大阪暮らしの39歳の女性に訪れた望み薄の恋と、生活の転機。青山ヱリのデビュー作

青山ヱリ『あなたの四月を知らないから』

デビュー作とは思えない豊かな文章世界に引き込むのが、青山ヱリさんの『あなたの四月を知らないから』だ。創作大賞2024の朝日新聞出版賞を受賞した「大阪城は五センチ」とそのスピンオフ「ゼログラムの花束」の2編を収録する。


大阪暮らしの39歳の女性に訪れた望み薄の恋と、生活の転機。

「大阪城は五センチ」は39歳の会社員、八木由鶴(ゆづる)が主人公。とりわけ特技も趣味もない彼女に自信を与えてくれるのは、コツコツ貯めた1000万円の貯金。そんな由鶴視点の一人称文体は気負いがなく、じつにユーモラス。思わず噴き出してしまう場面や表現がちりばめられている。

「ああ面白かった、と思ってもらえる小説を書きたかったので、明るくからっとした主人公にしました。でも、そういう人も悩みがないわけではないんですよね。それに、30代から40代と年代が変わる時期って、焦りがあったり、新しいことをしてみたくなったりと、気持ちに少し変化があると思うんです」

由鶴は1年前から女性向け風俗のセラピストの宇治と逢瀬を重ねている。割り切った関係のつもりだったが、ある時、由鶴は彼に対する恋心を自覚してしまい…。

「4年前にこの話の原型を書いた時は、そこまで由鶴は恋をしていなかったんです。でも、いつも言ってほしい言葉を言ってくれる理解者のような相手に、そんなにフラットでいられるかなと思って」

この宇治という青年が気さくで優しくて魅力的。一方、会社の部下で友人の多部ちゃんがマンションを購入したことに触発され、由鶴も物件を探したり、住居サブスクリプションサービスを利用したり。

「私は家に執着がないほうですが、おうちにこだわりがあったり実際購入されたりする方もたくさんいる。そういう方と私はなにが違うのか考えてみたかったんです」

少しずつ心境の変化を迎え、やがて由鶴が下した決断は――?

「ゼログラムの花束」は宇治視点。彼がなぜ風俗の仕事を始めたのか、その事情も見えてくる。

「受賞が決まってから、宇治の話を書きませんかとご提案いただいたんです。彼がなぜ気遣いができる男性なのか、なぜこの仕事を始めたのか、生い立ちから考えていきました」

どちらも主人公の機微を丁寧に描き、最後には前向きな気持ちにさせてくれる。確かな筆力に脱帽。

Profile

青山ヱリさん

あおやま・えり 1985年生まれ。大阪府出身、東京都在住。地方の文学賞での入選を経て、note主催の創作大賞2024にて「大阪城は五センチ」で朝日新聞出版賞を受賞し、小説家デビュー。

『あなたの四月を知らないから』

Information

日常に不満はないけれど、満足しているわけでもない。そんな39歳女性の機微をリアルに描く「大阪城は五センチ」とスピンオフを収録。朝日新聞出版 1760円

写真・中島慶子 インタビュー、文・瀧井朝世

anan2448号(2025年5月28日発売)より

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