おっぱいってどういうもの?
ただの脂肪のかたまり? いいえ、実は中には脂肪以外にもいろんな組織が詰まっています。おっぱいの断面図を見ながら、内側がどうなっているのか、ちょっと観察してみましょう。
初潮の1年ほど前から膨らみ始め、大人になるにつれて大きくなっていく、私たちのおっぱい。大きさや形など、見た目に目が行きがちですが、そもそもおっぱいとはどんな存在&役割を持つパーツなのでしょうか? 「六本木ブレストレディースクリニック」の院長である及川明奈先生によると、「赤ちゃんに飲ませるミルク(乳汁)を作り出し、それを与えるためのパーツです。それ以外の機能はありません」
また、乳腺外科など専門家らが集まり乳がんの啓発活動をしている医師のチーム「BC Tube」のBC先生曰く、
「実は男女ともに乳房の構造は同じです。女性の乳房が膨らんだり、乳汁を作ったりという働きは、女性ホルモンの作用によるものです。でも男性にはそういったホルモンは分泌されないので、女性のような機能はありません」
色、サイズ、形…おっぱいは千差万別。診察でたくさんの乳房を診ている及川先生は「本当にみなさん人それぞれ。“正解の乳房”というのはありません」と言います。
そんな唯一無二の自分の胸を愛するには、日々の健康チェックは欠かせません。胸の構造やチェックポイントを学んでいきましょう。
おっぱいの中身と構造
脂肪組織…乳腺を守るように存在するのが脂肪組織。どのくらい脂肪があるかは、人それぞれ。「脂肪の量や質感が、乳房の大きさや形、ハリなどに影響を与えます」(及川先生)
乳頭…乳房の先端には乳頭開口部があり、赤ちゃんが飲む乳汁はここから出ます。「清潔にしておかないと、菌が乳管内に入ることも。入浴時にはきちんと洗いましょう」(BC先生)
乳腺(乳管・小葉)…乳管と小葉からなる組織。「小葉で作られた乳汁は、乳管を通り乳管洞に溜まり、そこが収縮し乳頭から分泌されます。授乳期間は乳腺が膨らむので、胸が張ります」(BC先生)
大胸筋…乳房がのっている胸の筋肉で、おっぱいの土台的存在。「“大胸筋を鍛えるとバストアップに繋がる…”といいますが、大きくなるのは筋肉で、乳房は変化しません」(BC先生)
クーパー靭帯…乳頭、大胸筋、皮膚と繋がり、乳房を支える組織。「コラーゲンなどでできている結合組織です」(BC先生)。ちなみに発見した人の名前が、クーパーさんです。
日頃から乳房のチェックを心がけよう。〈ブレスト・アウェアネス〉のすすめ。
乳房の健康を維持するためには、自分の乳房がどんな状態なのかを日頃から把握しておくことが大切です。自分の胸へ意識を向ける〈ブレスト・アウェアネス〉の習慣を身につけることが、小さな変化を見逃さないためのカギになります。
乳房は、自分で触って確認ができる部位。
髪や肌などのボディケアは、日常のルーティンにしている人が多いですが、ぜひそこに加えてほしいのが、月1回の、バストの確認&ケア。実は乳房は女性ホルモンの影響による変化があるパーツ。生理と生理の間で自分の胸がどう変化するのか、知っている人はあまりいないのでは。
「乳房には、排卵期から生理前までの間は、張りや痛みが出やすく、生理が始まるとそれが治まる、という流れがあります。普段から自分の胸がどういう状態かを知っておけば、生理前に胸が張ったり痛んだりしても、“これは通常の変化だ”と理解ができますよね。加えて、生理前以外の時期に張りを感じたときに、“おや?”と気がつける。このような“気づき”に敏感であるためには、日頃から乳房の状態を意識するための生活習慣〈ブレスト・アウェアネス〉を知っておくことが大事です」(BC先生)
「乳房は胃や腸など体の内部にある組織と違い、ある程度は、自分で触って状態を確認できる部位。変化を見つけるための一番の近道は、定期的な自己触診です。胸のセルフチェックの大切さが、もっとたくさんの人に広まってほしいですね」(及川先生)
知っておきたい、胸にまつわる3つのこと
1、おっぱいが痛い…は、体調による変化のことが多い。
「異変を感じて来院する人の中で最も多いのが、“おっぱいが痛い”という症状。みなさん乳がんを心配されますが、実は乳がんの症状で乳房が痛むことはほとんどありません」(及川先生)
「乳房痛の多くは、ホルモンの影響により乳腺が変化する〈乳腺症〉。病気ではなく体調による乳房の変化と捉えられており、生理周期に伴って起こる現象です。また乳頭から乳房内に菌が入り、痛みが出る〈乳腺炎〉のこともあります」(BC先生)
2、変化があったら、とにかくすぐに病院へ。
日々おっぱいの様子を見ている中で、なんかいつもと違う…と思ったら、迷わず病院へ!
「何か変化があっても、がんである確率はそれほど高くはありません。とはいえその症状が良性なのか悪性なのかの見極めは医療の範疇。また、はじめからがん専門病院や大学病院に行く必要はないので、まずはかかりつけ医に相談をしたり、近くの乳腺科のある病院やクリニックを受診することをおすすめします」(BC先生)
3、40歳になったら、定期的な乳がん検診を。
乳がん検診とは、特に乳房に変化がない人が受ける、病気の早期発見のための検査。日本では、40歳以上の女性に2年に一度の検診を推進しています。
「日本の乳がん罹患率を見ると、20~30代はそれほど高くない。高くなる40歳以上になったら定期的に、というのが国の方針です。39歳までは月に1度のセルフチェックの習慣をつけ、そして40歳になったら日々の確認に加え、定期的ながん検診を」(BC先生)
見て、触って。月に1度のセルフチェックを習慣に。
女性ホルモンと密接な関係がある乳房。セルフチェックはぜひ、ひと月の間で最も乳房の張りが少ない、“生理が終わってからの1週間”に行いましょう。月イチのチェック、忘れずに!
