが作家の個性ですから、そこは一切抑えないでほしいですね」
20代の頃、アシスタントをしながら、7年間何度も何度も同じ雑誌に投稿し続けたものの、そこではデビューが叶わなかった経験があるという松田さん。結果的にその雑誌ではなく、別の出版社への投稿から雑誌でデビューにこぎつけた。
「なので、あがきながらマンガを描いている人たちの気持ちは、私も痛いほどわかります。以前、今回のような公募の審査員をしたことがありますが、最終審査に残る作品はどれもみんな光るものがあるんです。その中で、選ばれる作品とそうではない作品に差があるとしたら、最後の一歩二歩のところを諦めず、自分に正直に描いているかどうか。本当に小さな差なんです。だからこそ、選考委員である私自身もその小さなところを漏らさずに読み取れるよう、しっかり応募作と向き合いたいです」
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松田奈緒子
まつだ・なおこ 長崎県出身。代表作に『レタスバーガープリーズ. OK, OK!』『重版出来!』など。現在、雑誌『Kiss』(講談社)で「非合法ロマンス」(第15回ananマンガ大賞準大賞)を連載中。
東村アキコさん「投稿者と同じくらいの熱量で私も応募作と向き合います」
これまで、数多くのマンガ賞で審査員を経験してきた東村アキコさん。今回も含めその役割を担うのは、マンガ家を夢見る後輩たちを育成するためという気持ちが強いそう。
「もちろん私も投稿経験があるので、何か月もかけて描いた作品が選ばれなかったときのつらい気持ちは知っていますし、私の周りの友達でも、何度も投稿して頑張ったけれども諦めてしまった子もいます。正直、初めて描いたマンガが通るほどこの世界は甘くないのは事実ですし、特に公募の場合、プロも応募してくるので、技術がある作品に目が行きがちにはなります。でも私は、まだデビューしていない将来性のある才能を見出したい。私も、応募する方々と同じくらいの強い気持ちで作品を見ますので、ぜひ送ってください。投稿すれば、たとえ通らなくても絶対になにか身になることがあります」
今回募集するのは恋愛が描かれているマンガ。それを聞いた東村さんは、最近の恋愛マンガへの思いを語ってくれました。
「一時期、韓国の恋愛ドラマが流行りましたが、私は『愛の不時着』など一連の作品の中に、一条ゆかり先生が描く作品に宿る“ゴージャスさ”や“あこがれ”的なニュアンスがある気がしました。恋愛ものの韓ドラがあれだけ人気を博したわけですから、大人の女性に恋愛マンガのニーズはあるはずです。また審査に関しては、私は“絵の巧さ”を重視したい。最近はサラッと読めるライトな作品も増えていますが、イラストエッセイ風ではなく、例えば背景までしっかり描き込まれている、マンガとしての熱量のある作品を期待します」
ananというと、昔から日本の女性を中心としたカルチャーを引っ張っているというイメージがある、と東村さん。
「いわゆるファッション誌ではなく文化発信基地的な雑誌という印象ですよね。そこでの賞というだけでも他のマンガ雑誌とは違うカラーの作品が来そうな予感がしますが、さらに今回は1回目ということなので、ますますいったいどんな作品が来るのか読めません(笑)。でも、そこはむしろポジティブに捉えているので、候補作を読むのが本当に楽しみです」
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東村アキコ
ひがしむら・あきこ 宮崎県出身。代表作に『海月姫』『かくかくしかじか』『東京タラレバ娘』(第6回ananマンガ大賞受賞)など。現在、雑誌『cocohana』(集英社)で「銀太郎さんお頼み申す」を連載中。
塚原あゆ子さん「オリジナリティを端的に描き出す、その力がある作品を待っています」
もともとマンガ好きであり、さらに実写化のための原作探しという意味でも、日々マンガを読んでいるという塚原あゆ子さん。その中で心に留まるのは、強いオリジナリティがあり、なおかつそれが端的に読み手に伝わる作品だと言います。
「オリジナリティとは、これまでだれも考えつかなかったアイデアのことですが、それは必ずしも未開拓の場所に埋まっているわけではありません。独自性は、作者と社会の接点、つまり“私はこれに興味がある”や“これが好き”という〈自身の思い〉を突き詰めた先に生まれるものだと思うので、ぜひそこを掘り下げてみてください。私の場合は、そのクリエイターでなければ描けない世界観であること、そしてその人が描く人生をもっともっと読みたいと思わせてくれることが、こういった公募では大事になってくると思います」
ドラマや映画でもテーマになることが多い“恋愛”。でも既存の恋愛観で描かれる物語のニーズは減っていると塚原さん。
「いま私が仕事をしている映像の世界では、“恋愛は男女がするもの”といった概念や、結婚をして子どもを産んで…という文脈で人生を語る作品は、どんどん過去のものになりつつあります。それよりも、好きな何かにワクワクしたり、ときめくことはすべて恋愛なんだ、という考え方が広まっています。そういった世界の中で、恋愛をどう捉え、新しい物語にするのか。私は、エンタメというものは人々が毎日を楽しく生きることを手助けする存在だと思っていて、今回の賞の話を聞いたとき、この賞が求めているのは“読んでワクワクし、元気になれる恋愛マンガ”なのだ、という印象を受けました。既存の価値観に縛られず新しい解釈で恋愛を描く。そんなマンガをぜひ読んでみたいと思っています」
スマホでマンガが読めるようになって約15年。作品数が増える中で、読者の心を掴む作品とはどんなものなのか。
「一読で物語や世界観が把握でき、さらに作品の魅力が端的に表現されている。その上で、もっと読みたくなる…。そんな作品を、私だけではなく世界中の人が待っていると思います」
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塚原あゆ子
つかはら・あゆこ 埼玉県出身。「TBSスパークル」ディレクター、プロデューサー。テレビドラマ、映画で活躍。近年の主な監督作品に『MIU404』『最愛』、映画『グランメゾン・パリ』『ラストマイル』など。写真・KAZUYUKI EBISAWA(makiura office)
第1回「anan新作マンガ大賞」募集要項
漫画であること。「恋愛もの」であること。プロ・アマは問いません。
募集原稿- 16〜40ページ程度の読切もしくは第1話の完成原稿であること。
- ラブストーリーであること。
- かっこいい、素敵な恋の相手、あるいは主人公が出てくること。
- 読んだ後に前向きな気持ちになれること。
- 商業誌未発表作品であること(※同人誌や個人サイト、Pixivなどで発表された作品の場合はその旨を明記してご応募ください)。
2025年6月30日(月)
選考委員- 松田奈緒子(漫画家)
- 東村アキコ(漫画家)
- 塚原あゆ子(演出家)
- 大賞…賞金50万円+ananwebとSHUROに受賞作掲載+連載確約
- 準大賞…賞金25万円+ananwebとSHUROに受賞作掲載+連載検討
- 入選…ananwebとSHUROに掲載検討(掲載時は原稿料をお支払い)+連載検討
ananwebとSHUROにて、選考経過、結果を発表します。
応募方法- 郵送もしくはメールにてご応募いただけます。
- いずれの応募にも〈応募用紙〉が必要となります。