未来のための17の目標を、私たちの周りにある事象から読み解いてみる。
社会:人間が人間らしく生きていくための社会に関する目標
1、貧困をなくそう
2、飢餓をゼロに
3、すべての人に健康と福祉を
4、質の高い教育をみんなに
5、ジェンダー平等を実現しよう
6、安全な水とトイレを世界中に
7、エネルギーをみんなにそしてクリーンに
女性として注目したいのは、〈ジェンダー平等を実現しよう〉の項目。
「政治や経済、教育、健康の4つの分野から男女が平等かどうかを測る〈ジェンダーギャップ指数〉で、日本は156か国中120位。特に政治と経済の場において女性の活躍が非常に少なく、女性が管理職になりにくい、育休から復職しにくいなどの形で顕在化しています。でも逆に、男性が育休を取りやすくなれば、その分女性が活躍できる、という見方もできる。性別にかかわらず自分の思うような形で働けるようになることが、人間らしく生きられる社会への第一歩なのでは」(玉木さん)
発展途上国では、〈安全な水とトイレを世界中に〉の目標も、女児との関わりが深い、と治部さん。
「まず井戸や水道がない場所だと、学齢期の女の子は水汲みに行かされることが多い。また学校のトイレが危険だと女の子は襲われる可能性があるので、学校に行けない。一見関係なさそうに感じられますが、安全な水の供給、そして安全なトイレがあることで、女の子は教育の機会が得られるんです。教育を受けられればより良い仕事につけますし、字が読めれば契約書の内容を理解することができますから、低賃金で搾取されることも減ります」
また〈エネルギーをみんなにそしてクリーンに〉という項目においては、坂田さんは「日本をはじめ先進国はもっと努力を」と言います。
「先進国の個人のエネルギー消費量は、途上国の3~4倍というデータがあります。特に日本は火力発電の率が高いので、発電の際に二酸化炭素排出量が多いうえ、車の生産などエネルギーを多量に必要とする産業が多い。我々先進国が排出する二酸化炭素によって温暖化が進み、発展途上国で自然災害が起きることも。まずは太陽光、風力、地熱など二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーに変えていきたい。今後ソーラーパネルや蓄電池の性能が上がれば効率も上がりますし、同時に使用量を減らせばエネルギーをクリーンにできるようになると思います」
経済:最低限の暮らしの保障から、より良い暮らしに関する目標
8、働きがいも経済成長も
9、産業と技術革新の基盤をつくろう
10、人や国の不平等をなくそう
11、住み続けられるまちづくりを
12、つくる責任つかう責任
できるだけ安く作り、たくさん売って儲ける。これまではそのような経済活動を行っていた企業が多かったが、それは〈働きがいも経済成長も〉という目標とは相容れない。
「自国が徐々に豊かになるに従って人件費が上昇すると、もっと安く作れる場所を求め、工場が海外に移ります。かつては中国、それが東南アジアに移り、そこが豊かになればさらに安いところを求めて工場が移動していく。でもそのスタイルは、いつか限界がきます。かつて児童労働で製品を作っていたアメリカの会社が、消費者のボイコットによって企業体質を変えたということがありましたし、また最近は人権侵害をしている国や会社と取引をする企業に対して、厳しい視線が注がれています。異常な低賃金や搾取のある労働は、結果的に長続きしないので、改めるべきです」(治部さん)
〈住み続けられるまちづくりを〉という目標に対しては、地方都市でテレワークができる環境を整える、という取り組みも行われている。
「地方には、働きたくても家を出られないという女性もまだまだ多い。そんな人たちにITのスキルを身につけてもらい、また、その土地のWi‐Fiなどのインフラ整備を並行して行うことで、地元に住み続けながら都会の会社の仕事をリモートで請け負うことが可能に。その街を出なくても、新しい仕事の幅が広がり、結果収入も上がります。これは今の日本に必要なSDGsの取り組みの一つだと思います」(治部さん)
また海外のリゾートにも、SDGsの視点が必要とされている。
「例えばアジアのリゾートに海外資本が大きなホテルを建てた場合、地元の人に回るのは安いハウスキーピングなどの仕事で、利益のほとんどは先進国にある資本会社に落ちるのがこれまでの常識でした。そういったマスツーリズムは環境にも良くないし、地元にも貢献しないことに企業側も気がつき、環境を汚染せず、なおかつ地元とフェアに仕事をするサステナブルツーリズムに取り組む会社が増えています」(坂田さん)
