an-an-an、とっても大好き〇〇〇〇●

小島秀夫のan‐an‐an、とっても大好き○○○○●:第23回目『パルコ、アラ!? パルコ、デス!』

エンタメ
2025.03.15

小島秀夫の右脳が大好きなこと=○○○○●を日常から切り取り、それを左脳で深掘りする、未来への考察&応援エッセイ「ゲームクリエイター小島秀夫のan‐an‐an、とっても大好き○○○○●」。第23回目のテーマは「パルコ、アラ!? パルコ、デス!」です。

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1月のとある木曜日、コジプロでの“ゲームチェック”を切り上げ、14時台の品川発NOZOMIで名古屋へと向かった。フランスのアート雑誌『Numero art』(注1)の取材で来日していたライターのヴァンサン・ジョリさんと、25年もの付き合いになるセシール(注2)も同行することに。

新幹線で下り方面に乗る際には、僕はいつも進行方向右の窓ぎわを確保する。富士山を拝むためだ。当初は写真を撮るだけだったが、最近ではSNSにそれらを上げる慣習にもなっている。熱海を過ぎたあたりから、カメラを準備していたが、あいにくの天気。頂上付近に大きな雲がかかっており、完璧な美しいマウント FUJIを拝むことは叶わなかった。とはいえ、「富士山を回り込むパノラマを堪能できた!」と、フランス人たちは喜んでくれた。

名古屋駅に到着。太閤通口のタクシー乗り場で行き先を告げる。「名古屋のPARCOという所なのですが? 住所、言いましょうか?」。運転手さんは、「もちろん、わかりますよ」と笑顔を返し、アクセルを踏んだ。僕の認識では、“渋谷のPARCO”しか浸透していないと思い込んでいたのだ。

昭和から平成の時代、関西に住んでいた僕らの世代にとって、PARCOはファッションと文化が集う“憧れのパーク(PARCO)”だった。出張で渋谷を訪れた際には、立ち寄ることも多かった。上京した1996年以降からは、シネマライズ(注3)で映画を観た後や、タワレコやHMVで買いだめをした後は、PARCOを覗いた。渋谷PARCO PART3(注4)の8階にあった映画館・SPACE PART3(注5)にもよく行った。当時ファンだった吉野公佳が主演したハリウッド映画『BAJA RUN/デス・ドライブ』(1997)を観た際、観客が僕一人しかいなかったが、映写技師と目が合って、「僕一人のために映写してくれている」と思い、最後まで付き合ったこともあった。渋谷PARCO PART1(注6)の地下にあった本屋にもよく通った。映画公開に合わせて、監督やタイトルの特設グッズ・コーナー(書籍やCD、DVD、アパレル)が置かれていたからだ。PARCOはファッションだけではなく、音楽、映画、アート、本といった、僕が好きな物を全て網羅した複合施設(パーク)の先駆けだったのだ。そんな渋谷文化の中心であり続けるPARCOと『デス・ストランディング』とのコラボ(注7)が実現した。東名阪(渋谷、名古屋、心斎橋)の各店舗で展示会とPOPUPショップが開催された。

会場に入り、PARCO側の現場スタッフに挨拶、展示場や案内板、グッズ展示をチェックして回った。入口の壁にサインを書き、最後に「パルコ、アラ!?」というキャッチでブレイクしたPARCO公式キャラクターである“パルコアラ”(注8)とも記念撮影をした。滞在時間は1時間程だったが、会場を出た頃には、既に日が落ちていた。

名古屋はちょうど日本列島のど真ん中、“臍”に位置する。エスカレーター乗降時に左右どちらに寄るか? 鰻を調理する際、背中か、腹か、どちらを捌くか? そんな東京と大阪の文化圏に挟まれていながら、名古屋は独自の文化を発展させてきた。MGSでの国内発売イベントでは必ず名古屋に訪れたが、最近は疎遠になっていた。久しぶりの名古屋訪問だったが、驚いたのは、外国人観光客をほとんど見かけないことだった。碁盤目状に走る大きな広い道。落ち着いた電飾と看板。余裕ある建物同士の距離感。子供の頃に見た昭和の風景を思い出した。

