西野亮廣「圧倒的に面白いことをしようと思ったら、新しいビジネスモデルを作る必要がある」

エンタメ
2025.03.02

西野亮廣さん

人の心を動かすコンテンツやその届け方について、圧倒的な思考量と実践に基づく発信が注目されている西野亮廣さん。自身のエンタメを多くの人に、より長く愛してもらうために、彼が意識していることとは?

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今年1月、西野亮廣さんに関するビッグニュースが届いた。期待された『ボトルジョージ』の第97回アカデミー賞短編アニメーション部門ノミネートは惜しくも叶わなかったが、そのわずか数日後にブロードウェイの大作ミュージカル『オセロ』の共同プロデューサーを務めることが発表されたのだ。25歳で絵本制作の道を模索し始め、約19年。周囲の予想を遥かに上回る活動を繰り広げ、日本のエンタメが持つ可能性を拡張し続ける西野さん。そんな彼の創作のモチベーションとは?

「実をいうと、強烈な衝動のようなものはあまりないんです。でも、見たことのないものを見たいとか、行ったことがないところに行きたいという想いは常にあります。ただ、その想いはちょっと厄介でもあって。何かに挑んでそれがうまくいくと、次を目指したくなっちゃう。“ここはもうわかったから、次は映画をやろう。その次はミュージカル業界に行ってみよう”って感じで、自分がよくわからないところに行くのが楽しいんですよね。それに振り回されるチームのみんなは可哀想ですが…(笑)」

軽やかにフィールドを変えていきながらも、その主軸となるのは常にエンターテインメント。多方位にアンテナを張り巡らせている西野さんが、とりわけエンタメにこだわり続ける理由を尋ねた。

「小学生の頃、教室でテレビ番組のマネをしたんです。そしたら当時好きだった子が話しかけてきてくれて、“こんなことあるんだ!”と無茶苦茶嬉しかった。その経験でエンタメが持つ力を実感して、今に至るまでズルズル続けているという…(笑)。というのも、やっぱり僕は人が楽しそうにしてくれるのが好きなんですよね。だからリアルのお客さんが目の前にいるっていうのは自分にとって重要で、今も客席を見るのがめっちゃ好き。芸人としてのキャリアのスタートも地下の劇場だったので、劇場とつながっていると幸せなんです。だから作ったコンテンツは最終的に劇場に落とし込みたいし、いつか365日やっている常設小屋を作りたいという想いがあります」

作品を通して人とつながることに喜びを感じるマインドは制作の手法においても共通しており、代表作の『えんとつ町のプペル』は絵本としては珍しかった分業制を採用した点も話題になった。

「絵本って一人でコツコツ作るイメージがあるけれど、文化祭みたいにみんなであれやこれや言いながらやるのって楽しいじゃないですか。映画やミュージカルのように制作チームが大きくなるとそのぶん問題や面倒が増えますが、観られるもののサイズも当然大きくなるわけで。自分はそもそも、デカいものが好きなんですよ。原体験は子供の頃に家族とよく見に行った太陽の塔で、夜にアレを見るとめっちゃ異様で怖いんです(笑)。それだけ大きなものを作るには、ものすごくたくさんの人を動かさなきゃいけない…ってことを考えると、デカさに対するリスペクトが凄くて。自分の中でデカいものは圧倒的に正義ですね」

チームの規模が大きくなるほど、それによって見える景色も広がっていく。そう考える西野さんにとって、制作時のクラウドファンディングもチーム作りの一環に。作る側と観る側を分断させず、つながりの数を増やしながらより大きな展開へと結びつけていくスタイルは、彼の強みともいえる。

「この流れが出来上がったのは、2013年に開催した個展がきっかけでした。当時は絵本作家としての知名度がなかったこともあり、集客が大変で。その一方で、個展を一緒に作ってくれるボランティアスタッフさんは一瞬で集まった。その時に、みんなお客さんとして参加するよりプレイヤーとして参加する方が意欲的になることに気づき、“コレだ!”と思ったんです。エンタメの頂点に輝くディズニーは、作ったコンテンツを全世界の70億人に届けるのが最終ミッション。僕はそこを狙うのではなく、“70億人で作る”っていうことをやってみようと。自分で握ったおにぎりが結局一番美味しいのと同じように、誰だって自分が作った作品が一番可愛いもの。70億人で作れば、70億人がそのままお客さんになるなと考えました」

今ではビジネスの立ち上げにクラウドファンディングを利用するのは一般的だが、始めた当初は理解を得られずに激しいバッシングを受けたことも。「きちんと説明をすれば意図が伝わると思ったけれど、見通しが甘かった。皆さんに納得していただくのに10年近くかかっちゃいました」と語るが、叩かれることも厭わずに前に進み続けるその姿勢からはエンタメ界を背負っていく覚悟が感じられる。

「海外と日本のエンタメを比べた時に何が負けているのかを考えてみると、やっぱり予算。映画だって、予算がなければ用意できる演出が制限されて、書ける脚本の幅が狭くなる。そんなの悔しいじゃないですか。それと同時に、日本には才能がある人もやる気がある人もたくさんいるのに、そういったお金の問題で才能に蓋をされてしまうことが多いなとも感じたんです。僕は日本のクリエイターの方々の繊細で丁寧なお仕事が好きなので、現状を黙って見てられないんですよね」

自身にとどまらず業界全体を見渡す視座の高さは、チームでの制作を続けてきた西野さんならでは。

「今の僕は若い頃に比べると承認欲求的なものがあまりなく、そんなことより“なんか面白いものが見たい!”という想いの方が強いんです。だから、作るのは自分じゃなくてもいい。せっかく魅力的なクリエイターさんがこれだけいるんだから、お金の問題を解決して面白いものを作ってほしい。そんな想いから、“それをやりたいなら、こういう方法をとってみてはどうですか?”みたいな感じでついお節介を焼いちゃいます」