環境:人間だけでなく、動植物が暮らす自然の持続可能性に関する目標
13、気候変動に具体的な対策を
14、海の豊かさを守ろう
15、陸の豊かさも守ろう
おそらくSDGsと聞いたときに“海洋プラスチックによる海の汚染”を思い浮かべる人はとても多いはず。
「少し前までは、そのゴミを減らすことに注力をしていたんですが、今はそこから一歩進み、ゴミという“マイナス”を減らすだけではなく、新たな発想で“プラス”に変えていく努力が必要とされています。具体的な例を挙げると、今、アディダスは海洋プラスチックを回収し、それを使ってスニーカーを作っています。そういった取り組みをする会社が今後増えていけば、マイナスが減ると同時にプラスが増えていくのでは、と思います」(玉木さん)
海の資源についてもっと意識を向けてほしい、と言うのは坂田さん。
「お寿司でお馴染みのクロマグロが去年まで絶滅危惧種だったというのは有名ですが、実は大衆魚のサバやサンマも、枯渇してきています。そういった魚がスーパーに並んでいるのを見ると“自分1人が食べるのをやめたところで…”と思ってしまいますが、需要が下がれば漁獲量は減るものです。いま行われている無差別かつ魚を一気に捕獲するような漁では、海の資源を減らす一方。エコな漁業で獲られた魚を買うような消費行動に変えることは無駄ではありません。海外では、持続可能な漁業で獲られた魚だけを扱う店があったり、エコ漁業の証明である〈MSC認証の「海のエコラベル」〉がついていることも。日本でもそういった魚を扱う飲食店を選んだり、あるか聞いてみるだけでも、SDGsに繋がります」(坂田さん)
枠組み:SDGsの目標達成のために、3分野すべてに関する暴力の撲滅、ガバナンス強化、投資促進、パートナーシップに関する目標
16、平和と公正をすべての人に
17、パートナーシップで目標を達成しよう
「1から15の目標は、世界の“あるべき姿”を描いた内容で、15個の目標が達成されると、16の〈平和と公正をすべての人に〉という世界が実現できる。そして最後に残るのが、17番の〈パートナーシップで目標を達成しよう〉です。この1つだけが、“理想の世界”ではなく方法についての文言なのですが、実はSDGsを達成するために最も大切な項目がこれなんです」(玉木さん)
パートナーシップとは、2名以上の者が営む関係のこと。問題の解決は1人で解決に挑むのではなく、2人以上の個人や団体などが協力することが必要である、という意味だ。
「1つ問題がクリアになったとしても、そこに繋がるあらゆる課題が解決しなければ、持続可能な世界は作れない。問題は複雑なんです。だからこそ企業と行政、あるいはNPOなど、いろんな力を総合した枠組みを作ることで、解決策が見えてくるんだと思います」(治部さん)
力強いパートナーシップを作る第一歩は、自分の考えや思いを発信することだと玉木さんは言います。
「自分や自社がどうありたいか、SDGsに対して何をしたいか。それを発信すると、同じ志を持つ人たちが反応し、仲間が集い、自然にパートナーシップが生まれます」
大切なのは、視点を“今”に固定せず、“未来”を見据えること。
「SDGsは次世代のためでもあります。私たちが生きている地球や社会は借り物ですから、この先に生まれて生きる人たちにいい状態で残さなければなりません。その気持ちをぜひ持ってほしいです」(坂田さん)
玉木巧(たまき・こう) 株式会社Drop SDGsコンサルタント。企業のサステナビリティ推進を支援。“SDGs経営”をテーマにした講演会は延べ40万人が参加。ウェブ「SDGs media」で情報発信も。
治部れんげ(じぶ・れんげ) 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授、ジャーナリスト。ジェンダーに関する著書に『ジェンダーで見るヒットドラマ 韓国、アメリカ、欧州、日本』(光文社新書)が。
坂田華(さかた・はな) 持続可能な観光専門家、博士(経営学)、国連機関協力員。大学では自然科学を学び、観光先進国であるオーストラリアの観光マネジメントや自然保全に5年間関わる。
※『anan』2022年3月30日号より。イラスト・西尾彰典 参考資料・SDGs media
(by anan編集部)