
映画『百円の恋』や連続テレビ小説『ブギウギ』(NHK)の脚本などで知られる足立紳監督が、自身の私生活をもとに書き上げた小説を原作としたドラマ『それでも俺は、妻としたい』が映画化。劇中で主人公・柳田豪太と妻のチカを演じる風間俊介さん、MEGUMIさん、そして足立監督を迎えて、撮影時の思い出や本作の魅力についてたっぷり教えてもらいました。
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日常を舞台にしたチャレンジングな作品
── 本作の出演オファーが来たときの率直な感想はいかがでしたか?
風間俊介さん(以下、風間) リアルな夫婦生活を描くことを目指した作品というのは多々あると思うのですが、本作はなかでも飛び抜けて詳(つまび)らかだなと思いました。ここまでさらけ出すのかと、衝撃的な印象が強かったです。
MEGUMIさん(以下、MEGUMI) 最近の映像作品は、起承転結が色濃く描かれていたり、サプライズ的な演出のあるものがきっと主流だと思うんですけど、そういうものを完全に無視していて。夫婦のリアルな日常や、気持ちが揺れ動くなかで起こるちょっとした事件に焦点を当てているのが、ものすごくチャレンジングな作品だと思いました。
風間 確かに。実際に豪太という役を通して柳田家の物語に飛び込んだことでよりこの作品のリアリティを体感できた気がします。監督の実際のご自宅をそのまま柳田家のセットとして使っているということもあり、ある種ドキュメンタリー性があるというか、最初に抱いていた印象より3倍くらいリアルな作品でした。
MEGUMI 原作や脚本を読んで感じたのは、とにかく会話の面白さ。“あるある”が本当に細部にまで散りばめられていて、くすくす笑いながら読ませていただきました。その反面、観た方はどういうふうに受け止めるんだろうかと不安もありました。正直、色々な気持ちが混ざり合っていましたが、こういった作品に挑戦できること自体が貴重な機会ですし、光栄だと思っています。

風間 まずはドラマ版が視聴者の方々に受け入れられたときは本当にほっとしましたよね。良かったー!って。
MEGUMI 本当にほっとしたし、すごく嬉しかったですよね。
── 足立監督はお二人の演じる豪太とチカをご覧になっていかがでしたか?
足立紳監督(以下、足立) 主人公の豪太は僕自身をモデルに書いているのですが、回を追うごとに風間さんがどんどん豪太になっていく感じがあって、「あ、豪太ってこういう人間だったんだ」と編集しながら気付かされることがたくさんありました。
── 風間さんにオファーされたきっかけはなんだったのでしょうか?
足立 自分がモデルなのでどなたがいいのか考えずらかったのですが、プロデューサー陣から風間さんが合うと思うと勧められたことがきっかけです。確かに風間さんは役者として演技力も存在感も申し分ない方ですが、情報番組やEテレで放送されている福祉や社会問題を扱う番組などでも司会として活躍をされている姿をみて、聡明なイメージがあり、豪太というキャラクターにハマるかな?と感じる部分も少しありました。
ですが、もともとみっともないイメージの強い役なので、風間さんがお持ちの可愛げや優しさがむしろキャラクターに活きるのではないかと思い、オファーさせていただきました。そして、のちのちその聡明さが混ざってきて、僕の想像のはるかに上をいく豪太像を作っていただきました。

©「それでも俺は、妻としたい」製作委員会
足立 風間さんの演じる豪太には、小賢しさのようなものが滲みでてきたんです。もちろん風間さんが小賢しいという意味ではなく、その聡明さが脚本上のみっともない豪太と混ざり合って、先ほど言った「あ、豪太はこんな人間だったのか」と発見したような気持ちになりました。そういう部分が観ていて面白いし、そこにチカがイライラしていくのもすごくよく分かる。
僕はそんな豪太がすごく愛おしく見えてきて、10話あたりの仕上げ作業をしていた頃、いろんなスタッフに「豪太ってある種、理想の夫じゃないですか?」と思わず言ってしまいました。誰にも共感してもらえませんでしたが。
一同 笑
MEGUMI その話を聞いた時は私たち二人とも震え上がりましたよ!