名古屋駅に戻り、東京へ帰る18時台の新幹線を予約した。まだ少し時間があるので、構内にあるおみやげ屋とお店を見て回った。『カフェ ジャンシアーヌ』というカフェに目が留まった。そこで、“ぴよりん”という名古屋コーチンの卵をつかった濃厚なプリンを堪能した。食べるには勿体無いくらいの可愛いキャラだった。本格的に夕食を摂る程の時間はない。そこで、名古屋出身のコジプロ・スタッフにお勧めの弁当を買ってきて貰った。創業明治6年、日本料理屋『あつた蓬莱軒』の“ひつまぶし”。車内で皆と頂いた。これが“でぇらうみゃぁー!!”。名古屋めしといえば、味噌カツや天むす、手羽先くらいしか頭になかったが、“ひつまぶし”がこんなに美味いとは。食にうるさいフランス人たちも“秘伝のタレ”“職人の技”“備長炭”“活うなぎ”に舌鼓を打っていた。

ゲーム『デス・ストランディング』では、北米大陸をサムが東から西へと繋いでいくという、アメリカ再建の旅を描いた。渋谷で始まった展示会も、名古屋、大阪へと、東から西へと三つの“ノット・シティ”で日本列島を繋いでいく。PARCOとデスストの今回のコラボは、まさに“パルコ、デス!”。ゲームそのものだ。

注1:Numero art 現代アートをはじめとする世界中のクリエイティブシーンを取り上げるフランスの雑誌。
注2:セシール セシール・カミナデス。メタルギアシリーズに登場する鳥類学者のモデルとしても知られる。
注3:シネマライズ 1986年開館、2016年に閉館した、渋谷スペイン坂の映画館で、当時のミニシアターブームの中核を担った。
注4:渋谷PARCO PART3 1981年に開館したファッションビル。2016年に建て替えのため休業。
注5:SPACE PART3 渋谷PARCO PART3の8階にあった多目的スペース。1999年に映画館「シネクイント」として再オープン。
注6:渋谷PARCO PART1 2016年に建て替えのため休業したファッションビル。地下1階にはパルコブックセンターや洋書ロゴスなどがあった。
注7:『デス・ストランディング』とのコラボ 発売5周年記念の展覧会とポップアップショップイベント「DEATH STRANDING 5th Anniversary Exhibition&Popup」。
注8:パルコアラ 驚くと「アラ!?」と声が出てしまう、買い物好きでトレンドに敏感なコアラ。

今月のCulture Favorite

名古屋PARCOでパルコアラと。

盟友ニコラス・ウィンディング・レフン監督と東宝スタジオにて。

『DS2』の忽那汐里さんオールアップ記念の一枚。

『DS2』に参加した千葉繁さんとの2ショット。

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PROFILE プロフィール

小島秀夫

こじま・ひでお 1963年生まれ、東京都出身。ゲームクリエイター、コジマプロダクション代表。’87年、初めて手掛けた『メタルギア』でステルスゲームと呼ばれるジャンルを切り開き、ゲームにおけるシネマティックな映像表現とストーリーテリングのパイオニアとしても評価され、世界的な人気を獲得。世界中で年間最優秀ゲーム賞をはじめ、多くのゲーム賞を受賞。2020年、これまでのビデオゲームや映像メディアへの貢献を讃えられ、BAFTAフェローシップ賞を受賞 。映画、小説などの解説や推薦文も多数。ゲームや映画などのジャンルを超えたエンターテインメントへも、創作領域を広げている。

★次回は、2440号(3月26日発売)です。

写真・内田紘倫(The VOICE)

anan 2436号(2025年2月26日発売)より

最新作『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』新たなトレーラーは、こちら!

先日アメリカで行われた、SXSW2025イベントステージのアーカイブが公開中です。

『OD』 インフォメーション

「The Game Awards 2023」にて発表した、最新作『OD』の公式ティザートレーラーが、KOJIMA PRODUCTIONSの公式YouTubeチャンネルで公開中。 https://youtu.be/j1pnFI1r8N0

『PHYSINT(Working Title)』 インフォメーション

先日、完全新作オリジナルIP『PHYSINT(Working Title)』の制作を発表。
https://youtu.be/WjPc9QI3hjY

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No.24382025年03月12日発売

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