ありあわせの器でラーメンを食べたらラーメンを食べた気がしなかった、そんな経験を持つ人は案外多そうだ。もしラーメンとラーメンどんぶりが切っても切れない関係にあるとしたら、こう仮定してもいいかもしれない。日本におけるラーメンの始まりは1910年、東京・浅草で創業した來々軒の「支那そば」とされているが、以来続くラーメンブームの陰の立役者はラーメンどんぶりだと。


うまいラーメンとどんぶりは表裏一体。その成り立ちを追いかけて。

「21_21 DESIGN SIGHT企画展 ラーメンどんぶり展」では今や国民食であるラーメンとそれを食べる器との関係に着目。それぞれの成り立ちをデザインの観点から解明していく。

展示の花形はデザイン、建築などの分野で活躍する40名がデザインした「アーティストラーメンどんぶり」。

「40名の中にはラーメン好きも多く、『そもそもラーメンどんぶりとは?』と原点に立ち返る人もいれば、『もし自分の孫が使うなら』という設定でデザインした人も」

とプログラム・オフィサーの安田萌音さんは話す。なかでも強烈なインパクトを放つ蜘蛛のモチーフは、グラフィックデザイナーでイラストレーターの田名網敬一さんが美校時代に遭遇した、とある衝撃的なエピソードに基づくとか。

「それぞれのコメントにあるデザインの由来も併せて楽しんでください」

ラーメンどんぶりコレクター、加賀保行さんの約250点のコレクションも必見。北海道から鹿児島まで巡り、店主から直接譲り受けるなどした貴重なもの。すべて屋号の入った特注品だから、行ったことのあるお店を探したくなりそうだ。

ラーメンどんぶりの鑑賞に加えて、本展のディレクターを務めるグラフィックデザイナー、佐藤卓さんが考察する「ラーメンと器の解剖」のセクションも興味深い。

「2001年から続くプロジェクト『デザインの解剖』は、身近な製品をデザイナーの目線で読み解こうというもの。今回はラーメンとラーメンどんぶりを名称、具材、味、匂い、音、絵柄など26の要素に分解し、由来や成り立ちを考察します」

鶏油などの匂いを嗅いだり、どんぶりを叩いたり、来場者のアクションを促すコーナーも。チン、チンという澄んだ音の後ろに、美濃の土と炎が思い浮かべられるかもしれない。実はラーメンどんぶりの約90%は美濃で作られている。美濃は「美濃焼」の生産地として知られる岐阜県東濃地方の多治見、土岐、瑞浪を中心とした地域で、良質な陶土が採れたことから1300年以上焼き物の歴史を持つ。佐藤さんと共にディレクターを務める橋本麻里さんは「土のデザイン」の経験と技術の集積地ともいえる土地でラーメンどんぶりが作られていることに着目する。

「土というスローな素材から作られる器が高度経済成長以降、手軽に食べられるファストな食べ物、ラーメンの広がりを支えました。そこにどのような技術やデザインが関わっているのか、考えてもらえたら」

ショップではアーティストラーメンどんぶりが全品販売されるほか、展示の最後には近隣のラーメンマップも提示される。

「きっとラーメンを食べたくなってしまうと思います。会場を出たら本物のラーメンをお楽しみください」

アーティストラーメンどんぶり

田名網敬一
戦後のイラストレーターの草分け。サイケデリックな蜘蛛の絵柄は圧巻。

塩川いづみ
人気イラストレーターの手による十二支は飄々とした趣で味わい深い。

天明屋 尚
「ネオ日本画」を標榜する画家。伝統技法「赤巻」を両面に施し華やかに。

土井善晴
ラーメンをご馳走に見せる金銀を配したどんぶりは料理研究家ならでは。

横尾忠則
美術、デザインの分野で半世紀以上第一線で活躍。踊る骸骨が一面に。

服部一成
広告やパッケージデザイン、本の装丁を手掛ける。都市名がモチーフ。

仲條正義
資生堂パーラーのデザインで知られる。縁起のよい「吉」を用いて。

一乗ひかる
若手イラストレーターの解釈する“中華風”が見所。レンゲの裏まで可愛い。

粟辻美早
「焼豚」「極太」。ワードに着眼した点がグラフィックデザイナーの真骨頂。

皆川 明
マーブルチョコのようなカラーはファッションデザイナーらしい色使い。

伝統技法ラーメンどんぶり

美濃は現在も陶芸家を輩出。10名の作家が「青磁」「粉引」などの技法を用いて作陶したどんぶりにも注目を。

若尾 経「青磁 どんぶり」 撮影:Wagner Romano

富岡大資「粉引 どんぶり」 撮影:Wagner Romano

Information

21_21 DESIGN SIGHT企画展 ラーメンどんぶり展

21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー1&2 東京都港区赤坂9‐7‐6 東京ミッドタウンミッドタウン・ガーデン 開催中~6月15日(日)10時~19時(入場は18時30分まで) 火曜(4/29 、5/6は開館)休 一般1600円ほか TEL:03・3475・2121 ※写真は、ラーメンの解剖/具材

取材、文・松本あかね

anan 2438号(2025年3月12日発売)より
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