“ハロプロ”の魅力にどっぷりハマり、青春時代をアイドルに捧げたオタクたちを描いた映画『あの頃。』この作品が映し出す情熱と喜び、そのかけがえのない日々について、松坂桃李さんに聞きました。

“推し”がいるだけで世界はバラ色。愛おしい記憶を描く、映画『あの頃。』。

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「マネージャーさんから『松浦亜弥さんのファンの役です』とだけ告げられ、『わかりました、やりましょう』と即決。そのあとで物語の内容を知りました」

実は松坂桃李さんが中学1年生の頃、松浦さんはおなじ中学校の3年生で先輩だったという。

「当時『桃色片想い』などがヒットしていてアイドルの中でもトップの存在。キラキラしていました。僕はいつも遠目から見ていただけなんですけどね(笑)。そんな“松浦さんのファン”というのが、この映画の原作の著者でもある劔樹人(つるぎ・みきと)さん。本を読んで、とても濃厚な時間を長く過ごし、波瀾万丈な人生を歩んできた方だと思いました」 

大学院受験に失敗し、うだつのあがらないバンド生活を送っていた劔さんが、一枚のDVDを見たことをきっかけに“ハロプロ”(ハロー!プロジェクト)にどっぷりハマっていくという物語。予告解禁とともに「松坂さんが劔さんにしか見えない」という声がSNSで多数あがり、松坂さんのオタクへの変貌ぶりに注目が集まった。

「実際にお会いした劔さんは、穏やかで優しい方。でも原作にも脚本にも数々の珍事件を通して毒っ気が含まれていた。たとえばセリフの言い方や仲間といえども嫌いになる瞬間の感情などの描き方が絶妙で、それがこの作品の好きなところであり共感できるところ。だから『劔さんに見える』なんて言われると光栄です。劔さんは現場によく顔を出してくれたものだからプレッシャーは大きかったんですが、でも人との距離をまっすぐに詰めることや相手の懐にすとんと入り込むことをせずに、遠回りしながら近づいてくる感じとか、劔さんの人となりを観察できたので、演じるうえではだいぶ助けられました」

“推し”を通して出会ったのは、年齢も職業も違う、強い個性を放つオタク仲間5人だ。

「コカドケンタロウ(イトウ役)さんは普段コントを作られているだけあって役への馴染み方が自然で、間の取り方なんてむしろ勉強になるぐらいだったし、今泉(力哉)監督の現場を知っている山中崇さん(ロビ役)、若葉竜也さん(西野役)、芹澤興人さん(ナカウチ役)は、いてくれるだけで監督が求めている空気感を作れた。そして(仲野)太賀(コズミン役)はさすがですよ。以前ドラマ『ゆとりですがなにか』で共演した時、ちょっと嫌なヤツを演じていた太賀は途中から急に好感度を気にし始めて、セリフは変えずに言い方を変えて憎みきれない男に仕上げたという力を持っていますから(笑)。今回も、ひねくれ者のコズミンにどこか可愛らしさを持たせたのは太賀の手腕です」

彼らとの何気ない日々やオタクの生態が淡々と描かれつつも、笑いと胸を熱くさせる感動が入り交じる。アイドルオタクとは縁遠い人ほど、そのまっすぐで深い愛情に心揺さぶられるに違いない。

「オタクって、一つのことに群を抜いて詳しいんです。“この情報や知識を誰かに知ってもらいたい”って気持ちが先行して、早口にもなりがちですが、僕にはその気持ちがちょっとわかります。オタクという言葉によって自分とは違う世界に生きる人だと思う人もいるかもしれませんが、言い換えれば自分の好きなことを貫いている人のこと。スポーツ選手でたとえると、自分の競技に対してはオタクだと思っているんですけど。そういうふうに、自分の好きなことを追求している人というのが僕の中でのオタクの定義。熱量の違いはあるかもしれないけれど、誰しもオタクになりうる要素はあるはずなんです。だから特別なことを演じるわけでもなく、もともと持っている、好きなことに向かう感情を強く出しながら演じました。そして、“友達”ではなく“仲間”と呼ぶあたり、好きなことで結ばれている感じが強くあって、自分とおなじ方向を向いている仲間たちと、おなじ時間を過ごすことは非常に心地いいことなんだなぁと。時が経ち、当時の熱い気持ちを知る仲間といまだに付き合いがあるのも羨ましい。何かに没頭していた自分から、徐々に離れていくことに寂しさを感じながらも、当時の思い出のパズルを1ピースずつ持って共有し合えるような仲間は、かけがえのない宝物ですよね」

そんな松坂さんが、愛おしい気持ちになる思い出とは。

「中学生の頃『千と千尋の神隠し』を映画館に観に行ったんですが、上映中に誰かのいたずらで警報器が鳴り、映画は途中で中断してしまった。後日改めて無料チケットで観直したんですが、大人になっても再放送を観るたびに特別な思いがこみ上げてきます。それから、この映画で松浦さんを演じた山﨑(夢羽)さんがまた松浦さんを彷彿とさせるほどそっくりで、中1の頃に僕が遠くから見ていた松浦さんを思い出させてくれて、胸が熱くなりました」

映画『あの頃。』 神聖かまってちゃんの元マネージャー、劔樹人による2014年に発売された自伝的コミックエッセイ『あの頃。男子かしまし物語』(イースト・プレス)を映画化。彼女なし、金なしでどん底生活を送っていた劔が、松浦亜弥の「桃色片想い」のMVを見たことで、ハロー!プロジェクトのアイドルたちにどハマり。ヲタ活の日々を描いた。監督:今泉力哉 ©2020「あの頃。」製作委員会

まつざか・とおり 1988年10月17日生まれ、神奈川県出身。主演ドラマ『今ここにある危機とぼくの好感度について』(NHK)が4月から放送。出演映画『いのちの停車場』『孤狼の血 LEVEL2』『空白』が公開を控える。

※『anan』2021年2月17日号より。写真・三宮幹史(TRIVAL) スタイリスト・カワサキタカフミ 取材、文・若山あや 撮影協力・BACKGROUNDS FACTORY

(by anan編集部)

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