
話題作に続々と出演してはその演技力で爪痕を残し、今まさに引っ張りだこの原菜乃華さん。朗らかで柔らかい雰囲気の内側に光る、確かな覚悟と芯に迫ります。
映画『ミステリと言う勿れ』や『【推しの子】』など話題作への出演が絶えない原菜乃華さん。現在はNHK連続テレビ小説『あんぱん』でヒロインの妹・メイコを演じている。役柄同様、この撮影中も終始朗らかな笑顔で、現場の雰囲気を温かく、明るくしてくれました。

――撮影でストレッチをお願いした一幕もありましたが…。
原菜乃華さん(以下、原):カラダ、硬いんです…(笑)。でも、股関節は柔らかいんですよ! (小誌の既刊号を見て)京本(大我)さんが表紙の号だ!
――京本さんは、原さんが主演する映画『見える子ちゃん』で共演されていますよね。
原:はい。勝手にクールな方なのかと思っていたんですけど、気さくに話し掛けてくださって。私が好きな漫画やアニメをプレゼンしたら聞いてくれたり、周りへの気遣いがあるところが、映画での役柄の先生そのままでした。
――お二人には漫画やアニメ好きという共通点がありますよね。『見える子ちゃん』も漫画原作です。読んだ感想は?
原:ホラー作品なのに、“霊が見えているのに無視する”という設定がすごく斬新で、ギャグとホラーが作り出す独特のテンポ感がツボでした。そこは、映画にもちゃんと反映されています。
――この作品で難しかった点は?
原:最初はとにかく「怖い、怖い」という表現が前に出てしまって…。
――ホラー映画は、登場人物が大袈裟に怖がることで観客の恐怖を煽ることが定石でもありますし。
原:そうなんです。私もそういうものだと思っていたことを崩す作業が一番大変で、一番大事だったと思います。(演じる)みこには霊が見えていることを周りに悟られてはいけない。でも、怖がっていることを観客のみなさんには届けなければならず、その塩梅がすごく難しかったです。監督には「みこが見えている景色が観客にも見えている。みなさんを信じて、もっと抑えて大丈夫」と言っていただき、みこの心の機微を届けようと、監督と本当に細かく表現を調整していきました。
――作中、高校の文化祭準備が楽しそうだったのも印象的でした。
原:私の高校時代はコロナ禍でイベントは全部ダメになってしまったので、撮影を通じて青春を取り戻せたような気持ちになれました。そうしたシーンは、観客のみなさん自身の学生時代と重ね合わせて観ていただけると思いますし、最後は泣けるヒューマンドラマにもなっているので、ホラーが苦手な方でも楽しめる、いろんな感情になれるジェットコースターのような作品です。
――ちなみにご自身は、霊はいると思いますか。
原:私は“見えない子ちゃん”なんです(笑)。でも、心霊スポットで撮影した次の日に見える方に会ったら「昨日、どこか行きましたか。背中に女の子がいますよ」と言われたことがあって。気にはなりましたけど、なるべく考えないように過ごしていたら、何も起こらなかったのでよかったです。
演じることがアイデンティティだった。
――昨年、ドラマ&映画『【推しの子】』でアイドルを演じた縁で、『ミュージックステーション』に出演したことが話題になりました。
原:あの日はとてつもなく緊張して、記憶にモヤがかかっているんですよね。覚えているのは、出番が終わった後に脱力して足腰が立たなかったことくらい…。齊藤なぎささんやあのちゃんが本当に頼もしくて! あのお二人でなければ乗り切れていなかったと思います。人生の最期、走馬灯に出てくるだろうなというくらい(笑)、インパクトのある、貴重な経験でした。
――アイドルになろうと思ったことはなかったんですか。
原:私、初めてできた夢がアイドルになることだったんです。『きらりん☆レボリューション』というアニメの月島きらりちゃんが大好きで! お姫様になるのも夢でした。それは『どうする家康』の千姫で叶ったんです。たくさんのご褒美を用意してもらえていたようで、役者を続けてきてよかったなって。あと、叶っていない子どもの頃の夢は人魚姫。なれる作品、お待ちしています(笑)。
――6歳でスカウトされ、芸歴はすでに15年と長いですね。
原:物心ついた頃には、活動を始めていたという感じでしたね。他の子が学校終わりに習い事へ行く感覚で、私はオーディションへ。死ぬほど受けて、全部といっていいくらい落ちてきました。
――それはしんどかったのでは? 幼少期に人と比べられた結果“ダメ”と判断されることは、なかなか…。
原:そうですね、今思うと大変でした。
――でも、辞めなかった。なぜ続けられたのでしょう。
原:ひとつは映像作品を観るのが大好きだったから。母が撮り溜めたドラマを見るほうが、外で遊ぶよりも楽しかったんです。それと、私には他の人に褒められることがお芝居くらいしかなかったんですよね。子どもなりに、演じることがアイデンティティになっていたんだと思います。オーディションという「この役を取りたい」という想いがすごく強い子たちが集まる場所にずっといたので、そもそも辞めるという選択肢が私の中に存在していなかった気がしますね。レッスンに行って、オーディションを受けては落ちての繰り返しで、お仕事はない、青春っぽい思い出も何もないんです。辛かったけど、あの時間がなかったら、今こんなにも頑張れていないので、絶対に必要だったと思います。
――活動を始めた当初からプロ意識が高かったところから、さらにもう1段、俳優としてギアが上がったタイミングは?