©「それでも俺は、妻としたい」製作委員会
風間 監督は真剣に愛を持っておっしゃってくださっているから嬉しいんですけど、どういうリアクションを取ったらいいのか悩みました。
MEGUMI その境地にはまだ到達できていないです。
足立 実は、映像化が決まる前からチカ役にはMEGUMIさんを思い浮かべていたんです。罵倒する感じもハマるだろうなと想像していたのですが、もっとなんてことのない生活感のあるシーンでの佇まいがまた本当に素晴らしかった。例えば、嶋田鉄太くんが演じる息子の太郎に対して「早く用意してよ」と注意するシーンで、どこのお母さんも一度は言ったことがあるであろうその言葉によりリアリティを感じてグッときました。
── 声のトーンやテンポが本当に絶妙でした。
足立 西村というディレクターとの打ち合わせで少しだけお酒を飲んで帰ってきたところを豪太に詰められるシーンも最高です。「飲んできたの?」としつこく聞いてくる豪太に対して、「飲んでくるよ、そりゃ」と一言で返す感じとか。表情がすごく良くて、編集しながら何度も観返してしまいました。チカという人間の生活感を含めたリアリティを存分に引き出していただいたなと思っています。

©「それでも俺は、妻としたい」製作委員会
まるで本当の家族のような空気感
── 豪太もチカも癖が強く、一歩間違えると批判されかねないキャラクターでもあるのかなとも思うのですが、演じるうえで気をつけていたことや演出でこだわった点などはありますか?
足立 僕自身は役作りについて特別に演出をした記憶はないんですよね。
風間 僕も役作りについて監督と話したり、計画的に練ったりはあまりしていないかな。むしろ、監督のご自宅というパーソナルな撮影環境で、柳田家の家族とみんなで暮らすなかで自然な気遣いや距離感が生まれたというか、導かれたような感覚があります。
MEGUMI 私はチカをただの鬼嫁みたいにはしたくなかったんです。過去のコンプレックスであったり、家族に対しての背負いや母性、わずかな光にしがみつこうとする必死さなどを見せられたら、あれだけ罵倒をしていてもただ強いだけにはならないんじゃないかなというのは、最初のころに監督と話した記憶があります。

©「それでも俺は、妻としたい」製作委員会
── 撮影中の柳田家はどういう雰囲気でしたか?
MEGUMI 撮影中はずっと一緒にいて、本当の家族みたいでした。リビングで風間くんがルービックキューブをしている横で鉄太くんは寝転びながら漫画を読んでいて、私は筋トレしているみたいな。なかなか普通の撮影現場でそこまではなれないと思うんですけど、そういった自然な関係性が柳田家の空気感を作っていたと思います。
── 足立監督のご自宅という環境も大きそうですよね。
MEGUMI 私は撮影でご自宅のお風呂に何度も入らせていただきました。
足立 お風呂のシーンも好きなんですよね。ラストにMEGUMIさんが毎回一芝居入れてくれるのが面白くって。
MEGUMI バラエティの現場で、「ラストは爪痕を残せ」とさんざん学んできたので(笑)。
足立 ちょっとした表情などから豪太へのかすかな気持ちのようなものをすごく感じられたんですよね。
MEGUMI あの一瞬にチカのさりげない本音が見えますよね。

©「それでも俺は、妻としたい」製作委員会
リアルな“柳田家”の姿から気づくこと
── ドラマ版の放送を経て、劇場版がまもなく公開となります。みなさんは本作に対する想いや捉え方に変化はありますか?
MEGUMI あまりにも言っちゃいけないことが多くなってきた昨今、こんなにも自分たちの感情や思っていることをぶつけあえる豪太とチカのエネルギーは素敵だなと思ったし、少し羨ましくもあります。家族だからこそ言えるというのもありますが、実際は親子や夫婦であってもこんなに言わないし、分かってもらうことを求めなくなっている気がしていて。
彼らのように目の前の人に対して向き合うことを諦めない姿勢は、ある種これが人間の本質だなと考えさせられてハッとしました。一方で、「みんな形は違えどこんなもんでしょ」とも思えて、ホッとした部分もあります。
足立 僕も劇場版を観て、改めて2人はこんなもにずっと喋っていたんだなと思いました。会話の内容や言葉遣いは本当にろくでもないですが、とにかく一生懸命。対話が大切という当たり前のことに気付かされたというか。何に対してなのかはよく分からないけど、その一生懸命さが映っていることで、この家族をギリギリ観ていられるのかなとも思いました。

