2作のアニメが覇権を争う『ハケンアニメ!』 劇中アニメのこだわりがスゴい!?

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2021.12.03
アニメ業界を舞台とした、辻村深月さんによる『ハケンアニメ!』。2012年に『anan』で連載がスタートした本作が、2022年5月についに実写映画化! 監督をはじめ、キャラクターデザイン、メカデザインと人気実力ともに兼ね備えたメンバーが集合しました!

ものづくりの現場の熱が伝わるアニメが完成。

2作のアニメが覇権を争う『ハケンアニメ!』のキモはなんといってもアニメの出来。「劇中のアニメが面白く見えるようにというのは原作でもかなりこだわって書いたので、アニメのクオリティに関しては映画化にあたって一番期待したい部分でした」と辻村さん。

映画の中でアニメの映像が登場するのはほんの5分程度。とはいえ、その数分の映像のために監督からキャラクターデザイン、音楽に至るまで、シリーズアニメを立ち上げるのと同じくらいの労力が必要だった。そこで、アニメの映像を作るためにはプロットがあったほうがやりやすいだろうと、映画で全編使われるわけではない全12話分のプロットを辻村さん自ら書き下ろした。それだけの熱い想いを受け取って、映画およびアニメ制作スタッフが燃えないわけがない。

しかも今回、2本のアニメを作るのは原作同様カラーの違う2つのアニメスタジオ。社のプライドを懸けて映像作品を作り上げる様は、まさに『ハケンアニメ!』で描かれるトウケイ動画とスタジオえっじのバトルそのもの。アニメの制作現場を舞台にした物語なだけに、登場人物と重なる部分もあったとか。

「アニメ監督は美しくていいものを誰かに届けたいと思ってアニメを作っているような気がするのですが、瞳もそうなのだと思います。『サバク』を作りながら、自分も瞳とシンクロして奮闘したような気がしました。アニメは大勢のクリエイターや制作陣が関わって作るところが難しいところでもあり、面白いところでもあり…。その大勢が、ひとつの方向を向いて突き進むと奇跡のような作品が生まれる、そんなふうに思うんです」(監督・谷 東さん)

【トウケイ動画】
敏腕プロデューサー行城が新人・瞳監督を抜擢。『サウンドバック 奏の石』(通称サバク)を制作。吉岡里帆/監督:斎藤 瞳、柄本 佑/プロデューサー:行城 理

【スタジオえっじ】
香屋子の念願だった王子監督とのタッグ。『運命戦線 リデルライト』(通称リデル)は7年ぶりの新作。中村倫也/監督:王子千晴、尾野真千子/プロデューサー:有科香屋子

『サウンドバック 奏の石(かなでのいし)』(トウケイ動画)

監督:谷 東、キャラクター原案:窪之内英策、メカデザイン:柳瀬敬之

瞳監督のこだわりをリアリティある画で。

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『サウンドバック 奏の石』、通称サバクは窪之内英策さんが描く写実的な描写の中に、メカデザインの柳瀬敬之さんによる巨大ロボットが映り込む、異質の組み合わせが絶妙なコントラストを見せるアニメ。

「サバクはレイアウトと密度と今人気がある写実に近いキャラが鍵だと思って制作しました。窪之内さんとは前に『アニ×パラ』で組ませていただいていて、その時に近い体制で画作りを考えました。劇中アニメなのに辻村先生から全12話分のプロットが届いて、あまりの分量に笑ってしまったほど。どうしようと思っていたら今度は実写の監督である吉野監督からサバクの1話脚本と大量のイメージボードが届いて、お二人の熱意に背を押されました」(谷さん)

辻村さんが考えたプロットは、単独でアニメシリーズになりうるほどの企画だったそう。

「とはいえ、今回はあくまで『ハケンアニメ!』の劇中内アニメ。映画に必要な要素は何かを第一に考えることを心がけました。音を生み出すことではなく、失うことを代償にパワーを得るというのがサバクの大きな特徴。代償、喪失といったテーマ性に、作り手であるトウケイ動画の制作陣がどう立ち向かい、葛藤するのか、その結果をぜひ見たいと思いました」(アニメ『サウンドバック 奏の石』プロデューサー・原田拓朗さん)

