現代の貧困、虐待、社会問題が絡み合うミステリー 天祢涼の最新作『あの子の殺人計画』

エンタメ
2020.06.24
天祢涼さんの『あの子の殺人計画』は、社会派とホワイダニット(犯行の動機を解く)が融合したミステリー『希望が死んだ夜に』のシリーズ第2弾だ。

追い詰められる子どもや女性など弱者に光を当てる社会派ミステリー。

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「『希望~』で事件解決に大きな役割を果たした生活安全課の女性刑事・仲田巡査部長にまた活躍してもらいたいと思い、彼女の再登場は最初から頭にありました。所轄の刑事課・宝生巡査部長とのコンビで一度は書き上げたのですが、誰に事件を語らせるかを考えたときに、前作で仲田と組んだ神奈川県警刑事部の真壁が適任と判断して書き直しました」

捜査を進めるうちに、椎名綺羅が一時期、殺された風俗店のオーナー・遠山菫が経営していた〈ラバーズX〉で働いていたことがわかる。だが綺羅はアリバイを主張。娘・きさらの証言もそれを裏付けているのだが…。一方で、きさらは自分が母から受けている〈水責めの刑〉などが躾ではなく虐待ではないかと思い至る。味方になってくれた翔太の言葉に感化され、ある計画を練り始める。

「現実にはもっとひどい虐待もあるかもしれない。でも『この程度で、子どもがそんな大それたことを考えるだろうか』と読者に疑問を持たれたら、物語が成立しない。その案配が難しかったですね。なので、小芝くんのような目立つ貧困児童を置いたことも腐心した点のひとつ。それによって、そこそこ普通に見えてしまうきさらのような子の虐待は見逃されやすくなると思ったんです」

本作では、謎解きの要素もたっぷり。真壁、宝生、仲田が追うのは、遠山殺しの犯人であり、動機であり、トリックだ。そこに、現代の貧困や貧困からくる虐待など社会問題が絡み合う。重層的な展開が魅力。

「『希望~』ではじわじわ追い詰められていく少女たちの境遇や感情に読者は揺さぶられたと思うのですが、その分、大人のつらさにはあまり触れることができなかった。その反省もあったので、今回は大人の事情や問題も盛り込みたいと思いました」

ある時期まで、貧困や虐待などの社会問題はノンフィクションのほうが向いていると考えていたそう。だが、本シリーズの反響の大きさから、いまは思いを新たにしている。

「フィクションにしかできない伝え方があるとわかりました。これからも書いていきたいテーマです」

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あまね・りょう 1978年生まれ。2010年にメフィスト賞受賞作『キョウカンカク』でデビュー。’19年『希望が死んだ夜に』で本屋大賞発掘部門で最多票を獲得。『謎解き広報課』など著書多数。

『あの子の殺人計画』 貧しい母子家庭で育つ小学5年生の椎名きさら。ある日、川崎の風俗街の狭い路地で、大手風俗店の女性オーナーの刺殺体が発見される。文藝春秋 1650円

※『anan』2020年7月1日号より。写真・土佐麻理子(天祢さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・三浦天紗子

(by anan編集部)

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