応援すると幸せになれる? キーワードで解き明かす、多様化する“応援”の形

なぜ私たちは、誰かを応援することで満たされるのか? 認知科学とマーケティングの専門家が、それぞれの観点から応援したくなる理由を分析。応援することで私たちが得られるものや、社会に与える影響についても考えます。

Index

    私たちは他者と分かち合うことで大きな幸せを感じられる生き物

    教えてくれた方

    Profile

    久保南海子

    愛知淑徳大学心理学部教授。京都大学こころの未来研究センター助教などを経て現職。博士(心理学)。専門は実験心理学、生涯発達心理学、認知科学。『「推し」の科学 プロジェクション・サイエンスとは何か』(集英社新書)など、著書多数。

    どうして誰かを応援したくなるのか…。それは私たちが、生物学的にも認知科学的にも応援することで幸福感を得やすいからです。私たちホモ・サピエンスは、この地球において単体で生き残っていくことが非常に難しい生き物です。しかし、いまだ絶滅していない唯一の人類でもあります。ここまで長きにわたり繁栄し続けてこられたのは、他の動物にはないほどの大きな集団を形成して協力し合うことで生き残ることができたから。血縁だけにかぎらず、赤の他人とも柔軟に協力できる能力があるからなのです。その協力に不可欠なのが、“利他の幸福”。お金や時間といった自分の「資源」を他者と分かち合うことに幸福を感じることができるのが、私たちホモ・サピエンスの特徴でもあります。

    また、応援によって未体験の事象や自分では絶対にできないことを疑似体験することで“代理報酬”が得られるのも大きなポイント。応援している対象の喜びや成功を、自分のことのように感じられるのは、この現象からくるものです。認知科学の研究から、応援すると脳内の報酬系の神経が活性化することがわかっています。その結果、オキシトシンやドーパミンといったホルモンの分泌も促されます。自分ひとりでは得られない幸福感を、利他的な行動を通じて感じることができるから、私たちは、ついつい応援したくなるんです。

    応援していると、その対象の行動を追いかけるだけでなく、対象に関連したグッズを集めたくなったり、その対象に関連する場所を巡ってみたくもなりますよね。これは“プロジェクション”という心の働きによるもの。自分の中のイメージだけだったものが現実と結びついた時に、私たちは強い快感をおぼえます。応援する対象に関連したグッズに特別な意味づけをして、自分のリアルな世界と結びつけることで、応援の価値が高まっていく。応援すればするほど対象との一体感が増すだけでなく、自分の現実世界が特別なもので彩られていくため、心も豊かになるのです。

    ただ、応援の対象に感情移入しすぎたり、度が過ぎた行動を取るようになると、逆に心が荒んでしまうこともあるので、健康的な心理的距離感を保つことも大事です。そこで自分が考えていることや感情などの認知を俯瞰的に認識する「メタ認知」が有効。たとえば、お金や時間を使いすぎていないか、どんな応援行動をしている時に心地よさや幸せを感じられるのか、自分の行動を俯瞰できるようになると応援を長く楽しく続けていけるようになります。ついつい応援に夢中になってしまう気持ちもわかりますが、お金も時間も有限ですし、家族や友人など身近な人間関係に支えられて私たちは生きています。それらを守りつつ、その余剰の範囲で行うのが応援の基本。私たちは他者と共にあることに喜びを感じる生き物であり、人との関わりや経験を通じて自分の世界を広げていくことができる。それを実感できるのが応援の醍醐味です。自分の現実生活も大切にしながら、自分ではない他者を応援することで得られる大きな幸せを享受しましょう。

    KEYWORD

    利他の幸福

    他者のために行動することで、自分自身も幸福感を得る現象のこと。心理学においては、他者への貢献で自己肯定感が高められ、親社会的な行動をすることによってオキシトシンやドーパミンなどのホルモンの分泌が促される結果、ストレスの軽減や精神的幸福度(ウェルビーイング)の向上に繋がるとされている。

    代理報酬

    他者が獲得した報酬や成功を観察した際、自分が直接体験していなくても脳の報酬系が活性化し、自分のことのように快感や喜びを感じる現象のこと。相手への共感や推し活、応援消費の心理的基盤をなす。たとえば応援しているチームが勝った時に、自分が勝ったような喜びを感じることなどが当てはまる。

    プロジェクション

    2015年に提唱された認知科学の最新の概念。他者や事物などの対象に、自分の中の認識やイメージを重ね合わせて意味づける心の働きのこと。たとえば、自分が応援している人のグッズには特別な価値があると思うことや、スポーツ観戦時に自己の運動イメージを重ねてつい力が入ってしまうことなどが、これにあたる。