風間 この作品は柳田家というひとつの家族をリアルに覗き込めるチャンスだと思っています。どんな家族も、外では社会と向き合うためにある程度取り繕うものだろうし、家の中にいるときだけが本当の家族の姿が見えるんだと思うんです。
そのうえで完成した本作を観て、やっぱり家族にはそれぞれの形があって、この柳田家とうちは違うし、世界中を探したって柳田家は柳田家で、風間家は風間家なんだと改めて実感することができました。
足立 柳田家の物語を描くにあたって、多くのドラマや映画に出てくるようなよくある記号的な家族には見えないように気をつかいました。だからよそはよそ、うちはうちの家族の形があると感じてもらえるのかなと思います。
── 初めて本作を観る読者に向けて、改めて皆さんの思う見どころを教えてください。
足立 個人的に映画やドラマは俳優さんを観るものだと昔から思っています。本作も風間さん、MEGUMIさん、嶋田鉄太くんという素晴らしい俳優さんたちがこのひとつの家族の形を作ってくれたと思うので、ぜひ皆さんを観に劇場へ足を運んでもらえたら嬉しいです。
風間 ここまでリアリティのある家族のやりとりを覗き込む経験はなかなかできないと思うので、人生の中で「ほかの家はどうなっているんだろう」と一度でも想像したことのある方は、ぜひ劇場で観てもらいたい作品です。
MEGUMI 柳田家の日常を映画を通して俯瞰することで、「こんな感じでやっているなら我が家ももう少し頑張ってみようかな」と思えたり、まだ結婚をしていない方にとっては、なかなか普段知ることのできない数年後、何十年後の家族の形を想像して、「結婚ってこういうことなのね。でも、なんか素敵だな」といったポジティブなエネルギーになれたらいいなと思います。

3人が語る、いま好きなこと
── 最後に皆さんの、いま好きなことを教えてください。
MEGUMI 『No No Girls』というオーディション番組を見て、ちゃんみなさんにハマりました。ああいう方に育ててもらえたら人生もめちゃくちゃ変わるんだろうなって思います。アーティストとしてはもちろん、指導者としても素晴らしい。20代でどうしたらあんな言葉が出てくるんでしょうね。ちゃんみなさんの子供になりたいくらい大好きです。
風間 こういう質問には弱いんですよね。その点で、MEGUMIさんは本当にそういった栄養価の高いものを自分で試してみるという好奇心がすごいんですよ。
MEGUMI それは風間くんも同じじゃない?
風間 僕の場合は昔から好きなものがずっとあって、それらをかき集めて発信しているけれど、MEGUMIさんは新しいものも積極的に摂取している。そのうえでちゃんと仕分けるというのは本当にすごいと思っています。
── 足立監督はいかがですか?
足立 うーん、好き、かぁ…。1番好きな食べ物はスイカです。理由はないんですけど、気づいたら本当に好きで。僕の田舎は鳥取でスイカの名産地なんです。友人がスイカ農家をしていたりするので、送ってもらったりして旬の季節になると毎年たくさん食べています。

MEGUMI いいですね、スイカ。ちなみに監督は配信も含めて新しい映像作品もよくご覧になるんですか?
足立 観ますよ。最近はNetflixのドラマシリーズ『アドレセンス』を観ました。
MEGUMI 私も最近観ました! すごくよかったですよね。
風間 さっきも話していましたよね。ドラマの1話を全部ワンカットで撮っているんですよね?
MEGUMI そうそう。ドローンとかも出てくるんですど、手持ちからドローンへ手渡しでセットして撮っていたりして、とにかく撮影がすごいんです。
風間 昔『スネーク・アイズ』(1998)という洋画で、ものすごく長いワンカットが話題になったけど、あれでドラマを1本作るということですか? すごい!
MEGUMI すごいと思うと同時に、海外の作品に一本取られたというか、悔しいとすら思いますよね。
風間 悔しいけど、実際に出演オファーが来たら…やるな(笑)。出るって決めてから現場で「俺がNG出したらこれ全部撮り直し?!」って後悔するんだろうなと想像しちゃいます。
MEGUMI 風間くんは受けるよね。私も受けると思います。絶対ものすごいプレッシャーだけど。

