文・竹中奈織
健康診断や人間ドック、必ず知っておきたい意外な注意点
皆さんは定期的な健康診断や人間ドックは受けていますか?(※1)
令和元年(2019年)の国民生活基礎調査によると、1年以内に健康診断や人間ドッグを受診した男性のうち20代は70.9%、30代は77.9%、40代は81.4%となっており、女性では、20代は65.9%、30代は60.5%、40代では71.5%と明らかに女性の受診率が低いことがわかります。受けなかった理由として最も多かったのが、心配な時はいつでも医療機関を受診できるため、次いで、時間がなかったことが挙げられていました。
さらに近年ではコロナ禍で、健康診断の受診率が低下してしまい、それに伴い、在宅太りや運動習慣の減少によりさらなる健康の危機がこれからあるとも考えられています。令和2年の政府の統計による定期健康診断結果(※2)では、何らかの異常があった人の割合は過去最高の58%という非常に悪い値でした。20代、30代でも異常は30%~40%程度の割合で見つかっていることが多く、年1回の健康診断や人間ドックの重要性がここからもわかると思います。
企業には、労働安全衛生法という法律があり、従業員に対して年に1回の健康診断の実施が義務付けられています。そのため多くの人が健康診断を受けたことがあると思います。
一方で、人間ドックには法的義務はなく、自分の意思で受診するしないを選択し、健康診断よりも多くの検査項目が用意されており、健康診断では見つかりにくい病気の早期発見ができる可能性があるという点で違いがあります。
どちらも今の自分の健康状態を把握し、生活習慣の改善や病気の早期発見、早期治療、さらに予防へとつなげられるという意味では、同じ目的ととらえてもいいと思います。
今回はこの記事で健康診断に行かんとあかんな…と思っていただいた方やこれから健康診断を控える方が正しく受診できるように、検査前の注意点や、検査結果の見方についてお話させていただきます。
絶食はいつから? 食事で気を付けることは?
健康診断は空腹時で採血した場合の基準で判定しており、12時間以上の絶食が推奨されています。健康診断を午前中に実施する健診機関が多いため、夜9時までに夕食をすませ、それ以降は絶食で受診してください。
血液検査で、食事の影響が大きく変化する数値は血糖値と中性脂肪の値です。12時間以上きちんと絶食できていなかったり、検査前にアメちゃんやガムを食べてしまったり、前日の夕食に脂っこいものや甘いもの、糖質を多く食べてしまうと血糖値や中性脂肪の値に影響が出やすくなり、再検査対象になることがあるので気をつけましょう。
また、正しい絶食ができていないと腹部超音波(エコー)検査で、胆のうがきれいに観察できないことがあり、胆のうポリープや胆石、胆のう腺筋症などの診断が正しくできなくなります。
そして、前日の夕食に脂肪分の多いお肉や揚げ物、消化の良くない繊維質の多いものを多く食べてしまうと、胃に食べ物が残りやすい状態になってしまうことがあり、胃のバリウム検査や胃カメラで正確に観察できず、再検査になる可能性があるため注意が必要です。
再検査にならないためにも検査前の夕食は早めに消化のいい、あっさりとした食事を中心にすませておき、そのあとの食事は避けるようにしてくださいね!
水分は? いつもの薬は飲んでいいの? サプリメントは?
夜9時以降の水分摂取はお茶や水なら飲むことはOKです。ただし、健康診断で腹部超音波検査や胃のバリウム検査を控えている場合は、当日の水分摂取は検査に影響が出やすくなるため、2時間前までにコップ1杯(200ml)程度の水分にとどめておいてください。
現在、飲んでいる薬がある人は、基本的には、主治医の先生と検査項目を話した上で決めていただくのが大切です。当日の朝も飲まないといけない心臓病や高血圧、てんかん、精神疾患の薬などは健診の2時間前までにコップ1杯程度の水分で内服を済ませておきましょう。その他の薬は当日検査が終わってから飲むようにしてください。
また、サプリメントは食品として扱われるため、前日夜9時以降控えてください。特に、美容で飲んでいる人が多い、ビタミンCのサプリメントは尿検査で、尿糖や尿潜血が本来陽性であっても陰性と出てしまうことがあり、病気の発見を見逃してしまうことがあります。そのため健診2日前からビタミンCのサプリメントは控えておきましょう。
検査前のアルコールは? コーヒーはダメ?
多くの健診機関では、前日からアルコールは控えるように言われています。健診機関によっては1週間前からの禁酒を指示する厳格なところもありますので、健診前の注意事項をよく読んでください。
アルコールの代謝は年齢や性別、体質、体調などで個人差が大きいため血液検査に影響が出る可能性があります。血液検査の結果で、仮に肝臓が異常値になった際、それがアルコールによるものなのか、ウイルス性肝炎によるものなのか、脂肪肝によるものなのか、はたまた肝がんによるものなのか…がわかりにくくなってしまいます。
アルコールは、肝機能だけでなく、血糖値、脂質、血圧、尿酸値などの数値に影響が出る可能性があるため、せめて前日はアルコールを控えて受診してください。
検査前にアルコールを減らすことは大切ですが、アルコールは習慣によるものなので、普段から1合程度(ビールだと500mlまで)までにすることや休肝日を設けるなどの工夫はしておいてください。
たまに検査の朝にコーヒーだけ飲んでもいいですか? と聞かれることがあります。ブラックコーヒーであれば、血液検査に影響しないためOKとしている機関もありますが、砂糖やミルクが入っているコーヒーは血糖値や中性脂肪が高くでることがあるため、NGとされています。
またコーヒーに含まれるカフェインの利尿作用によって脱水を引き起こす可能性もゼロではないため、コーヒー自体をNGとしている健診機関もあり、基本的には健診機関の指示に従うか、控えておく方が無難でしょう。
タバコは1本くらいならいい?
