お弁当を通して出会う、訳ありな神様と人間たち。
かわいさのなかに残酷さが顔をのぞかせる、不思議なマンガだ。謹慎中の神が弁当屋になるという風変わりな設定に、まず惹かれてしまう。
「自分が飽きたら元も子もないので、好きなものを描きたいなと。そこから“人外”が描きたい、弁当を詰める動画が楽しい! という感じで思いつきました」と作者のイシコさん。
古くから人々に信仰されている神ソランジュは、戦争を引き起こした罰として謹慎処分を言い渡され、一日一善をモットーとする弁当屋のレイニーとして生きている。善行を積むことで神の力を取り戻せると考えたからなのだが、弁当箱という型にいろんな形のおかずをバランスよく、隙間なく埋める過程が、人間界を創造する神の目線と重なっていく。
「レイニーの弁当は、おかずは毎日違うけど玉子焼きだけはいつも同じ味付けになっています。これはレイニーが甘い玉子焼きの作り方しか知らないからなのですが、生きていくうえで冒険や挑戦は必要だけど、変わらない友人や落ち着ける家がある幸せを表している気がします」
弁当屋の常連となる城勤めのライラックと、その弟のナタリオ。あるいは歌手を夢見て酒場で働く同居人のダリアなど、さまざまな人物がレイニーの現在、そして神として崇められていた過去と絡んでくる。
「読む人になるべくストレスを与えたくないので、シリアスなシーンはきちんと描くけれど、息継ぎをするようにふざけたコマを挟んでいます。あとキャラクターの呼吸みたいなものも意識しているつもりです。作者が言わせるのではなく、話す前に一呼吸置いたり、相手を思って言葉を選ぶ間を作ったりして、そのキャラクターが考えて喋っていると感じてもらえるよう努力しています」
レイニーとソランジュのビジュアル的なギャップや、感情がわかりにくいレイニーの眼差しなど、シンプルにデフォルメされた絵柄も、余白を想像していく楽しさがある。
「たまにレイニーの前髪が逆を向いているのは意図的で、ソランジュとしての感情が大きく出ているときにこうなります。こういった、ストーリー的に重要ではないし、説明するほどでもない小ネタを仕込むことはよくあります。といっても、作画ミスもあり得るので、あまり真に受けないでほしい気もします(笑)」
展開が気になりつつ、優しい世界にこのまま浸っていたい思いも。
「結果はどうあれ、それぞれの愛の形を描いていけたらと思ってます」
PROFILE プロフィール
イシコ
マンガ家。2022年、「商人とタマゴ」で第87回ちばてつや賞佳作を受賞。2023年、読み切り「魔女たちの心臓」を「ヤンマガWeb」にて発表。
INFORMATION インフォメーション
『邪神の弁当屋さん』1
戦争を引き起こした罰として謹慎中のレイニー。邪神と呼ばれた彼女が、弁当屋として人間界で善行を積むファンタジー。おいしそうなおかずも要チェック! 講談社 792円 Ⓒイシコ/講談社
anan2437号(2025年3月5日発売)より