共鳴し合う“舞台”という場所。
林 遣都×段田安則×浅野和之
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写真左から、段田安則さん、林遣都さん、浅野和之さん。
まもなく開幕する舞台『やなぎにツバメは』で共演する林遣都さん、段田安則さん、浅野和之さん。2016年の初舞台以降、演劇の魅力に惹かれ続けているという林さんにとって、このおふたりと、大竹しのぶさん、木野花さんという舞台経験豊富な先輩たちとの稽古は面白く刺激的なよう。
――まずは林さんに、お二方と現在稽古をご一緒していての感想や印象を伺いたいのですが。
林:うまく言葉にできるかわかりませんが、自分としては、段田さん、浅野さんをはじめ、大竹さん、木野さん…おひとりずつと共演させていただくだけでもありがたいのに、みなさんと同時にご一緒できるのが本当に夢のような気持ちです。20代半ばから舞台をやらせていただくようになり、舞台の世界にはすごい方たちがいっぱいいるんだなと実感していて。そんななかでも、以前から僕が素敵だなと思っていて、目標でもあり憧れでもある方として名前を挙げさせていただいているのが今回共演するみなさんです。なので、稽古場で一緒に過ごせる時間は自分にとってすごく貴重なんです。
段田:林くんとは、これまで2回舞台でご一緒していますが、真面目で一生懸命な方という印象です。役に取り組むときに、どうやったら自分がカッコよく見えるかなんてことは考えず、どうやったらその役になれるかを真剣に考えている姿勢にずっと好感を持っていました。
浅野:記憶を辿ると、僕が最初に共演したのはおそらく遣都が20歳くらいの頃だったかと…。
林:ドラマでご一緒したんですよね。ただ、僕としては2本目の舞台『子供の事情』(2017年)で共演させていただいたのがすごく印象的で。
浅野:あのときから思っていたけど、お芝居に対してすごく前向きだし真摯に臨んでいる印象はありました。とくに最近は、さらに一層お芝居に興味を持って、いろいろと模索している姿に、とても素敵な俳優に成長しているなと感じています。僕らみたいにカッコよく見せないとカッコよくならない人とは違うよね(笑)。
段田:いや、浅野さんはカッコいいですよ。僕が野田秀樹さんの夢の遊眠社に入った頃、観に行った舞台に浅野さんが出られていて、動きが素晴らしく素敵な俳優さんだなと憧れましたから。その後、浅野さんが遊眠社に入られて、お芝居は素晴らしいけど、親しくしゃべらせていただくうち…。
浅野:メッキがバラバラと(笑)。
段田:全部剥がれました。話すと「なんだこのジジイ」と思うことが多いんですけれど(笑)、浅野さんの芝居を見て、「これは僕にはできないな」という気持ちになることはよくあります。
浅野:僕が尊敬していた役者さんで亡くなった方なんですけれど、「段田の芝居を見ろ。ちょいと斜めに芝居をするところが面白いんだよ」と言われたことがありました。それは真面目にやっていないという意味じゃなく、ちょっと斜に見る余裕というか。そうすると役がもっと深く見えたり、芝居全体が少し変わって見えてくる、ということを伝えたかったんだと思います。当時の自分はただ真っ向からやるばかりだったから勉強になりましたし、そういう匙加減ができるところとか、本当に段田さんはすごいなと今でも思っていますよ。
段田:ずいぶん褒めていただいて恐縮です(笑)。でも言われると確かに、どこかしら斜めにしているところがある気はします。
林:僕は基本的に、迷ったときも自分で必死に考えるタイプですが、以前、行き詰まった際に浅野さんに助言をいただいたことがあるんです。何かは具体的には言いませんが、今もドラマの現場でとんでもない武器になっています。ちなみに言えることでいうと、30歳のときに膝を痛めて、そのときに浅野さんから教えていただいたストレッチを今も続けています。それをやるようになって体を痛めなくなりました。
浅野:そんなことあったね。
林:稽古前のウォーミングアップのときにストレッチしているところを動画に撮らせていただいたのですが、共演の役者さんがバラバラと入ってくる中、キムラ緑子さんが「今日も元気だ、芝居が楽しい!」って大声で言って入ってこられて。そこも含めて、僕のお守りというか宝物です。