見てチェック
1、左右の乳頭を見て、赤みやひきつれ、くぼみがないかを確認。
上半身裸で鏡の前に立ち、両手をまっすぐ下げ軽く体から離します。左右の乳頭を見て、赤みがないか、ひきつっていないか、くぼんでいないかなどをいろんな角度からチェック。
2、左右の乳房全体を見て、赤みやひきつれ、くぼみがないかを確認。
姿勢は1のままで、今度は乳房全体をチェック。赤くなっているところはないか、肌が引っ張られているような箇所はないか、くぼんでいるところはないかなどをしっかり確認。
3、両手を上げ下げし、乳房にひきつれがないかを確認。
腕を伸ばしたまま、体の横で大きく上げ下げし、乳房の表面で、内側から引っ張られてひきつれているようなところがないかを確認。体の角度を変えて、左右の乳房全体を確認。
触ってチェック
1、左手の3本の指で小さい円を描くように、右乳房全体を触る。
右腕を上げ、右乳房に左手の指をのせ、3本の指の腹で〈の〉の字を書くように表面を撫でる。細かく、乳房全体をくまなく、痛くない程度に少し強弱をつけながら撫でます。
2、右乳房の外側から、右の腋の下の奥まで触る。
次に、右腋の下から右乳房の横の位置まで、3本の指の腹で撫でていく。何回か往復を。強く押しすぎて、肋骨の凹凸を「しこりだ!」と誤解する人も多いそうなので、優しく!
3、乳頭の周りを軽く押して、分泌がないかを確認。
右乳頭の周辺の皮膚を、左手の指で優しくつまみ軽く押すように動かし、分泌物が出ないかを確認。左右に掴み、そのあと上下に。痛みを感じるほど潰す必要はありません。
4、左の乳房も同様に行う。
右の乳房のあとは同じように左の乳房を右手でチェックしていきます。大事なのはしっかりゆっくり、全体を触ること。指の腹を使い、優しく撫でたりつまんだりしましょう。
乳房や乳頭の変化、こんなポイントに注目を。
注意して見てほしいのが以下のポイント。また新型コロナワクチンの接種後、腋の下のリンパが一時的に腫れることもあるそうで、「1か月以上経っても腫れが引かないようであれば、病院で受診を」(及川先生)。
乳房の変化
【左右のサイズ、形状】
いつもと違い、どちらかの乳房に広範囲の腫れやむくみがないか、また明らかに片方の胸の形が違っていないかを確認。ディテールというよりも、乳房全体に起きる大きな変化を意識して見てみましょう。
【しこり】
乳房の中でしこりができるのは、乳腺の中。乳腺の箇所によっては、表面に突出する場合もありますし、表面から見たときにはわからない内側にできることも。少し指先に力を入れ、奥にしこりがないかを要確認。
【皮膚のくぼみやひきつれ】
乳房の内側にしこりができることで、肌が引っ張られ、表面がくぼんだり、肌がひきつることがあります。初期段階は、くぼみはエクボ程度。くぼんだ部分を触ってみると、その奥にしこりを感じることもあります。
【むくみと張り】
排卵から生理までの間は、体は水分を溜め込みやすい時期。なので乳房もむくんだり、張ったり、またそれによって痛みを感じることも。その時期以外に同じような症状を感じるようであれば、しっかり乳房をチェック。
【腫れ、赤み】
乳房全体ではなく、一部に腫れや赤みが出ることも。また病気の種類によっては、乳房全体が赤くなるパターンも。肌に赤みを感じたら、左右の乳房の色の違いを比べてしっかり観察。気になるようなら病院へ。
乳頭の変化
【へこみ、ひきつれ】
もともと乳首がへこんでいる〈陥没乳頭〉の人は問題ないですが、普段はそうではないのに乳首がへこんでいたり、また乳頭が内側から引っ張られ、ひきつっているように見える場合は、しっかり確認を。
【赤み】
反対側の乳頭と比べて、いつもより赤みがあったり、さらにほてりがある、またかゆみがあるといった場合も要チェック。乳頭からなんらかの菌が入り炎症が起きている場合は、こういった症状が出ることも。
【腫れ】
乳頭だけが腫れる場合、また乳輪全体に腫れが出るというパターンや、赤みやただれといった症状が一緒に出ることも。なかなか治らない場合は、範囲が拡大していないかなど経過を見ておき、受診時に医師に報告を。
【ただれ】
下着によって擦れたり、またアトピー性皮膚炎が原因でただれが起きるということも。大体は、皮膚科でステロイド剤などを処方してもらい、塗布することで改善しますが、治らない場合は乳腺外科を受診しましょう。
【分泌物】
授乳期以外に分泌物があるのは注意したい症状。透明な液体、赤や黒、茶褐色に近い液体などの場合があり、いずれも出血に近い症状。そのような場合はあまり強くつままないこと。ブラに常に染みがつく場合は受診を。
及川明奈先生 医師、「六本木ブレストレディースクリニック」院長。乳腺専門医、外科専門医。日本女性医学学会会員。女性の健康をサポートする幅広い医療を提供。https://rblc.jp
BC先生 乳腺科医などが中心のチームで、乳がんの啓発動画のYouTubeチャンネル「乳がん大事典【BC Tube編集部】」のキャラクター。今回は5人の医師が取材に回答。bc-tube.com
※『anan』2022年12月7日号より。イラスト・安藤理絵
(by anan編集部)