健康診断前にタバコを吸うと、血圧や胃のバリウム検査に影響が出やすくなります。
血圧が高く出てしまったり、喫煙によって、胃が活発に動いてしまうためせっかく飲んだバリウムが胃から腸へ速く押し出されてしまい、正しい検査ができずに再検査になることもあるのです。再検査を避けるためにも、タバコは健診前は1本であっても控えておく方がいいでしょう。
前日の激しい運動はダメ?
普段からジムなどで運動習慣をもつことは非常に素晴らしいことですが、前日の激しい運動は、筋肉が疲労し、肝機能やたんぱく尿、尿酸値への影響が出ることがあるため、筋トレなどの無酸素運動は避けるほうがよいでしょう。ただしウォーキングなどの軽い有酸素運動なら短い時間であればいつも通り行うのは大丈夫です。
20~30代の女性の要注意ポイント!
まだまだ健康不安の比較的少ない年代ですが、貧血や尿潜血陽性は特にこの年代でよく見られます。貧血は月経に伴うものや月経過多になるような婦人科疾患が隠れていたり、ピロリ菌感染症の時にも現れることがあります。
なかには治療が必要なことがあるため、ヘモグロビンや血清鉄の低下があった場合は、月経によるものと自己判断せず、必ず婦人科や内科を受診をしてください。貧血を放置することは、心臓や肺への負担を増やすことになるため全身疾患につながることがあることも覚えておいてください。
またダイエットなどで食事制限をしていると栄養の偏りや鉄不足に陥ることがあります。鉄は酸素を運ぶ赤血球のヘモグロビンに不可欠なだけでなく、コラーゲン生成や、お肌の新陳代謝やしみやしわ、爪や髪の毛のツヤなどにも影響しているミネラルのため、この年代に多い鉄欠乏性貧血は放置せずにきちんと改善しておくことが大切です。
また、尿潜血陽性は月経中や月経終わりかけのころに尿検査を受けると尿潜血陽性と出てしまうことがあります、その場合は、問診票に生理中と記入し、再検査を受ける覚悟で受診するか、健診受診をずらすなどの対応をとることをお勧めします。
35歳からは女性ホルモンによる影響が出やすくなる!?
35歳~44歳まではプレ更年期といって少しずつではありますが女性ホルモンが20代に比べると変化しやすく、穏やかに減っていきます。女性ホルモンはコレステロールを調整する作用や代謝に関わっているため、LDL(悪玉)コレステロールの異常や体重がなかなか減らないといったことが起こりやすくなります。
カラダの変化が出るころは生活習慣の見直しの時期として捉えてみてください。
検査結果が返ってきたら?
検査結果が返ってきたら、まずはコメント欄に書いてある内容をしっかり読むようにしてください。もし会社に産業医や保健師がいれば、検査結果についての説明や質問が聞けますので、ぜひ活用してみてください。
そして何よりも大切なのは、そのままにしないことです。いい結果が出た方は引き続き健康意識をもって取り組み続けてください。もし再検査や要注意が出てしまった方は、アルコール習慣、運動習慣、食生活を見直すきっかけとして新しい生活習慣を続けて再検査を受けることが大切です。
精密検査が必要となった方は、すぐに医療機関の受診をするようにしてください。50人以上の企業では必ず産業医がいるため、健康診断の結果に基づいて、就業に関して意見を述べる場合があります。その時に産業医とお話をして、健康的に働ける労働環境の見直しをすることも可能です。
健康診断はテストと同じで、受けるだけではなく、自分の悪かったところの見直しと改善するところまでが健康診断と考えましょう。
最後に、日本人の死因は令和2年の最新データでは1位・悪性新生物、2位・心疾患 3位・老衰、4位・脳血管障害です。(※3)
まだピンと来ないかもしれませんが、悪性新生物や心疾患、脳血管障害は生活習慣に影響することがわかっています。
人間ドックや健康診断を受けていれば必ずしも健康に問題がないというわけではありませんが、日本ではまだまだ健康診断や人間ドッグ受診率が低く、がん検診の受診率はさらに低いのが現状です。また日本人が長生きしている裏には介護期間が長いという現実あるのも事実です。男性は8年から9年、女性では12年から13年、何らかの支援や介護が必要な年月があると言われています。
まだ介護の話は少し先のことに感じるかもしれませんが、受けたことがない人は、ぜひ今年こそは、健康診断や人間ドックを受診して自分のカラダを知って、見直すきっかけを作ってみてください。
※1 20-21-h29.pdf (mhlw.go.jp)
20-21-h29.pdf (mhlw.go.jp)
※2 定期健康診断結果報告 年次 2020年 | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口 (e-stat.go.jp)
定期健康診断結果報告 年次 2020年
※3 令和2年(2020)人口動態統計月報年計(概数)の概況|厚生労働省 (mhlw.go.jp) 図5
令和2年(2020)人口動態統計月報年計(概数)の概況
竹中奈織
日本内科学会認定医
日本医師会認定産業医
日本抗加齢学会専門医
病院勤務、在宅診療を経て現在産業医を中心に働いています。自分自身の妊娠糖尿病や妊娠高血圧になった経験もあり、多くの人に今だからこそできる予防医学の考えを広めていきたく、未病のうちから人を診ることができる産業医や予防医学専門医として、身体も心も健康に過ごせる方法を伝えていきたいと思っています。プライベートでは3児の母として奮闘中です。
カオリ内科糖尿病クリニック 非常勤医師
※ クリニック下で有機野菜を使用したサラダや低糖質スイーツを提供するアンチエイジングのできるカフェ『オーベストシモーネコーヒー カフェ 大阪』の医師監修をしています。
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