兄は精神障害者…懸命に看護を続ける両親を救った祖父母の言葉とは #19

文・心音(ここね) — 2018.6.23
“私の兄は、障害者”。見て見ぬ振りして、直視できない現実を避けるように生きてきた、妹目線の連載です。 精神を患った兄につきっきりになってから、気づけば早10年。走り続けた両親に安堵を与えたのは、祖母や祖父の言葉でした。

【兄は障害者】vol. 19

“頑張る気持ち” は、どんどん首を締めるばかり

兄の状態が変化し始めてから、気づけば10年近くが過ぎていました。母は仕事をやめて、平日は仕事の父も休日は病院に同行。薬の飲み忘れがないようにフォローしたり、病院や薬に頼ることなく模索したり……。それを、10年も続けたのです。

「頑張れ」「精一杯行動すれば、なんとかなる」「道は開けるに違いない」——。それらの言葉は、時として本人たちの首を締める言葉にもなります。私は、両親の “頑張り” に誇りを持っていましたが、それ以上頑張り続けたら両親のほうが疲れ果ててしまうと感じたので、これらの励ましの言葉は一切口にすることはありませんでした。

まだできる、もっとできる……。

この10年の間、私はプライベートを優先する両親の姿を見たことがありません。旅行や遠出の移動は、兄を連れて行くと周囲に迷惑がかかるため極力避けていましたし、兄は当然自炊ができないので、母や父のどちらかがご飯と薬の用意をしなければならず、夫婦でのんびり過ごすということもしなかったのです。

また、病院に行くときはオシャレな格好が似つかわしくないからと、地味な服装で医師や看護師に頭を下げる日々……。たまには、好きな服を着て息抜きに旅行をしたって、罰は当たらないのではないか? と思うほど、両親は自分たちの人生すべてを兄に注いでいました。

兄のためにも、「前を向いて生活しなさい」

そんな時に支えてくれたのは、祖母と祖父の存在です。祖父母の家には、兄を連れていくこともあり、彼らは実際に兄の様子を目の当たりにしていました。そして、両親が思い悩む気持ちを汲み取りながら、親身に相談に乗ってくれることも……。唯一、兄の状況を知っていた祖母や祖父から言われた助言。それは、「お兄ちゃんは、病気です。前を向いて生活すれば良い」という、励ましでもなく応援でもない言葉でした。兄の状況を過度に悲観するのではなく、受け入れてあげること。そして、両親は自分たちの人生を明るく生きなさいという指針だったのです。

兄の状況がよくなることを願う気持ちはみんな同じでしたが、“良い意味” で兄を受け入れることが、両親にとって大切なターニングポイントになったと言います。本来なら、仕事をしてやりがいを得ているかもしれないし、最愛の人を見つけて家庭を持っているかもしれない。そんな期待を抱えていたから、大人になった兄の “今の姿” をちゃんと受け止めることができなかった。それが、両親の本音だったのかもしれません。

現状をふまえ、少しずつ気持ちを楽にすることで、張り詰めていた “何か” がほぐれていったのがこの時期でした。おそらく、娘の私が同じ言葉を言っても、両親の心境を変えることは難しかったと思います。祖父母だから言える、“本物の助言”。苦しい時に染み入る言葉は、「何を言うか」ではなく「誰が言うか」が大切だと学びました。

以前通っていた病院へ戻ることに

そして、両親は高額な自費診療をやめて、2つめに訪れた一番兄が落ち着いていた病院へ兄を再び通わせることにしました。いろいろと問題はありましたが、薬の量や体との相性、処方の方向性などを総合し、最も兄に合っていると判断。毎日思いつめていた気持ちが少しずつ穏やかになっていったのです。

母は、パートタイムで仕事に復帰。仕事をする意味は、「お金を稼ぐ」ことだけではありません。仕事をすることで、いろいろな人とコミュニケーションが取れ、たわいのない世間話や趣味の会話をする時間を持てるようになりました。植物が好きな母は、花いじりをしたり、休日はガーデニングのワークショップに出かけたり。父は仕事漬けの毎日を少しずつ改めて、休日は早く起きてゴルフをしたり、ピアノを習い始めたりとアクティブに行動し始めました。“自分の時間” が、両親の毎日にやりがいと楽しみを見出すきっかけに繋がったのです。そんな両親の姿をみて、私は嬉しさを感じていました。

いっぽうの私は、進路だけでなく、恋愛に対しても悩みを抱えていました。——。明るく振舞うことは得意だけれど、弱さや悩みをさらけ出せる、深い関係を築くことがうまくできなかったのです。


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