
今年、デビュー35周年を迎えたBEGIN。プロになるつもりもなく、ましてや長く続けようとも思っていなかったという3人が、ここまで歩んできた、その理由を探ります。
石垣島で幼い頃から共に過ごしてきた3人。撮影時、カメラマンから「肩組めます?」と聞かれ、「俺ら同級生なんで、学生時代の友人に見られたら恥ずかしくて…」と照れた笑顔で返された。バンドメンバーというより同級生、の関係性なんだと妙に納得。そんなBEGINはデビューから35周年を迎えた。

左から、ギター・島袋優(しまぶくろ・まさる)さん、ボーカル・比嘉栄昇(ひが・えいしょう)さん、ピアノ・上地等(うえち・ひとし)さん
――まずは、35周年を迎えられての今の想いを伺えますか?
比嘉栄昇さん(以下、比嘉):石垣島で生まれ育った僕らが3人揃ってデビューして、35年やってこられたって、信じられないことですよね。僕らが島を離れたのは1987年なんですけど、当時はインターネットなんてないですから、島に入ってくる情報も限られていて。等なんて、高校に届いたちっちゃい本を見て行く東京の学校を決めたら、男子学生がひとりだったくらい(笑)。そんな中で、僕らがデビューするってなったときの島の人たちの驚きといったら…。今とはその度合いが全然違ってた気がするんです。最初は信じてもらえなかったくらい。
島袋優さん(以下、島袋):当時は携帯電話もなくて。俺ら、どうやって集合してたんだっけ、どうやってスケジュール管理してたんだっけと思うよね。この35年で時代は大きく変わっているけど、自分たちがやりたい根本的なものってそんなに変わらず、同じような方向を向いてやってこられたのかなって気がしているんです。3月に35周年記念公演をさせていただいて、あらためてそれを感じましたよね。
上地等さん(以下、上地):僕ら小中高と同級生で、たまたま3人が同じ東京にいて、「バンドやろうぜ」って誘ったのは栄昇だけど、ほんとたまたま始まったグループなんです。だから当時から何も変わらない感じで。
――35年続けられたのは、何が大きかったと思いますか?
島袋:親同士の繋がりが濃くなった、というのはあるかもしれない。ふたりの両親も、おじさん、おばさんじゃなくて、父ちゃん、母ちゃんって呼んだりとか。
上地:親戚みたいな感じ。
島袋:そうだね。まったくケンカしてこなかったわけじゃないけど、そういうことも含めて親戚とか兄弟みたいな感覚に近い。
比嘉:3人の繋がりで言うと、リアルに同級生…幼馴染みで友達だっていうところを、BEGINであることより大事にしなきゃいけないと思っているんですよね。一緒に活動することでこの関係性が壊れるなら、BEGINじゃないほうがいいというか。10年目20年目の頃は、もっと俺らがBEGINであるべきだって意識があったと思うんです。でも今、何をもってBEGINなのかがわからなくなっていて、もしやお客さんも含めてBEGINなんじゃないかって気がしているんです。アーティストの方がいて、それを応援する方がいて…というスターとファンの関係は素敵だけど、俺らは違う。もっとフラットな友達のような関係で、同じ仲間がひととき集まるのがライブという感覚。3月の日本武道館のライブで、お客さんに「BEGINのみなさんこんにちは」って挨拶したのは、そういう想いがあってのことなんです。
――ここまでの活動を見ていると、デビュー時はブルースが中心で、そこから島唄やマルシャ ショーラ(ブラジル古来のマーチのリズムでさまざまな楽曲をカバーしたBEGIN発信の音楽ジャンル)など、35年の間に次々と新しい音楽に挑戦しています。そこでの意思統一などは、どうされているんでしょうか?
島袋:単純に出合うタイミングが一緒だったのが大きいのかなと。僕らが子供の頃、石垣島ではテレビってNHKしか映らなかったんです。だから東京で同世代の人たちとアニメや音楽の話題で一緒に盛り上がれなかったりする。でも逆に俺らは、東京に出て島に戻ってきた先輩たちから、お下がりのレコードを聴かせてもらったり、レコード屋さんでジャニス・ジョプリンのライブをレーザーディスクで観せてもらったりってことを一緒に経験しているんです。ハワイアンに出合ったのも、CDジャケットのデザインをやってくださっていた方が「こういう音楽もあるから」と教えてくださったのがきっかけ。3人ともが同じ時期に同じ音楽と出合っていて、捉え方はそれぞれ違っていたかもしれないけれど、向かっていく方向性に関しては自ずと足並み揃えられたんじゃないかと思います。
――比嘉さんがおふたりをバンドに誘った理由というのは?
比嘉:東京に来て、どうやら沖縄出身っていうとアメリカ人と勘違いされているぞって思ったのがきっかけなんです。すでにアメリカから日本に返還されていたにもかかわらず。俺は親父が建設業なのもあって、日雇いで建設現場のバイトによく行ってたんですが、外国人の列に並ばされることがあって。それでバンドをやることで、沖縄は日本だってことを多くの人に知ってもらいたいなと。だから、どのバンドよりもきれいな発音で歌おうということが唯一こだわっていたことで、バンドで有名になりたいとか、お金持ちになりたいとかは一切なかったんです。
――今、比嘉さんは石垣島、島袋さんは沖縄本島、上地さんは東京に暮らしています。曲作りは、どのようにしているんでしょう。
上地:初期の頃とは作り方も変わってきていて、今は、それぞれが8割9割作ってきたものを持ち寄っています。3人で集まって合わせてみると、また全然違うものになったりして、それがBEGINらしいサウンドにしてくれているのかなって思っています。
比嘉:俺ら、リハーサルがいらないというか…。
島袋:普通のバンドよりは、回数少ないかもね。
比嘉:息を合わせるってことでいえば、そこは何の不安もなくて。プレイの面での楽器や歌に関しては、それぞれが自宅でやってくるっていうスタイルです。
BEGINのことを栓抜きだと思っている!?
