暗闇の道標となるコンビニにふらりと訪れる訳ありな人々。
「ひと昔前、コンビニを利用するのは若い人などに限定されていましたが、今では地域の老若男女が一番集まるところだったりもします。日々頼っている部分が想像以上にある気がして、そこにフォーカスした物語を作ってみたいと思いました」
ただしこのコンビニは、普通のそれとはちょっと違う。暗闇に浮かび上がる光に引き寄せられるようにやって来るのはまさに今、生と死の間をさまよっている人たちなのだ。
「コンビニも生と死も当たり前すぎるくらい身近で、軽んじられているところがあるのが、まず似ていますよね。コンビニは誰も起きていないような時間帯でも頼ることのできる場所といえますが、真夜中の心細さと絶対に誰かいるという安心感が、生と死、現実と夢をぼんやり照らす光のイメージと重なりました」
働いているのは無愛想だけど淡々と仕事をこなすコクラと、同じくドライな外国人のタヒニ。彼らもまた、とある秘密を持っている。
「コンビニの店員さんって仕事が本当に多岐にわたっていて、颯爽と働く姿が万能感に満ち溢れているので、そういうかっこよさを描きたいという気持ちがありました。毎日のように通っていると顔見知りになって、向こうは相変わらずクールなのに、こちらが勝手に親しみを感じてしまうような関係性も独特ですよね」
来店する訳ありな人たちは、仕事に疲れ果てていたり、自殺を図ったり、強盗に襲われたりと、シチュエーションだけを切り取るとなかなか重い。しかし本人が死にかけていることに無自覚で、飄々とした店員の対応やコンビニというありふれた場所の効果もあって、悲壮感よりおかしみのほうが勝ってくる。
「死は日常の延長にあるものだと思うので、死を扱うからといってムードを暗くしないようにしました。メンタルがやられて選択肢を自分で狭めてしまうことは、誰にでもあると思います。そんなときコンビニで買い物をするというルーティンがきっかけで、何かが切り替わることもあるだろうし、切り替えができたときに、なんでそんなに思いつめていたのか忘れちゃうような軽さを大事にしたかったんです。運よく転換が訪れた人の強さを描きたいなって」
日常に潜む闇だけでなく、闇に消え入りそうな希望をも照らし出す、光の箱。夢とうつつが溶け合う物語に、ずっと浸っていたくなる。
『光の箱』 生と死の間にあるコンビニに訪れる人々と店員が織りなす、ミステリアス・オムニバス。光に引き寄せられるように思わず手に取ってしまうカバーも美しい。小学館 591円
えりさわ・せいこ マンガ家。2000年デビュー。著書に『うちのクラスの女子がヤバい』『制服ぬすまれた』『ベランダは難攻不落のラ・フランス』など。©衿沢世衣子/小学館
※『anan』2020年9月30日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子
(by anan編集部)