西森路代『あらがうドラマ 「わたし」とつながる物語』

何かしらの生きづらさを抱えている人が多い今の時代。その社会的背景や当事者の声が落とし込まれた日本のドラマ23作品にスポットを当てた書籍『あらがうドラマ 「わたし」とつながる物語』が話題だ。著者は、雑誌や新聞、ウェブメディアなどで日本のドラマに関するコラムや批評を数多く執筆してきたライターの西森路代さん。そもそも自身のフェミニズムへの関心が、本書で取り上げているようなドラマに着目するきっかけとなったそう。

「自分らしく生きていい」と、あらがうドラマは感じさせてくれる。

「個人的な出来事をきっかけに、日本の女性が抑圧されていることに気づき、フェミニズムに関する本を読み漁り始めたのが今から14年ほど前のこと。その後、日本のドラマでフェミニズムを強く意識したのは、坂元裕二さんが脚本を手掛けた2015年のドラマ『問題のあるレストラン』です。真木よう子さん演じる主人公が、親友に性加害を行った男性にバケツいっぱいの氷水を浴びせるシーンは衝撃的でした」

この作品を始点に、『逃げるは恥だが役に立つ』『虎に翼』といったビッグタイトルや、実は深いテーマが込められた秀作ドラマなど、西森さんの読み解きと筆力で、その見どころが鮮やかに浮かび上がる。

「日本のドラマはフェミニズムの問題が描かれていながらも、表向きはとっつきやすいラブ・コメディであることも多い。『逃げるは恥だが役に立つ』や小芝風花さん主演の『妖怪シェアハウス』は、まさにそう。女性の社会的な抑圧に対して『自分らしく生きていい』『怒りを表して何が悪い』とメッセージを送っている。それは私がこの本を書いて、最後に行き着いた答えでもあります」

本書のタイトルの“あらがう”とは、今見るべきドラマを厳選していくうちに辿り着いたテーマだという。気づけばどれも、現状を打破しようと“あらがっている”作品なのだと。

「あらがう対象は、それぞれ異なります。私自身経験のない痛みもありますが、物語を通して伝わり、泣きそうになることも。自分と立場が違うことは、もう障壁にはならないんですよね。単に楽しくドラマを見るだけでも、もちろんいいと思います。でも、せっかくなら物語に込められた意図を知りたいという人には、作品をたくさん見ることをおすすめします。見過ごしていた感情に、次第に気づけるようになるはずです」

Profile

西森路代さん

にしもり・みちよ 愛媛県出身。日本のドラマや映画はもとより、韓国映画に関する執筆も多数。アジアエンタメのルーツは香港。著書に『韓国ノワール その激情と成熟』(Pヴァイン)など。

『あらがうドラマ 「わたし」とつながる物語』

Information

“組織と労働”“恋愛の現在地”など7つのテーマでドラマを紹介。『エルピス―希望、あるいは災い―』『団地のふたり』などを取り上げる。303BOOKS 1870円

写真・土佐麻理子 インタビュー、文・保手濱奈美

anan2448号(2025年5月28日発売)より

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社会に生きるうえで欲望が表面化しやすい日です。例えば買い物欲求。欲しいものをあれもこれもと買い物かごへ放り込んでしまうかも。経済を回す目的では良いことかもしれませんが、生活を圧迫するほど浪費してしまわないように自己セーブが必要です。買い物に限らず、あらかじめ欲求の限界ラインを決めておきましょう。

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