緑のヘアにメガネ、カラフルな服を身にまとい、キレッキレに歌い踊って国民の心を掴んだ人気者。大好きな奥様や友達、お兄さんのこと、意外な夢の話も教えてくれました。


スタジオの前の路地で撮影中、自転車に乗った小学生が通りがかり…彼がいることに驚いて二度見!! 口に手を当て見つめていた視線の先にいたのが、このページの主役、こっちのけんとさんです。

――今日かけていらっしゃるメガネは、いつものグリーンの太めの縁のメガネとは違う感じですね?

はい。今日は写真が白黒だと聞いたので、銀縁で、それがキラッと光ったりしたら映えるかなと思って、これを持ってきました。

――たくさんお持ちですか?

だいぶ減らしたんですが、60本くらいはあります。“このメガネが似合う人、なかなかいなそうだけど、僕なら戦える…?”というメガネに出合うと、“持っておかなければ!”という謎の気持ちが発動し、買っちゃいます(笑)。

――いつ頃からメガネをかけていらっしゃるんですか?

サラリーマンを辞めた後くらいからですかね。メガネがないと外に出られない的な精神状態になった時期がありまして。それ以来、人前に出るときにはかけるようになりました。

――昨年5月「はいよろこんで」が配信されて以来、怒涛の1年だったと思います。今年1月に“活動を少しセーブする”と発表し、先日復帰されましたが、ゆっくり、楽しい時間はとれましたか?

なんかあるかな…(と言いながらスマホのカレンダーを見る)、あ、あります! あの、大人になって初めて、高校時代の友達と妻の計5人で、ユニバ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)に行ったんですよ。みんなでユニバのホテルに泊まって。それがめちゃくちゃ楽しくて。

――いいですね、青春ぽい!

もうまさに。アトラクションに乗ってるときに写真が撮影されて、それを買ったり買わなかったり…みたいなの、あるじゃないですか。それを「あ、全部ください」って言ったらスタッフさんすごく驚いて(笑)。一緒に行った仲間はみんな、今も比較的近所に住んでいるくらい仲良しなんですが、友達すぎて、今まで写真とか撮ってなかったし、僕が“こっちのけんと”であることに気を遣ってくれている部分もあって…。でもそういうのを全部取っ払って、写真も撮りまくりました。振り返ると、思い出がキラッキラしているんですよ。帰ってきてからもなお幸せを噛み締めました(笑)。

歌うことの原体験は、小学5年、友人の家にて。

――そもそも音楽に興味を持ったのはいつ頃だったのでしょうか?

小学5年の学芸会か何かで、クラスで劇をやることになり、エンディング曲をクラスメイトが作ったんです。彼に、「自分が歌うのはちょっと違うから、菅生(けんとさんの苗字)に歌ってほしい」と言われて、放課後、彼の家に行って。その子がベッドの横にあるパソコンを開いて、「これに向かって歌って」と。

――レコーディングですか?

そうなんです。それで、学芸会の当日、劇の終わりにその曲を流したんです、僕らが作ったとは言わずに。そしたら聴いた人が、「誰の曲だか知らないけれど、めっちゃいい曲やな」って言ってて、「しめしめ」と(笑)。もともと音楽は好きだったし、所構わず歌っているタイプだったような気もしますが、みんなのリアクションを見て、“僕はもしかしたら、人前で歌を歌ってもいいのかも…”という気持ちになったというか、歌う許可をもらったような感覚がありました。音楽が好きとか、楽しいと思った原体験は、そこですね。

――大学時代にはアカペラサークルで歌っていたそうですが?

はい。アカペラって合唱っぽいのかと思ったら、ダンスしながら歌うようなサークルで、さらに僕がダンスをやっていると言ったら、「じゃあ振り付けとかも頼みたいかも!」なんて言ってくれたので、「…あら、腕が鳴りますなぁ~」と思って入会しました。歌ったり、ボイパをやったり、ダンスをしたり。今の僕の音楽やアイデンティティは、そのサークルで作り上げられたし、自分の居場所ができた、という感覚があって、とても楽しかったです。

――そのまま音楽の道に進もうとは思わなかったのですか?

アカペラでプロになるって、なかなか難しいんですよ。すでにゴスペラーズさんという偉大な先輩がいますし。あと、アカペラは人数がいないと歌にならないので、断念…と言うまでもなく、“その道はないんだろうな”と思って、サラリーマンになりました。でも鬱と診断されて休職、退職することになり、一人で多重録音をやってアカペラの曲を作り、動画をアップするようになったんです。

――確かに、多重録音できれば、一人でもアカペラ、歌えますね。

そうなんですよ。実はちょうどその頃今の妻と同棲を始めたばかりで、でも僕は無職になって収入ゼロになっちゃって、ものすごく罪悪感があって…。そんな中で、妻への感謝や、でも今の状況は自分にとってすごくありがたい、みたいなことを言葉にしようと思ったとき、独り言ではなく、メロディに乗せて歌にすれば何か伝わるのではないか…と思ったんです。メモ書きを発声するため、というのが、僕がオリジナルの音楽を作った第一歩でしたね。

――過去のインタビューの中で、ご自身の様々な活動に関して、奥様のため、奥様の家族のため、ご自身の家族や友達のため…というふうにおっしゃっているのが印象的でした。逆に、自分のために何かをしたい、とは思われない?

思わないです。会社を辞めて、最初にアカペラで曲を歌って自分を励まそうとした、その瞬間は自分のために、と思いましたが、あとはもう、あまり自分のためとは思わない。でも、なんでだろうな…。昔から“周りが良ければいい”みたいなところはあったかもしれない。

――3兄弟の真ん中だから?