風間 僕は今までの人生で美容というものをあんまり大事にしてこなかったんですけど、この作品の現場で美の伝道師であるMEGUMIさんから直々に、日々のスキンケアの大切さを教えてもらい興味を持つようになりました。ところが、作品が終わってホッとしたのもあり、忙しさにかまけてサボってしまって…。今日またご一緒できたことで心を改めたいと思いました。まずはちゃんと化粧水をつけるところから頑張ります!
MEGUMI シートマスクと美容液もありますよ!
風間 シートマスクに美容液、目元をやってからクリームでしたね。本当はもっとステップがあるところを伝道師がぎゅっと初心者用にメニューを作ってくれたので、それだけはちゃんとやらないとなと思っています。
MEGUMI お願いします。今後の風間さんの美の進化にもご注目ください!
profile
風間俊介
かざま・しゅんすけ 1983年6⽉17⽇⽣まれ。東京都出⾝。1998年にドラマ初出演を果たし、翌年には『3年B組⾦⼋先⽣』(TBS)で話題を集め、2011年には『それでも、⽣きてゆく』(フジテレビ)で第66回⽇本放送映画藝術⼤賞 優秀助演男優賞など、多くの賞を受賞した。俳優としての活動に加えて近年は、朝の情報番組『ZIP!』(⽇本テレビ)の⽉曜パーソナリティや、ハートネットTV『フクチッチ』(NHK Eテレ)の司会、パラリンピック番組解説を務めるなど、これまでとは違ったフィールドでも頭⾓を現している。
MEGUMI
めぐみ 1981年生まれ、岡山県出身。女優。プロデューサー。『台風家族』『ひとよ』(19)への出演でブルーリボ ン賞助演女優賞を受賞。 近年では映像のプロデューサーとしても活躍の場を広げており、映像集団「BABEL LABEL」にプロデューサーとして参加。2023年、2024年には「キレイはこれでつくれます」(ダイヤモンド社)、「心に効く美容」(講談社)を出版し話題に。
足立紳
あだち・しん ⿃取県出⾝。⽇本映画学校卒業後、相⽶慎⼆監督に師事。脚本で参加した『百円の恋』(2014)で第39回⽇本アカデミー賞最優秀脚本賞、第17回菊島隆三賞受賞。監督作の『喜劇 愛妻物語』(20)で東京国際映画祭コンペティション部⾨最優秀脚本賞、第42回ヨコハマ映画祭脚本賞を受賞するなど、数多くの作品で高い評価を集めている。テレビドラマ『拾われた男』(NHK ディズニー+)、NHK連続テレビ⼩説『ブギウギ』などでも知られ、『春よ来い、マジで来い』(キネマ旬報社)『したいとか、したくないとかの話じゃない』(双葉社)などの小説作品も刊行している。
information

『それでも俺は、妻としたい』
柳田豪太、42歳。売れない脚本家で収入もなく、浮気や風俗で性欲を処理する勇気もなければ金もない。唯一の選択肢は妻・チカとのセックスだが、それを頼むことすらハードルが高い。日中働くチカに代わり不登校の息子・太郎の面倒を見たりとあの手この手でアプローチを試みるも、「働いていないんだから当たり前」と一蹴されてしまう。「したい」夫と「したくない」妻、すれ違う夫婦の夜をめぐる攻防戦の行方はいかに ——。
監督/足立紳、原作/足立紳「それでも俺は、妻としたい」(新潮文庫刊)、出演/⾵間俊介、MEGUMI/嶋⽥鉄太、吉本実憂、熊⾕真実、近藤芳正
2025年5月30日(金)ロードショー
©「それでも俺は、妻としたい」製作委員会