色彩の魔術師と呼ばれたモザイク作家の神髄に迫る。
明治40年、近代陶芸の巨匠・板谷波山(はざん)の五男として東京・田端に生まれた梅樹は、波山が砕いた陶片の美しさに魅了され、20代半ばから陶片を活用したモザイク画の制作を志すように。梅樹の作品は美しい色彩とエキゾティックなデザインが特徴。絵画から日用品、装飾品まで手掛けた作品は幅広く、そのどれもが斬新な色彩と可憐な意匠にあふれている。
本展は美術館では初となる梅樹の回顧展。現存する最大のモザイク壁画をはじめ、洗練された飾箱や飾皿、帯留やネックレスなど、梅樹の作品が大小80点以上紹介される。
なかでも一番の見どころは第1章に登場するモザイク画《三井用水取入所(みいようすいとりいれじょ)風景》だ。これは昭和29年に横浜市からの依頼で梅樹が制作したもの。高さ約3.7m、重さ約800kgとサイズも重量も驚きのスケール感で、富士山麓から水が流れる風景を木々や花々と共に瑞々しく描き出している。もうひとつの注目ポイントが、旧日本劇場1階玄関ホールの壁画を紹介するコーナーだ。この壁画は古代ギリシャに着想を得た洋画家・川島理一郎が下絵を手掛けたコラボ作品で、梅樹は白磁や青磁など父・波山の陶器をアクセントに様々な素材を組み合わせて作成した。昭和8年の発表当時、大変な話題となり、この作品で梅樹はモザイク画家として一躍有名に。会場では幻の出世作をパネル展示と記録映像にて詳しく紹介している。
巡回する本展の中でも、東京展の大きな特徴は、第3章で波山の陶芸作品も紹介していること。“カラリスト”と呼ばれるほど彩色に秀でた波山の作品は端正で格調高く、本展では重要文化財《葆光彩磁珍果文(ほこうさいじちんかもん)花瓶》の他、波山が手掛けた茶道具も公開。板谷ファミリーの作品を並べることによって、親から子に受け継がれる美のスピリットを解き明かす趣向となっている。
グラフィカルで、どこか現代的。令和の現在に見ても色褪せることのない梅樹の作品は今、人気が再び高まっている。本展を見れば、その理由を誰もが納得できるはずだ。
板谷梅樹《きりん》昭和30年代 個人蔵
板谷梅樹《花》昭和30年代 個人蔵
板谷梅樹《笛を吹く人》昭和初期 個人蔵
板谷梅樹《三井用水取入所風景》昭和29(1954)年 板谷波山記念館蔵
板谷梅樹《ネックレス》 昭和20年代 個人他
特別展 昭和モダーン モザイクのいろどり 板谷梅樹の世界 泉屋博古館東京 東京都港区六本木1‐5‐1 開催中~9月29日(日)11時~18時(金曜は~19時、入館は閉館の30分前まで) 月曜(9/16、9/23は開館)、9/17、9/24休 一般1200円ほか TEL:050・5541・8600(ハローダイヤル)
※『anan』2024年9月11日号より。文・山田貴美子
(by anan編集部)