そうなのかなぁ…。でも確かに、家族がいいところに収まって、空いているピースに自分が収まるのがいい、みたいな感じはありましたね。なんか、自分のためにってなると、申し訳なさが出ちゃう…。あぁ! あの、最近リリースした曲は、外からテーマをもらって、というか、良い意味で縛りがある中で作った曲なんです。今までの、ゼロから曲を作るという作業とはまったく違って、すごく楽しかったんですよ。

――「けっかおーらい」はアニメのオープニングテーマ、「それもいいね」はNHK Eテレの子供番組のキャラが歌う曲ですね。

そう。「けっかおーらい」は個人的にも大好きなマンガ『ヴィジランテ ‐僕のヒーローアカデミア ILLEGALS‐』のオープニングテーマです。この主人公・灰廻航一には、ヒーローにはなれないけれども人助けをしたい、という思いがあって、その気持ち、すごく僕、分かるんです。そういう意味で、アイデアもすぐ浮かんだし、作りやすかった。

――タイトルの意味は?

主人公が言いそうなセリフだということと、彼は月が出ている時間帯しか戦うことができないので、〈月下往来〉という言葉を作り、〈結果オーライ〉と合わせました。

――なるほど…。

「それもいいね」も、小学生向けの朝の番組のエンディング曲で、多様性的な概念を子どもに伝えるときにどんなふうに言ったらいいかを考えて出てきたのが、〈それもいいね〉という言葉で。番組のお話を聞いてすごく共感したので、こっちもノリノリで作りました。この2曲を作ったことで、自分じゃなくて、テーマをもらって、別の誰かのために曲を書くのって楽しそうだな、という夢ができましたね。いろんな人が「はいよろこんで」をカバーしてくださったのをYouTubeでたくさん見たんですが、それがどれも素晴らしくて。同じ曲でも歌う人によって全然変わるんですよね。なので、ぜひ楽曲提供をしてみたいです。

つらいときの支えは、最愛の妻と、大好きな兄。

――曲はもちろんですが、「つらい」と言ったり「休みたい」と口にするけんとさんの行動にも、助けられている人はたくさんいると思います。ご自身は、つらいときに何に助けられてきましたか?

まずは妻。明るくて、ストレスとの付き合い方がすごく上手な人で、忌憚ない意見をたくさん言ってくれる。彼女の存在が僕を本当にリラックスさせてくれますね。あとはやっぱり兄(俳優の菅田将暉さん)かなぁ…。僕が精神的に本当につらかった頃に一番見ていたのが、YouTubeに上がっていた兄のCMのメイキングの動画で。撮影現場で頑張る兄の姿を見て、勇気をもらいました。僕、頑張っている人の背中を見るのが好きで、すぐ泣いちゃう(笑)。NHKでやっていたサカナクションの山口一郎さんの闘病のドキュメンタリーも、僕も同じ状況になったことがあるので、大泣きしながら見ました。あと、山口さんを支えるメンバーの気持ちを知って、僕も人に支えられていたことに気付かされたというのも大きくて。あの番組を見て以来僕には、サカナクションさんの曲がより一層魅力的に聞こえるようになったんですよね。たぶん僕の音楽も、僕のいろんなことを知って聴いてくれたほうが楽しんでもらえるのでは、と思っていて。なので僕も、自分の素の部分をなるべく出していきたいと思ってます。

――さきほど音楽的な夢は伺いましたが、プライベートでの夢は?

直近では、結婚式を挙げる予定なので、成功させたいです(笑)。あと、いつか、プライベートなバドミントンのコートが欲しい…。

――バドミントンのコート?!

高校時代にやってたので、最近またやりたくて体育館を借りようとしたんですが、団体を作って登録しなきゃいけないらしく…。じゃあ外で、と思ったものの、風が強くて断念。っていうか、区営の施設にこんな緑の男がいたら、みんな嫌じゃないですか(笑)。なので、無限に遊べるコートが欲しい。いつか叶うといいなぁ…。

こっちのけんとさん

Profile

1996年生まれ、大阪府出身。2019年から“1人アカペラシンガー”としてYouTubeで活動を始め、会社勤めを経て’22年、楽曲「Tiny」を配信&MV公開。’24年にリリースした6枚目のシングル「はいよろこんで」が世界的にヒットし、第66回日本レコード大賞にて最優秀新人賞を受賞、第75回NHK紅白歌合戦に初出場を果たした。

『けっかおーらい EP』

Information

TVアニメ『ヴィジランテ ‐僕のヒーローアカデミア ILLEGALS‐』のオープニングテーマ「けっかおーらい」や、NHK Eテレで放送中の『The Wakey Show~ザ・ウェイキー・ショウ』エンディングテーマ「それもいいね」のセルフカバーなど、先行配信された人気の2曲を含む6曲を収録した、自身初のCD『けっかおーらい EP』(Sony Music Labels Inc.)が発売中。

写真・内山めぐみ インタビュー、文・河野友紀

anan 2451号(2025年6月18日発売)より

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同情の余地がある問題に直面してスパッと割り切ることができない(すぐに結論を出して行動に移せない)状況を暗示する日。しばらく保留にしつつ、打開の兆しが表れるのを待つ必要があるでしょう。いわゆるネガティブ・ケイパビリティです。現状をよく把握して共感的に人と関わること。それが安心を生み、信頼を高めます。

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