【俳優】心の内に、熱さと深い業を抱えた役者になりたい。
「この10年ほど、改めて一から芝居を立ち上げ直したくて、本を読んだり、考えを深めたり、芝居を始めた頃に立ち返って学び直しているんです。まっさらになって芝居を学ぶの、すごくおもしろいですよ。ワークショップなんかにも挑戦しています、実は(笑)。いい役者になりたいんです。僕が憧れるいい役者って、怖いんですよ。僕も、業の深い、燃えたぎる何か…つまり、修羅のようなものを抱えている、そんな役者になりたいと、ずっと思っています」
【声優】人生と努力の積み重ねで、声も成長をするんです。
「ここ数年、例えば『呪術廻戦』など、特にアニメは自分が出演した作品が海外の方に観てもらえることが増えてきて、それがすごく嬉しいです。個人的には、声も成長というか、変化するものだと思っていて。アフレコでいろんな声を出したり、忙しくて眠れない結果、声がガサガサになったこともあります。よく人生は顔に出るといわれますが、声にも人生は出る。僕は、それはかっこいいことだと思っています。この先もこの声で、いろんなキャラを演じたい」
【監督】監督業や作品を通じて自分の気持ちを表現したい。
「10代の頃から映画を撮りたかったのですが、特に僕はカンヌでパルムドールを獲っている作品に感銘を受け、そこからさらに撮りたいという気持ちが強くなった。僕は社会に対する思いや考え方を、作品を通して表出させたい。今は長編のプロットを書いていて、その作品でカンヌに行きたい…って、言っちゃった、恥ずかしい(笑)。でも、僕は言わないと火がつかないタイプなので。カンヌに行けることになったら、ぜひananも取材に来てください(笑)」
芝居はおもしろくて難しい。だからこそずっと夢中なんだと思う。
舞台からキャリアをスタートさせ、アニメーションや洋画の吹替、最近は実写作品での活躍も目覚ましい津田健次郎さん。仕事のフィールドが広がったきっかけを伺うと、2020年のNHKの朝の連続テレビ小説『エール』のナレーションを担当したことが一つ、と答えてくれた。
「NHKのあの時間の作品は、全国津々浦々、老若男女問わず見る方が本当にたくさんいらっしゃる。それまでも、声優として僕の声を認知してくださっていた人たちはたくさんいらしたと思うのですが、『エール』以降、それまでとは別の層の方々からも気にしてもらえるようになった、そんな実感がありました」
また、もともと活躍していたアニメーションというジャンルの立ち位置の変化も大きかったとか。
「僕らが子供の頃はアニメーションというと、子供か、アニメが好きな大人が観るもの、という感じだったと思うんです。でもこの10年ほどでアニメーションが限られた人たちのものではなくなり、さらにコロナ禍でもっと外の世界に広がっていった印象があります。アニメの仕事が多かった僕にとっては、時代の後押しもあったのかもしれません(笑)」
キャラクターの絵に合わせて声だけで演技をする声優業、自分の体すべてを使う実写映像作品や舞台。どちらも〈芝居〉ではあるけれど、表現の仕方も、難しさは異なるのでは。そんな素人質問をぶつけてみると、津田さん的には「ジャンルによって何かが変わる、ということはない」とのこと。
「確かにスタートは舞台ですが、そもそもは“芝居がしたい”という気持ちから始まっているので、僕にとってはどのジャンルも同じ。ボーダーラインはない。“アニメーションはキャラクターがデフォルメされている”という方もいますが、実写でもそういった芝居を求められることはありますし、逆にアニメーションですごくフラットな芝居をすることもある。僕的には、作品ごとに、あるいはキャラクターごとに芝居を考える、という感じなんです。異なるフィールドに行くことに対する緊張はありますが、〈お芝居〉と名がつくものであれば、変わらない…というか、変わっちゃいけない気がしていて。ジャンルによって道具の使い方は異なりますが、常に芝居というものの本質を目指すことに、違いはないですね」
俳優としての津田健次郎を多くの人が知った作品といえば、警視庁の刑事を演じた、2021年放送のドラマ『最愛』。津田さん自身にとっても、印象的な作品だったそう。
「この作品で出会ったプロデューサーさんとチーフディレクターさんが、キャラクター、物語、スタッフ、キャストなど、作品を構成するすべてに対して愛情が深かった。現場ですでにそれを強く感じていたんですが、結果的にとてもいい作品になったと思っていて。ものづくりの原点である“作品を良くするのは愛である”ということと、“愛を持つだけでなく、それをきちんと伝えること”の大切さに、改めて気がつけたという意味でも、この作品への出演はとても大きな経験でした。僕は役者として、演じている役やシーンに対してしっかり愛を注いでいかなければ、と思いましたね」