原:高校卒業で、この道に進もうと決めた時でした。大学進学とか、もちろん悩みはしましたけど、私は一本に絞らないとダメになるなって。仕切り直しじゃないですけど、覚悟を決める意味で、退路を断ちました。
――転機になった作品というと?
原:初めて声のお仕事に挑戦させていただいた映画『すずめの戸締まり』です。あの作品で知ってくださった方がたくさんいるという意味でも、私自身の体験としても大きかったなって。初めてアニメーションを映画館で観て泣いたのが『君の名は。』で、その新海誠監督の作品に、まさか自分が関われるとは思ってもみませんでした。声のお仕事は、アニメーションというカルチャーを好きないちファンとしても、機会があれば続けたいです。アフレコ、大好き!
――そんなにも好きな理由は?
原:アフレコはカメラがない、誰もいない密閉された空間でできるので、お芝居に、より集中できるんです。小さい頃から大勢のスタッフさんの視線に囲まれ、それまでは当たり前と思っていたんですけど、アフレコだと別の部屋から出る指示が耳に伝わってくるだけ。ひたすら自分だけと向き合いお芝居できる自由さに嬉しくなります。
現場を楽しめる心地よさを感じていたい。
――目覚ましい活躍を見せていますが、朝ドラ『あんぱん』出演についてはどんなふうに感じていますか。
原:昔を思うと夢のようです。小さい頃からNHKにはオーディションで何度も行きましたけど、スタジオに入れたのは『どうする家康』が初めて。すごく嬉しかったですし、今回も「NHKの楽屋を使えている!」という時点で感動しています(笑)。
――いつかはヒロインで、という気持ちは…?
原:もちろん、できたらすごく嬉しいです! でも私、あまり具体的な目標を持っていなくて。今までは「この役が取れなかったらどうしよう」と切羽詰まっていて、ずっとべダルをぐわ~って漕いでいる感覚だったんです。それがようやく少しずつですけど、現場を楽しめるようになってきたので、この心地よさを感じながら、ずっとワクワクしていたいです。
――ペダルを漕ぐ速度を緩めることができたんですね。
原:そう言われると、そんなには緩められていないかもしれません。でも…まだお仕事で何もできていないのに、私生活を楽しむことにどこか罪悪感があった頃に比べると、最近はちゃんと生活をしたいと思うようになってきました。会いたい人と会う、行きたいところに行ってみる。これまでおろそかにしていた、そうしたことを大切にしていきたいです。それで、目黒寄生虫館に行ったんですよ。
――それはまた、ユニークな場所を選びましたね。
原:両親が2回目のデートに行ったところで、母からすごく面白いと言われていたのでずっと行ってみたかったんです。寄生した生物に根のような器官を張り巡らせて行動まで操ってしまう寄生虫がいるんですよ。一つの節に卵巣と精巣のどちらも持っていて、自分だけで殖(ふ)えていけるサナダムシもいて。それって完全な生命体じゃないですか! 物語になりそうだなって思いながら見ていました。
――お話に熱がこもっていて、楽しかったことが伝わってきます。
原:でも基本的には、休みの日は家から出なくて時間が溶けてしまって、体感4時間くらいしかないです(笑)。読みたい小説や見たいアニメが溜まっているんですけど、義務のように消化するのが嫌なのと、作品に触れて感情が動きすぎると体力を消費してしまうので、ものすご~く寝るという、一番よくない選択を取ってしまっている気がします(笑)。
――目黒寄生虫館の次に、行きたい場所はあるんですか。
原:アニメ『チ。‐地球の運動について‐』が本当に素晴らしくて、その特別展を日本科学未来館でやっているので、行きたいですね。それと去年、スカイバスにハマったので、定期的に乗りたいです。あとは、工場地帯の夜景を見るクルージングにも!
Profile

原菜乃華
はら・なのか 2003年8月26日生まれ、東京都出身。’09年より芸能活動をスタートさせる。『おはスタ』の出演などを経て、’22年公開の映画『すずめの戸締まり』で第18回声優アワード新人声優賞を受賞。現在、NHK連続テレビ小説『あんぱん』にヒロインの妹役で出演中。映画『不思議の国でアリスと‐Dive in Wonderland-』が8月29日全国公開。
映画『見える子ちゃん』
Information
泉朝樹による同名漫画を原作に、中村義洋の脚本・監督で実写化した映画『見える子ちゃん』。女子高生・四谷みこ(原菜乃華)はある日、突然霊が見えるように。見えないフリをしてスルーし続けようとするみこだったが、産休に入る担任教師の代理で赴任してきた遠野(京本大我)の登場をきっかけに、親友のハナ(久間田琳加)に異変が起こり始め…。6月6日(金)より全国公開。
写真・須田卓馬 スタイリスト・山田安莉沙 ヘア&メイク・馬場麻子 インタビュー、文・小泉咲子
anan 2448号(2025年5月28日発売)より