子どもの頃に見えていた風景って、今でも同じように見えますか? おそらく「懐かしい」とかいう感情になるとしても、以前とは違った見え方をするんじゃないかしら。そんな「子ども目線」にこだわり抜いて、大人の世界を描いた傑作『ルノワール』が公開されます。


大人になってから追体験する子ども目線の大切さ。

’80年代後半。父が闘病で入退院を繰り返している11歳の少女フキは、豊かな想像力をフル回転させ楽しく暮らしていました。でも、その想像は全て、彼女から見える大人の世界からの派生。たとえば、作文では「みなしごになりたい」と書いてみたり、テレビ番組で大流行していた超能力者のマネごとをしてみたり。それもこれも、死期の迫る父の世話でイラついてしまっている母との生活のストレスから。そんな中、匿名で孤独を吐露する伝言ダイヤルを聞き始め……。フキから見えている大人の世界、そこに巻き込まれていく彼女のさまを描いたヒューマンドラマ。

ほんとびっくりなのは、フキ役の鈴木唯さん。説明セリフ、ナレーションなしで進む物語なので、大人から見たら謎行動の連続というフキがどう感情を動かしているのかを、ほぼ表情だけで演じきってるの。説得力ありすぎで、自分の子ども時代に「あー、親がこういう状態の時って私もこうして逃げてたわ~」って感情移入しちゃう。しかも、事件は多発するんだけど、それが大きな山になるかというとそうじゃないの。ごく淡々とフキの心の動き、彼女の目で見た不完全な大人の世界を描き出していて、ラストは静かな感動が。『PLAN75』で鮮烈な長編デビューを果たした早川千絵監督の実体験をもとにしたひと夏の物語。今夏、懐かしい風景や人々に再会するのなら、その前にこの作品を観て自分ごとに置き換えてみて。そうすると、子どもの時とも大人の懐古的な視点とも違う、見えていなかったモノや色が見えてくるかもしれませんよ。

『ルノワール』

Information

監督・脚本/早川千絵 出演/鈴木唯、石田ひかり、中島歩、河合優実、坂東龍汰、リリー・フランキーほか 6月20日より新宿ピカデリーほか全国公開。Ⓒ2025「RENOIR」製作委員会/International Partners

文・よしひろまさみち

anan2451号(2025年6月18日発売)より

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