何もなかったと冷笑せず、訓練と思って備えよう。
8月8日に宮崎県沖を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生し、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表されました。制度が創生されて初めての発出だったため、各テレビ局が緊急報道に変わり、衝撃を受けた方も多かったと思います。
NHKでは解説委員がすぐさま「これは空振りになってもいいので、注意を呼びかけるもの」と話していました。しかし、発する側と受け止めた人たちの認識はかなり落差があったのではないでしょうか。公的機関の発表というと、地震の予知情報と誤解されがちですが、そうではありません。南海トラフ沿いで異常な現象が観測され、大規模な地震に関連するか調査を開始した場合に、南海トラフ地震臨時情報「調査中」が出されます。想定震源域内のプレート境界にマグニチュード7.0以上8.0未満の地震が発生した場合に「巨大地震注意」、8.0以上の地震が起きた場合に「巨大地震警戒」が出されます。「注意」は、地震の備えに対して確認を行い、もし地震が起きたらすぐに避難しましょうという呼びかけ。「警戒」は、高齢者など避難に時間のかかる人は事前避難を、そして地震の備えの確認を促します。
今回は「注意」でしたので、行動を制限するものではありませんでした。ただ、これまでなかった発表なので、よほどの危険が迫っているのではないかと印象付け、花火大会などイベントが中止になったり、海水浴場の閉鎖、旅行を取りやめる人が出るなど、観光地は経済的に打撃を受けました。
調査後、何も起こらなければ「調査終了」を発表しますが、安心して、却って気の緩みが生じないかと専門家は疑問視しています。東日本大震災も能登半島地震も急に起きました。日本は地震、火山噴火、津波、いつどこで何が起きてもおかしくない災害大国。特定の地震のみフィーチャーされるのも危険です。この背景には、国の予算が不足しており、地震研究を南海トラフと関東直下に集約せざるを得ないという問題もあります。災害情報に決して慣れてしまわず、訓練として繰り返すことで前のめりな避難行動を心がけるのは、大切な命を守るために必須です。
ほり・じゅん ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。メインキャスターを務める報道情報番組『堀潤 Live Junction』(TOKYO MX月~金曜18:00~19:00)がスタート!
※『anan』2024年10月30日号より。写真・小笠原真紀 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子
(by anan編集部)