おそらく今、ひっきりなしに出演依頼が舞い込んでいるであろう状況の中、津田さんはどんな作品に「出たい!」と心を動かされるのか。
「まず基本的に、僕はすごく欲張りなんです。アニメーションもやりたいし、映画もドラマも出たい。そういう意味で言えば、バランスということは全然考えていないですね(笑)。どんな作品に出たいというよりも、いい仕事をしたい、と思っていて…っていうと、抽象的ですよね。そもそも、何をもって“いい仕事”とするかって問題もありますし。強いて言えば、クオリティ、かもしれません。例えば僕はホラー映画が苦手なんです、怖いものが嫌いなので(笑)。でも、例えば『ゲット・アウト』や『NOPE/ノープ』のジョーダン・ピール監督だったり、『ミッドサマー』や『ボーはおそれている』のアリ・アスター監督から声をかけてもらったとしたら、観るのはもちろん出るのも怖えぇけど(笑)、そのクオリティだったらやるべきだと思います。苦手だったり、今まで興味がそれほどなかったジャンルの作品でも、食わず嫌いをしないでやっていきたい。あ、だから逆に、“最近津田さん忙しそうだから、無理だろうと思って声をかけなかった”と、あとから聞くことがまれにあるんですが、それ、めちゃくちゃ嫌なんですよ…。とりあえず気軽に声をかけてください(笑)」
20歳で芝居の道を志し、現在52歳。振り返ると、10年ごとにターニングポイントがあった、と津田さん。
「30歳でようやく芝居で食べられるようになり、ある程度経験を重ねて40歳を越えた頃、少し力を抜くことができた。そこで改めて、芝居に対して初心に返ろうと思ったんです」
その“初心”とは、“演じるけれど、演じない”というもの。
「この世界に入ったときから、“芝居をするとはどういうことなのか”についてずっと考えていて。矛盾があるんですけれど、僕にとって理想の芝居とは、“芝居をしない芝居”なんですよね。うまく言えないんですが、スポーツ選手がゾーンに入っている、みたいな状態というか…。それに近い感覚を目指したいんです。でもねぇ、40歳でそこに気がついてから10年、ますます芝居が難しくなってます(笑)。もちろん楽しいんですが、楽しいからこそ難しい」
ここからの10年は、これまで培ってきたものを捨てていく作業が必要になる、とも。
「必要なものだけを持って、シンプルな芝居をしたいし、シンプルな人間になりたい。でもきっとそれって、積み上げることより、難しいことな気がします。でも、楽しみです」
そして津田さんのもう一つの大きな夢が、監督として映画を作ること。もともと芝居に目覚めたきっかけが映画で、10代の頃にミニシアター系の作品にたくさん触れたことで、さらに深く深く夢中になった。そしてこの10年、映画を撮るというフィールドにも少しずつ種を蒔き、思いを育ててきた。
「40歳くらいから、雑誌を作ったり舞台を作ったり、MVを撮ったりと、ジャンルを問わずいろんなことに挑戦する中で、最終的にはやっぱり長編映画を撮りたいという思いが明確になりました。いつか自分の作品を、海外の人にも観てもらいたい…それが今の僕の夢です。でもねぇ…、僕は演技に関しては結構大胆なところがあって、不安があっても“やっちゃえ!”ってタイプなんですが、撮るとなると、そんな余裕は全くなくなるし、さらに自分の芝居にOKなんて絶対出せない…。でも、そういうところも克服して、できれば来年、難しくても2026年には、長編を観せられるように頑張ります(笑)」
つだ・けんじろう 1971年6月11日生まれ、大阪府出身。声優、俳優。声優として『ラーメン赤猫』『呪術廻戦』『極主夫道』『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』シリーズほか多数のアニメ作品、『スター・ウォーズ』シリーズなどの洋画吹き替え、多ジャンルのナレーションを担当。第15回声優アワード主演男優賞受賞。またドラマ『グレイトギフト』、『映画 マイホームヒーロー』ほか俳優としても広く活躍している。
ジャケット¥66,000 パンツ¥33,000 シューズ¥72,600(以上ラッド ミュージシャン/ラッド ミュージシャン 原宿 TEL:03・3470・6760) シャツ¥41,800 ベルト¥22,000(共にガラアーベント/サーディヴィジョンピーアール TEL:03・6427・9087) サングラス¥48,400(アイヴァン/アイヴァン 東京ギャラリー TEL:03・3409・1972) その他はスタイリスト私物
※『anan』2024年6月5日号より。写真・森山将人(TRIVAL) スタイリスト・藤長祥平 ヘア&メイク・ハラタタケヒコ(Artsy Life)
(by anan編集部)