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――段田さん、浅野さんからアドバイスを受けたという俳優さん、結構多いですよね。以前、荒川良々さんが初翻訳劇で苦心しているときに、浅野さんからスーツと革靴で稽古するようアドバイスされたとおっしゃっていました。また鈴木浩介さんは、段田さんのアドバイスを受けて「作品の中で役として自由になれるよう、どんな状況でもセリフが言えるようになるまで覚える」とおっしゃっていて。先輩として、後進を導くという意識を持たれているのかなと。
段田:それぞれのやり方やセンス、といった世界だから…。
浅野:聞いてこられない限り、こちらから言うことはないですね。もし同じ劇団内とかならば言うかもしれないけれど。
段田:若いときは、考えるより勘でやっていた部分が多かったですが、最近は、自分はどうやって芝居しているのかなと考えたりするんです。たとえば、自分が心地いいと感じるスピードより0.2秒早くしゃべるようにすると、芝居が気持ちよく進んでいく感覚があるな、とか。まあ聞かれたら話しますけど、僕がいいと思っていても相手に合うかはわからないですからね。それにしても、浅野さんのはいいアドバイスですね。
浅野:あのときは、間違いなく彼にとって転機になる役でしたし。ロシアの商人の役ですから、ジャージとスニーカーでやる役ではないなと思い、伝えておこうかなと。
――何を着て稽古するかも役に反映されるものなんでしょうか?
浅野:僕は若いときに安部公房スタジオというところで、そういうことを教わってきたんです。それゆえ、役を外から造形するというのは、今も自分の役創りの基礎になっています。
段田:ただ、ヒントはいくらでも渡せるけれど、そこから何をキャッチするかは人それぞれですし、結局はいろんな俳優さんを見て、学ぶ世界だと思います。
浅野:見て、どこをキャッチするかもその人のセンスですよね。
林:見て学べたらとは思っているんですけれど…。
段田:最近、いい芝居に上手い下手はあまり関係ないような気もしてきているんです。自分の守備範囲の中で役をやろうとするんじゃなく、役に向かって悩みながらもなんとか近づこうとしている俳優を、いいなと思うようになっています。そういう姿勢って伝わりますからね。林くんもそういう姿勢が見える俳優ですよね。ただ、もっと自分の殻を破ってみてもいいかもと思うときはあるかな。失敗してもいいから、枠をはみ出るくらいジャンプしてみたら、と。
林:こういうことを言っていただけることが本当にありがたいです。たしかに立ち稽古の際に、演出家の方からダメ出しされないような取り組み方をしている感じは若干あります。たぶん、理解しているなと思われたいんだと思います。
段田:それはありますよ。今回の演出家は怖いから、今日は怒られないようにしよう、とか(笑)。
浅野:失敗したくないって、若いときは思ったりもするけれど、歳を取ると気にならなくなるんだよ。経験や年齢を重ねてわかることも多いと思うから、今の真面目さは失わずにいてほしいね。
林:ありがとうございます。
PROFILE プロフィール
段田安則さん
だんた・やすのり 1957年1月24日生まれ、京都市出身。近作に、大河ドラマ『光る君へ』、ドラマ『ブラックペアンシーズン2』、舞台『リア王』『夫婦パラダイス』など。昨年、紫綬褒章を受章した。
林 遣都さん
はやし・けんと 1990年12月6日生まれ、滋賀県出身。近作に、舞台『帰れない男~慰留と斡旋の攻防~』『死の笛』、ドラマ『VIVANT』『おっさんずラブ‐リターンズ‐』などがある。
浅野和之さん
あさの・かずゆき 1954年2月2日生まれ、東京都出身。近作に、連続ドラマW『ゴールデンカムイ‐北海道刺青囚人争奪編‐』、舞台『What If If Only‐もしも もしせめて』『桜の園』などがある。
INFORMATION インフォメーション
『やなぎにツバメは』
東京・3月7日(金)~30日(日)紀伊國屋ホール 大阪・4月3日(木)~6日(日)梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ 作/横山拓也 演出/寺十吾 出演/大竹しのぶ、木野花、林遣都、松岡茉優、浅野和之、段田安則 シス・カンパニーTEL:03・5423・5906(平日11:00~19:00)
anan 2436号(2025年2月26日発売)より