可愛いものはグロテスクでもある!? こわ~いアニメーション7選

2023.7.25
表現の多様さにゾゾッ! こわ~いアニメーションの世界。話題の新作『オオカミの家』をはじめ、ホラーアニメーションの魅力や世界各国の注目作品を、土居伸彰さんがナビゲートします!

観る人を恐怖に陥れる手のひら返しの作品たち。

見慣れた世界が突如ひっくり返り、平穏が脅かされることがホラーの一定義。アニメーションはファンタジー空間を作り上げ、世界観が強いほど観る人は入り込むものですが、上手なホラーアニメーションの作り手は、その力量と、“描く世界が作り物にすぎない”という意識の両方を持ち合わせており、観る人をのせておきながら手のひらを返す力が卓越しています。『コララインとボタンの魔女』は、その代表格です。また、ホラーの名作は人形アニメーションに多い。理由としては、人間を人間としてではなく人形のように扱う人と対峙する恐怖を描く時にハマること。また、『火宅』などを手掛ける人形アニメーションの巨匠・川本喜八郎監督の作品がそうであるように、表情を変えない人形の感情を人間が勝手に読み取り、少しでも怖いと感じた瞬間にめちゃくちゃ怖く思えたりする点が挙げられます。人間の認識を書き換えてしまうほどの力がアニメーションにはあります。その点でいうと今敏監督の『PERFECT BLUE』は、編集を活用することで、夢と現実の狭間がよくわからなくなるという作用を作り出しています。

また、今の時代の人形アニメーションは、造形力を生かし、普段は目を向けないようなダークな感情を作り上げた作品が多いです。『マイリトルゴート』は、現代における虐待の話を可愛い人形を使うことでオブラートに包んで表現すると同時に、可愛いものはグロテスクでもあるということを明らかにしていて面白いです。『オオカミの家』の監督はチリ出身の2人組で、ドイツ系移民のコミュニティであるコロニア・ディグニダでの児童虐待などを一貫して取り上げている。今作ではカルト的な集団の中で洗脳され、精神的に逃げ出せない人たちの心象風景を、部屋全体のコマ撮りで表現しました。

低予算の作品が新たな表現の可能性を見つけることも。『ソウル・ステーション/パンデミック』は、主体性を失い人を傷つける人たちをゾンビとして描き出しており、低予算ゆえのぎこちない動きをしたキャラクターだからこそ生み出せる世界観を掘り当てました。『整形水』は、CGモデルを駆使した低予算アニメーションのフォーマットと、整形という素材が見事にマッチした作品。今作の登場は、アニメにおけるB級ホラーが発明された瞬間と言ってもいいでしょう。

さまざまな怖さが堪能できるアニメーション作品

『コララインとボタンの魔女』

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日常の裏にある領域とダークサイドを写す。
好奇心の強い少女コララインは、家の中で封印されたドアを見つける。それはもう一つの世界への入り口で…。「人の目をボタンに変えるなど、人が本能的に嫌だと感じるところを見事に捉える造形力が魅力」。Blu‐ray¥2,200 発売・販売元:ギャガ
©Focus features and other respective production studios and distributors.

『火宅』

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この世の諸行無常と逃げ場のない恐ろしさ。
菟名日処女(うないおとめ)は2人の青年に愛されるも選べずに入水。死後もなお地獄の炎に焼かれ続ける。「この世自体が理不尽な地獄であるということを映像で表現」。『川本喜八郎 作品集 4K修復版』に収録。Blu‐ray¥5,280 発売・販売元:TCエンタテインメント ©有限会社川本プロダクション

『PERFECT BLUE』

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ストーキングに殺人事件。アイドルの恐怖を描く。
アイドルから女優に転身した霧越未麻を襲う、悪夢のような出来事を描く。今敏監督のデビュー作。「キャラクターをリアルな造形にすることで不気味な雰囲気に」。Blu‐ray 通常版¥6,270 販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
©1997MADHOUSE

『マイリトルゴート』

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児童虐待など社会的問題も盛り込んだ可愛く怖い作品。
グリム童話『狼と七匹の子山羊』がモチーフ。監督は『モルカー』の見里朝希。「見里監督は人のドロドロとした気持ちとその犠牲者を造形化する力があるからこそ可愛いホラーも描ける」。https://youtu.be/c8DLl05iM4w ※虐待など暴力描写あり。

『オオカミの家』

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偏った価値観を描く異物感しかない映像に衝撃を受けます。
ピノチェト軍事政権下のチリに実在したコミューンに着想を得たストップモーションアニメ。「人間の表現が特徴的で、登場人物のスケール(大きさ)の違いで支配関係を描く。監督の一人が家具、一人が壁画のコマ撮りを制作、それらが合わさることで人々の混乱する心が追える」。8/19~シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。
©Diluvio & Globo Rojo Films, 2018

『ソウル・ステーション/パンデミック』

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人を人と見ない社会をゾンビの世界で表現。
深夜のソウルで繰り広げられる人間とゾンビの死闘。「何かに支配され集団的に動くゾンビと尊厳が失われた世界観は、監督がソウル駅のホームレスと、それに気づかず行き交う人々に着想を得たもの」。DVD¥4,180 発売・販売元:ブロードウェイ
©2016 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & Studio DADASHOW All Rights Reserved.

『整形水』

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外見至上主義に対する絶望と悲しみ。
イェジは誰もが美しくなれる整形水で別人へと変貌するが、周囲で不審な出来事が起こり始める。「人気ウェブトゥーンが原作。こういう方向性の作品がどんどん出てきてほしいと思う傑作です」。DVD¥5,170 発売:東映ビデオ 販売:東映
©2020 SS Animent Inc. & Studio Animal & SBA. All rights reserved.

どい・のぶあき ニューディアー代表。インディペンデント作家の研究や、海外作品の配給など世界のアニメーション作品を紹介する活動に携わる。和田淳監督のTVアニメ『いきものさん』(MBS/TBS系)、映画『半島の鳥』など作品のプロデュースも行っている。

※『anan』2023年7月26日号より。取材、文・重信 綾

(by anan編集部)