【近藤聡乃先生】シンプルな言い回しが、登場人物をリアルに見せる。
マンガ、アニメーション、ドローイング、油彩など多岐にわたる作品を国内外で発表し、2008年からニューヨーク在住の近藤聡乃先生。
「エッセイ『ニューヨークで考え中』も、もちろんいいのですが、とにかく代表作の『A子さんの恋人』のセリフが素晴らしい! 決して凝った言い回しではないのに、キャラクターが確かに存在して、目の前で喋ってくれているような温度感があります。このセリフのリアリティが、登場人物みんな知り合いであるかのような感覚、知り合いの恋愛相談を聞いているような感覚を導いています」(青柳さん)
『A子さんの恋人』2巻
コミカルからの、本心。ギャップにやられる。
NY帰りのA子を中心に、大人になりきれない男女を描く。「元恋人A太郎と、NY在住でアメリカ人の現恋人A君との三角関係もので、これはA君が愛を吐露する場面。本エピソードは前半がコミカルなA君で進むため、ギャップで余計に胸を打たれます。A君との会話は英語で(マンガは日本語)、それゆえの敬語が、急に静かな雰囲気になるようでいい」(青柳さん)。
全7巻 各792円/KADOKAWA ©近藤聡乃/KADOKAWA
『A子さんの恋人』7巻
若い時の絶望を、痛みとともに乗り越えて。
同じく『A子さんの恋人』で友人U子のセリフから。「作品の中で一番印象に残っているセリフがこれ。本作は、時にはボタンを掛け違えてしまうことがあるというクリエイティブの才能にまつわるお話でもあります。若い時は絶対的に感じて絶望してしまうものを、時間の経過と成長で乗り越えていく、チクッとした痛みを受け入れて前を向くようなこのセリフは、いつ読んでもうるうるします」(青柳さん)
©近藤聡乃/KADOKAWA
青柳美帆子さん ライター。女性向けカルチャーやエンタメを得意領域とし、書籍、雑誌、Webなどで幅広く執筆。月1回、ありまよさんと雑談ツイキャス「給料日ラジオ」を配信。X(旧ツイッター)は@ao8l22
※『anan』2023年10月11日号より。文・𠮷川明子
(by anan編集部)