物事を俯瞰で捉えるスタンスは、自身の制作におけるこだわりにも反映されている。

「コンテンツについて議論する時は、美術さんや照明さんといったクリエイティブのスタッフと、お金まわりを担当するスタッフの両方に同席してもらうのが僕らの決まりになっています。なぜなら、全ての表現はビジネスモデルが先立つ中で生まれるものだから。例えば、YouTubeという表現が浸透したのは、スマホがあったからですよね。つまり、圧倒的に面白いことをしようと思ったら、新しいビジネスモデルを作る必要があるんです。舞台だって、これまでのようにチケットとグッズの売り上げで制作するとなると、予算内で使える装置はある程度決まってきます。でも、さらに何か別のものを売る手立てがつけば、予算が増えて新しい機材を用意できる。機材が増えて可能性が広がることで、クリエイターさんに新たなアイデアが生まれる…という感じで、クリエイティブとビジネスモデルは常にワンセットで存在すると思っています」

観客やクリエイターはもとより、新技術やビジネスモデルといった今の時代の“リアル”とも積極的につながって圧倒的に面白いものを作り出す。それが、西野さんが掲げる目標だ。

「誰もやったことがない表現をやるというのが、僕にとってのゴール。そこに向かうには、新しい土台を作るところからやっていかないといけないんですよね」

ともするとビジネス方面での手腕ばかりが注目されがちだが、その根底に存在しているのは常に純粋な衝動。こちらが投げかける質問に対し、澱みなく、そして惜しみなく回答していく姿からも、ただ真っすぐに自身が成すべきことをやってきたブレのない生き方が伝わってくる。余計な感情や情報に惑わされることなく、先へ、先へ。自ら設定したゴールに向かって突き進む真っすぐさこそが、西野さんの足元を照らし、時代を見通す力へとつながっているのではないだろうか。AIをはじめ新たな技術が続々と誕生している今、コンテンツはさらに多様化していくことが予想される。そういった流れの中で今後エンタメはどのような展開を迎えていくのか、西野さんの考えを尋ねてみた。

「時代の流れを踏まえた上で、僕らのチームがいま注意していることが2つあるんです。1つ目は、AIが生成できないものをどう作るかということ。例えば、“時間”。樹齢100年の木はAIでは作れないじゃないですか。すぐに生成できてしまうからこそ、“プロセス”を共有することもできないし、“思い出”も作れない。そういったAIに作れない要素を取り入れることが、今後のコンテンツ作りの鍵に。自分のコンテンツでいうと、『ボトルジョージ』をスナックで上映することで生まれるお客さん同士の交流は、まさに“思い出”そのもの。次に出版する予定の絵本も、大手ECサイトではあえて販売せず、山奥のとある終着駅に設置した自動販売機だけで売ろうかなと考えていて。お子さんと親御さんが山奥まで買いに行くことで、絵本に“思い出”が乗っかる。そういった要素が入っていないエンタメは、時間の問題で淘汰されてしまうと思います」

そして、「こちらの方が重要かもしれません」と前置きをして語った注意は、より実践的な内容に。

「今後のコンテンツ作りにおいては、開発よりも運用が重要になると思います。コンテンツが少ない時代は新作を作ることに価値がありましたが、様々な手法がある現代はオリジナル作品が無数に誕生して埋もれてしまう。それをわかった上で僕たちはどうしたって新作を作らずにはいられないので、ならば運用というところに目を向けないと…ってことですね。作ったコンテンツを再リリースしたり、別のところに持っていったりする際に鍵を握るのが“権利”で、ポケモンやスーパーマリオのように世界的にヒットしているコンテンツはやっぱり運用がうまくいっているんですよね。なので、僕たちは“運用できるものしか作らない”と決めているんです。もちろん、古びることのない普遍的なコンテンツを作るのは大前提で、そこから逆算することで“何回見ても面白いと感じてもらうために、脚本上のサプライズは禁止”といったルールが作られていきます。その上で、自分たちが権利を持って運用できるようにしておく。お金を動かすプロデューサーとクリエイターをワンセットで考えるのは、そういう理由からなんです。…ってことで、最後はめちゃくちゃ具体的な話になっちゃいましたが(笑)、コンテンツが持つ力をレーダーチャートで表した際に、運用力という項目の高さは今後かなり重要になっていくはずです」

PROFILE プロフィール

西野亮廣さん

にしの・あきひろ 1980年7月3日生まれ、兵庫県出身。’99年にお笑いコンビ、キングコングを結成。2009年に『Dr.インクの星空キネマ』で絵本作家デビュー。映画やミュージカルの制作にも携わり、クリエイターとして国内外で活躍中。

写真・川村将貴 スタイリスト・鹿野巧真 ヘア&メイク・櫻井華奈(HITOME) 取材、文・真島絵麻里

anan2436号(2025年2月26日発売)より

MAGAZINE マガジン

No.2436掲載2025年02月26日発売

つながる世界 2025

“好き“でつながるママタルトの大鶴肥満さん×真空ジェシカのガクさん、井上咲楽さん×甲斐みのりさん、林遣都さん×段田安則さん×浅野和之さんが共通の“好き“を通じてそれぞれの独自のつながりを語るほか、いまや世界で人気の西野亮廣さん、中島美嘉さんが海外で成功するためのヒントを披露。身近なつながりから、スケール感あるつながりまで、幅広く紹介します。

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