竹内まりや「時代が変わっても、世代が違っても、人の心に普遍的にある心境を歌詞にしたい」
曲というのは、メロディ、歌詞、アレンジ、そしてボーカルという要素でできています。でもファンのみなさんからのファンレターを読むと、“このフレーズに励まされた”とか、“この言葉が胸に刺さった”など、歌詞に関する感想が本当に多く、またその傾向は、年々強くなっている。なので私自身、聴いてくださる方々に言葉をしっかり届けなければ、という思いが増しているのも事実です。
私の曲は、強い音楽性や主義主張があるわけではないし、極端に流行の音を入れるわけでもない。特にアレンジに関しては、20年経っても同じように聴ける音像が、私と(山下)達郎の目指すところ。歌詞も同じようなところがあって、時代が変わっても、世代が違っても、人の心に普遍的にある心境、そういうものを歌詞にしたいと思っています。だからこそ、難しくない、誰でも知っている簡単な言葉を使うんだと思います。
曲を作るときは、まずリズムを考え、次にコード展開を決め、そこにメロディをつけながら曲の構造を決め、全体が見えたら、最後に歌詞を書く。フォークっぽい曲にしたいなと思ったら、人生を描くような歌詞にしようとか、ロッカバラードだったら恋心を歌おうかとか、曲調に合わせて歌詞の世界を考えるのがすごく楽しい。ちょっと言葉遊びっぽいところがありますね。8割程度歌詞が埋まったら、足りないところにどんな言葉を入れるかを選ぶんですが、そこからはまさに言葉のジグソーパズル。言葉をはめて歌って、取り換えて歌って…の面白さと、最後のピースがピッタリはまった瞬間に感じる“できた!”という達成感。それが欲しくて曲を書いているようなところもありますね。
言葉との距離感1
私はとにかく、平易な言葉で書きたい。誰が聴いても同じ感覚で受け止められる言葉で。
難しい言葉や、リスナーに説明が必要な言葉で歌うのは、私の役割ではないと思っています。19歳の人が聴いても85歳の人が聴いても、同じように捉えてもらえるシンプルな言葉の中に、深みを探したいし、そういう日本語が、私には似合うのでは、と思います。
言葉との距離感2
素敵な言葉はどこに行けば見つかる、というよりも、ふとやってくるもので、不意に出合うもの。
映画を観ているときにハッとするフレーズを聞いたり、誰かとのおしゃべりで相手の言葉に深さを感じたり。素敵な言葉はありふれた日常の中にあって、本当にふとした瞬間に出合うんです。言葉に対する興味のアンテナを立てていることが、出合う秘訣かも。
言葉との距離感3
SNSの反響は目安にはなるけれど、でもそれがすべてではない。
個人的にはSNSはやっていないので、SNSの反応についてはスタッフから聞くことが多いです。確かに、そこに書かれていることは一つの現実だとは思いますが、書かない人の声もある。なので私はSNSに書かれる中傷などからは、常に距離を置いています。
言葉との距離感4
洪水のように言葉が溢れるそんな時代だからこそ、“自分にとっての大事な言葉”を見つけることが大切なのかも。
昔に比べて現代は飛び交う言葉の量がとにかく多い。その中から大事な言葉を選び取るのはとても難しいこと。ちなみに私は、職人さんがぼそっと言った言葉に感銘を受けたりしますが、若い人はいい言葉を見つける選択能力が、私たちの世代より高い気がします。
言葉との距離感5
100個のデジタルの賛辞より、1通のお手紙。だからときどき返事も書きます。
文字から滲み出る愛を感じられるので、私はファンレターをいただくのがとても好き。ファンレターに書かれた曲の感想を読むのはとても嬉しいし、創作のエネルギーにもなる。お返事を書いたらまたお手紙をいただくことも。とても幸せな言葉のやりとりです。
『Precious Days』 全18曲に加え、配信のみだったプレミアライブなどを収録したライブDVD/Blu‐rayがセットのデラックス盤も。このほか完全生産限定の2枚組アナログ盤、カセットテープの全5形態。10月23日発売。【通常盤(CD)】¥3,410 【デラックス盤(CD+DVD/BD)】¥8,800(ワーナーミュージック・ジャパン)
たけうち・まりや 1955年生まれ、島根県出身。シンガーソングライター、作詞家、作曲家。’78年にデビュー。1日1回「まりやちゃんおみくじ」も楽しめる45周年記念のサイト(https://mariya45th.jp)もオープン中。
※『anan』2024年10月2日号より。写真・伊藤彰紀(aosora) スタイリスト・斎藤伸子 ヘア・松浦美穂(TWIGGY.) メイク・COCO(関川事務所)
(by anan編集部)