    応援は、社会を動かすベースに。自分はもちろん、未来も変わる

    教えてくれた方

    Profile

    水越康介

    東京都立大学経済経営学部教授。神戸大学経営学部卒業後、神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。首都大学東京都市教養学部経営学系研究員などを経て、現在に至る。専門はマーケティング論。著書に『応援消費 -社会を動かす力』(岩波新書)など。

    近年、応援のスタイルが多様化し、“力になりたい”“励ましたい”といった自分の気持ちを様々なツールを使って相手に届けられるようになり、応援のカタチは広がっています。それは、インターネットやデジタル技術の発展により、世界中の情報にアクセスできたり、発信しやすくなったことで、誰もが応援し、応援される存在になれるようになったことが大きな要因のひとつ。みんなが知っている有名人やスポーツ選手だけでなく、ニッチな世界で活躍している人をはじめ、モノや場所、企業、地域など、応援する対象の幅も広くなっています。

    また、2011年の東日本大震災をきっかけに、消費することで応援する“応援消費”が定着したことで、それ以降、ふるさと納税やクラウドファンディングといった、応援消費の仕組み化が加速。コロナ禍中は厳しい状況を強いられている飲食店や小売り店などを応援する動きも盛んに。投げ銭やサブスクリプションといった、日常的に応援を促進するサービスもどんどん生まれ、誰でも気軽に応援というアクションに参加しやすくなりました。時代や状況に合わせて応援のカタチが次々と作られていったことで、利他的な行動が、正当な消費理由のひとつに組み込まれてきたように思います。

    かつては海外に比べて、日本は寄付文化が根付いていないといわれていましたが、日本における寄付金額は過去20年で増加傾向にあり、個人寄付の総額も増えています。応援を活用した消費市場の規模は広がるばかりで、社会や経済に与える影響も大きくなっています。

    より手軽に応援に繋がるアクションができるようになったことで、人間の心理を利用したマーケティング戦略が注目されるようにもなっています。たとえば一方的に親近感や繋がりを感じ、強い態度変容を促す“パラソーシャル・リレーションシップ”や、特定の対象を熱狂的に崇拝する心理を利用した“セレブリティ・ウォーシップ”。これらは買い手の心を動かし、購買意欲を高めるマーケティングの手法としてはポジティブに活用されますが、自分の欲望を満たすために必要以上にお金を使ってしまったり、依存的な感情に繋がり、大きな負担になることもあるので注意が必要です。

    応援は、自分を満たすことが目的ではありません。誰かが頑張っている姿や成長していく過程に感情が動かされ、力になりたいという純粋な気持ちが行動変容を促し、その結果、自分自身も幸せを得られるというのが自然な流れで、応援の理想形ともいえるでしょう。ウェルビーイングの観点でも、利己的な行動より利他的な行動の方が、幸福度が高まるといわれています。利他的というと、一見ハードルが高そうに感じるかもしれませんが、たとえば近所の人にあいさつしたり、道を譲ったりするのも、応援活動に繋がる第一歩です。自分がしたことで誰かが幸せになり、結果として社会全体が良くなっていくため、いまや応援は、社会のベースになりつつあります。個人や相手の心を豊かにするだけでなく、社会をより良い方向に動かすことに繋がり、未来を変える可能性を大いに秘めています。

    KEYWORD

    応援消費

    「バイコット」とも呼ばれ、購買を通じて企業や組織、被災地などを応援する行為のこと。日本では東日本大震災をきっかけに、被災地の名産品を積極的に購入したり、観光に赴いたりする消費活動が活発に。以降、様々なカタチで広がっていき消費と応援が結びついたことで、社会や経済にも大きな影響を与えている。

    パラソーシャル・リレーションシップ

    有名人など、実際に会ったことのない、会うことのできない人やキャラクターなどに対して、一方的に親近感や繋がりを感じ、相互的な対面関係の錯覚を生み出す心理的な人間関係のこと。その人と同じことをしたり、同じものを使いたくなったりするため、広告とは異なり、強い態度変容を促す効果が期待できる。

    セレブリティ・ウォーシップ

    特定の人やモノ、組織に没入したり、熱狂的に崇拝する心理状態のこと。アイドルや有名人だけではなく、アニメ、漫画、ゲームのキャラクターも対象に含む。深い感情的愛着は、購買意欲の高まりや熱量の高さに比例するといわれているため、応援したいという純粋な気持ちを大切に、適度な距離感を保つのがベスト。

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    イラスト・アンドウワカ 取材、文・鈴木恵美

    anan 2513号(2026年9月30日発売)より
    Check!

    No.2513掲載

    応援の流儀 2026

    2026年09月30日発売

    目標に向かい頑張る人を見守ることで、心が躍り、パワーをもらえる──。そんな“応援”をテーマに制作する特集。さまざまな人のインタビュー&心理的考察から「応援」が私たちにもたらすものを探ります。

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