――比嘉さんと上地さんは別にバンドもやられていますし、島袋さんは昨年ソロアルバムをリリースされました。それぞれ別の場所でも音楽活動をしているみなさんが、BEGINだからできること、BEGINでやりたいことというのは、どんなことなんでしょう?
島袋:ソロアルバムを出させていただいたことで、やっぱり自分はギタリストっていう立ち位置で曲を作っていたんだなって思ったんです。BEGINであれば、栄昇が歌って等がピアノを弾いてくれたら、シンプルなメロディでも表現してくれるだろうなと想像して曲を書けるというか。「海の声」を書いたときも、桐谷健太さんが歌うというのがまずあって、いろんな映像を見て桐谷さんを研究した上で作りましたし。だから自分が歌うとなったとき、自分の歌でどこまで表現できるかわからなかったので、悩んで悩んで作っては直しの繰り返しでした。たとえば、ブルージーな曲を書いても、自分だけでやっているとブルース好きが趣味で歌っているみたいな感じがしてしまって。あらためて、ふたりに頼っているんだということを実感しました。
上地:僕の中では、BEGINと違うことをしようとバンドをやっているというより、むしろ延長線上にある気がしているんです。優と同じかもしれないけれど、他の人と一緒に演奏することで、BEGINではここを頼ってるんだなと気づくことはあります。
比嘉:僕は、あんまり考えたことがないんです。ふたりがいてくれるからこそできることしかやってないから、掘り下げればいっぱい出てくるとは思うんだけど…。変な話、僕、栓抜きが好きなんですよ。今どき、栓抜きが必要になることってあまりないじゃないですか。でもたまに、なくてめちゃくちゃ不便なときがあって、その立ち位置がかっこいいし渋い。俺は今、BEGINを栓抜きだと思っていて、これを活用して何ができるかってことを考えている感じです。まずはみなさんがイメージしているBEGINというものがあって、それを祭り会場ではこんなふうに使えるかなとか。大きい会場なら、ドラムやベース、太鼓の方もお呼びしたらみんな喜んでくれるんじゃないかとか。
――つねに喜んでもらえる“使い方”、を考えているんですね。
比嘉:もともと人前に出るのが苦手で、なんでこんな仕事をやってるのかって感じなんです。でも、歌は好きで、俺の歌を喜んでくれる人がいるらしいと気づいてからは、もっと喜んでもらいたい、びっくりさせたい、なんですよね。島唄とかマルシャ ショーラも、喜んでもらえるかなって気持ちで。それが俺らのちょっと変わった活動になったんだと思います。
――そんな中、7年ぶりのアルバム『太陽』がリリースされます。この7年という期間については?
比嘉:いや、何もないですよ。それぞれアーティストって代表曲があると思うんですが、BEGINって定番曲が多いバンドなんです。「島人(しまんちゅ)ぬ宝」とか「オジー自慢のオリオンビール」とか、俺らが歌わなくても民謡酒場とかで誰かが毎日歌っていて、いつの間にかみんなが知ってる曲、みたいな感じになっていることが多い。ライブのセットリストを考えるとき、みんなが聴きたいだろう曲を入れていくと、ありがたいことに新曲が入る余地がない(笑)。ただ35周年なんでね、今回はちょっと甘えさせてくださいってことで。
――9月から来年3月までホールツアーも発表されました。全国各地を巡り最終地は石垣島ですね。
比嘉:35周年ということで、大きな会場やライブハウスだけでなく、いま活動の中心になっているホールツアーもやりたいと思いました。石垣島に関しては、やっぱり石垣島出身というイメージがBEGINを助けてくれた部分があって、そこへの感謝を届けたいという想いがあります。今度のライブ、全国からいろんな人が石垣島に集まってくれたらいいなと思うんですよ。イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」をLAで聴く、みたいな気持ちで、「島人ぬ宝」を石垣島に聴きに来ていただけたらと思っています。
BEGIN
Profile
ビギン 沖縄・石垣島で同級生だったボーカル・比嘉栄昇(ひが・えいしょう)、ギター・島袋優(しまぶくろ・まさる)、ピアノ・上地等(うえち・ひとし)により結成。1990年に『恋しくて』でデビュー。「涙そうそう」「島人ぬ宝」などヒット曲多数。6月28日(土)には「沖縄からうた開き!うたの日コンサート2025 in 那覇 supported by 第一興商」に出演。
オリジナルアルバム『太陽』
Information
7年ぶりとなるオリジナルアルバム『太陽』は、7月2日リリース。先行配信曲「太陽」などを含む全11曲が収録。通常盤3500円ほか。また9月19日から、東京・かつしかシンフォニーヒルズを皮切りに、全国35公演にのぼるホールコンサートツアー「さにしゃんサンゴSHOW!!~35年目の音楽旅団ツアー~」を敢行。最終地の沖縄・石垣市民会館公演は、来年3月28・29日。
anan 2452号(2025年6月25日発売)より