「知り合いに割と極端なミニマリストの人がいまして、アイデアのきっかけになっています。私も思い出のモノは捨てられないタイプ。その人の部屋を見たときの衝撃を、率直にゆかりの心情に反映させました」
一方で、無田の言い分は常に合理的で、それにゆかりが納得する場面もしばしば描かれる。たとえば、引っ越し早々、元彼とお揃いのチェーンが切れたストラップを巡ってふたりが対立するのだが…。
「無田のような極端すぎる思考で主張されれば、ゆかりがはねのけたくなるのもわかります。ただ、耳を傾けてみれば、『確かに』となる瞬間はどこかにあるだろうという気持ちで描いています」
1巻の終盤、アパレル業界で働くゆかりの服に対する思いがハンパなく熱いことがわかる。単にだらしなくて捨てられないのではなく、大切に思うから捨てられないのだ。
「ミニマリストの人としゃべっていたときに気づいたのですが、その人も、大事にしたいからこそ、ごく限られたお気に入りのものだけと暮らしたいのだなと。大本をたどると、モノを大事にしたい気持ちは同じ。割と共通点もあるのだなと感じたんです。性格もライフスタイルも違うふたりが互いに影響し合って、グレーゾーンでつきあえる部分を描けたらいいなと思っています」
無田のキャラクターデザインは、わかりやすいイケメンではなく、ミニマリストらしい淡泊なルックスになっている点にも注目。
「ほどよく突き放した、何を考えているかわからないような感じを出したかったんです。基本無表情ですが、感情や感覚が動くときだけ黒目の位置や白目の幅などを変えて振り幅を出すとかの工夫はしています」
捨てる捨てないの話に終始せず、ふたりの丁々発止を通して、モノをどう扱うか、恋愛や人間関係において何が大切かまで考えさせてくれるところが、本書の魅力ではないだろうか。続刊が待ち遠しい。
朝比奈ショウ『無田のある生活』1 職業、出自、女性との同居が必要だった本当の理由など、1巻では無田をめぐるサプライズがてんこ盛り。ラブコメ展開も気になる2巻は9月28日頃刊行予定。小学館 715円 ©朝比奈ショウ/小学館
あさひな・しょう マンガ家。1995年生まれ。他の著作に、ヒロインの強気ファッションと可愛い中身ギャップに萌える『強ガール』などが。
※『anan』2023年8月2日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子
(by anan編集部)