STORY

のどかな田舎町を突如襲った巨大ロボット。少年少女たちは平和を取り戻すために、奏の石を叩き戦いに身を投じる。「なんでも、あげる!」と誓って。その戦いが、トワコから何を奪っていくのかも知らずに――。斎藤瞳が初監督を務める、誰しもが一度は夢中になった、王道ジュブナイルロボットアニメーション。

たに・あづま アニメ監督・演出家。主な監督作品に『テルマエ・ロマエ』『若おかみは小学生!』など。NHK『アニ×パラ』第2弾「パラ陸上競技」も手掛けた。

くぼのうち・えいさく 漫画家、アーティスト。主な著作に『ツルモク独身寮』『ワタナベ』『ショコラ』など。イラストやキャラクター原案など多岐にわたり活躍中。

やなせ・たかゆき メカニックデザイナー。『機動戦士ガンダム00』『DEATH STRANDING』等に参加。アニメ、ゲーム、模型を中心に幅広いデザインを手掛ける。

『運命戦線 リデルライト』(スタジオえっじ)

監督:大塚隆史、キャラクター原案:岸田隆宏

天才・王子監督らしく表現方法に工夫を。

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伝説のアニメ『光のヨスガ』でアニメの常識を塗り替え、天才と謳われた王子千晴監督の7年ぶりの復帰作という劇中内設定。魔法少女・充莉が自らの魂の力で乗るバイクを変形させて戦い、ライバルたちとレースで競い合っていく。1話ごとに1歳年を取るという驚きのストーリー設定がある。写実的なサバクとは対照的に、アニメ的なキャラクターデザインと表現、そして何より王子監督が「今度こそヒロインを殺したい」と宣言していたラストの展開に注目を。

「リデルのプロットを読んで、辻村先生のアニメ愛を感じました。もしこれを実際のシリーズとして制作するとしたらと考えて、お腹が痛くなりました(笑)。とにかくサバクに負けないようにと闘志を燃やしましたね。期待を裏切らない、ではなく期待を超えること、100%ではなく120%であること、それを再認識しました」(アニメ『運命戦線 リデルライト』プロデューサー・松下慶子さん)

リデルは天才と謳われた王子監督の最新作にふさわしい映像でなければいけないという課題があった。そんな高いハードルを越えたのが大塚隆史監督。

「正攻法のサバクに対して奇想天外な表現で攻める天才・王子監督らしく、あまり普通では見られない表現を心がけました。天才の特異性が伝わればいいなと思います」(大塚さん)

STORY

主人公・充莉は、行方不明になった妹を探す最中に、この世をそして大切なものを守るための戦いに参加することに。6歳で始まり、1話ごとに、1年ずつ時が経過していく。バイクレースでの激しいバトルが見どころの王子千晴監督7年ぶりの新作魔法少女アニメ。「責任もって、愛してよ」の流行語を生む。

おおつか・たかし アニメ監督・演出家。『プリキュア』シリーズほか、映画『ONE PIECE STAMPEDE』など多数の作品で監督を務める。

きしだ・たかひろ アニメーター、キャラクターデザイナー。『ハイキュー!!』『魔法少女まどか☆マギカ』など多数の作品でキャラクターデザインを担当。

つじむら・みづき 小説家。2004年「冷たい校舎の時は止まる」で第31 回メフィスト賞を受賞し、デビュー。’12年『鍵のない夢を見る』で直木賞を受賞。’18年『かがみの孤城』で本屋大賞を受賞。最新作はホラーミステリー『闇祓』。

『ハケンアニメ!』 2014年に刊行された『ハケンアニメ!』(小社刊)を原作とした実写映画。監督/吉野耕平 脚本/政池洋佑 配給/東映 2022年5月公開。情報解禁に先駆けYouTubeに予告編がアップされ、ネット上でも話題に。アニメ『サウンドバック 奏の石』特報アニメ『運命戦線リデルライト』特報※共にYouTube「東映映画チャンネル」内。©2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会 https://www.haken-anime.jp/

※『anan』2021年12月8日号より。取材、文・尹 秀姫

(by anan編集部)

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