大人気コメディアンが語る「“負のループ”にはまらない秘訣」
アンディ・サムバーグさん
【映画、ときどき私】 vol. 373
コメディアンとしてアメリカで絶大な人気を誇り、俳優としても活躍しているアンディさん。劇中では、のん気な皮肉屋で一見お調子者のように見える主人公のナイルズを演じています。
ある出来事をきっかけに、一度眠ると同じ日を毎日繰り返してしまう“タイムループ”に閉じ込められたナイルズとそれに巻き込まれてしまう女性サラの2人を描いた本作。今回は、この作品でゴールデングローブ賞の主演男優賞にノミネートされたアンディさんに撮影秘話や自身の経験などについて、お話いただきました。
―本作は、無名の監督と脚本家のコンビによる作品ですが、サンダンス映画祭では史上最高額(当時)で配給権が売買されるほど熱狂的な盛り上がりを見せる作品となりました。アンディさんからの助言で脚本を修正した部分もあったそうですが、どのようなアドバイスをされたのでしょうか?
アンディさん まずは「もっとスケール感を大きくしていいよ」という話をしました。というのも、彼らにとってはもともと友達と砂漠でお金をかけずにこっそりと撮影しようとしていた企画でしたからね。なので、もう少し予算をかけても大丈夫であることを伝えたんです。
―それによって、作品はどのように変わりましたか?
アンディさん 爆発のシーンや効果を使った演出などを加えることで、シークエンスが大きくなりました。あとは、ストーリーテリングや恋愛の部分においてもレベルを引き上げることができたんじゃないかなと。結果的に、さまざまなジャンルがブレンドされているチャレンジングな作品になったと思います。
―本作のどういったところに魅力を感じていますか?
アンディさん 僕はとても幸せな結婚生活を送っているので、人生においていい人間関係を望むのであれば、相手を信じて飛び込まなければいけないと思っています。この作品ではそういう必要性についても、美しいメタファーとして描かれているんですよね。僕は好みがはっきりしているほうですが、今回のように最初からこんなにハマる物語はレアだと思います。
この作品ではすべての要素が魅力的に感じた
―今回は、主演だけでなく、製作にも入っていますが、その理由についても教えてください。
アンディさん それはもともと「主演と製作をしてもらえませんか?」という形でオファーをいただいた経緯があったからですが、あとは純粋にタイムループものが好きだったからというのも理由ですね。ただ、『恋はデジャ・ブ』や『オール・ユー・ニード・イズ・キル』といったタイムループを描いた素晴らしい作品がすでに存在していたので、このジャンルに挑戦することにはナーバスになっていたところはありました。
でも、この作品は同じタイムループものでも、そういった名作が終わったところからを描いているように感じたんです。たとえば、『恋はデジャ・ブ』ならビル・マーレイがその後1000年間ループに閉じ込められていたらどうなるか、みたいなことですね。キャラクターも含めて、すべての要素が魅力的に感じましたし、そういったことに対して深いレベルまで到達しているところが気に入りました。ほかにも、大きな笑いがありつつ、そういったコメディ作品にはないようなエモーショナルな部分も描かれているのがすごくいいなと思ったところです。
―これまで演じてこられたコメディチックなキャラクターと、本作のようなドラマの部分を含んだキャラクターとどちらのほうが演じやすいですか?
アンディさん 企画にもよりますが、若いころはどちらかというとコメディチックな役で知られていたので、当時はそういう役を演じるのが大好きでした。もちろん、いまでも好きではありますが、最近はもっと地に足のついた役を演じてほしいと言われることも増えていますね。
僕としては、脚本を読んでから決めるようにしていますが、判断の基準は自分が参加することによってその作品がダメになるか、それともよくなるか、ですね。
今回の場合は、これまで僕が演じてきた役のイメージよりもドラマのシーンが多い役でしたが、自分にはそれを演じられるスキルがあると自負していたし、ユーモアを描いたシーンもあることがわかっていたので、役に入りやすいんじゃないかなという思いもありました。
日本のみなさんに劇場で観てもらえるのがうれしい
―ナイルズはお調子者のようで、実は心優しい人物ですが、ご自身のパーソナリティに近いところがあるのでは?
アンディさん そんなふうに言ってもらえるのは、うれしいことですね。僕がそういった役柄に惹かれるのは、人の優しい気持ちを信じているのと自分自身の性格がうまくハマる部分があるからだと思います。だから、みなさんにもリアルに感じてもらえるのかなと。
実際、僕は普段の生活で怒ったりすることがあまりないので、怒っている演技を求められるときは少し身構えてしまうほど。どのくらい怒っていいのかわからなくて、怒りすぎた演技をしてしまうことがあるんですよね(笑)。
そういったこともあって、ナイスなキャラクターは役者としての僕にも合っているのかもしれません。もちろん内側には葛藤もありますが、優しい人たちの姿を観客に見せたいという気持ちがあるんだと思います。この作品も日本の劇場で公開できることは、すごくクールでうれしいことです。
―絶妙な会話のやりとりも見どころでしたが、アドリブをされることもありましたか?
アンディさん 今回、現場でのアドリブというのはほとんどありませんでした。というのも、撮影に入る前に脚本家とかなりいろいろと話し合ってセリフを決めていきましたから。あとは、事前にリハーサルを何度も重ねていくなかでサラ役のクリスティン・ミリオティたちとも相談しながらセリフを足したので、そこで変えることはあっても、撮影中に変えることはあまりしませんでした。
ほかにも、今回は予算がそこまで大きくなかったことやスケジュールがタイトだったこともあって、自由にカメラを回したり、何度もテイクを重ねられなかったので、そのぶんテイクとテイクの間に十分に話し合ってから撮影をするようにしました。今回はそれがうまくいったと思っています。
クリスティンだったらパーフェクトだと思った
―クリスティンも非常に素晴らしかったですが、彼女を抜擢した理由は?
アンディさん これまでにクリスティンが出演しているドラマなどを見て、プロデューサーとも最初からクリスティンだったらパーフェクトなんじゃないかと話していました。彼女の演技は作品によって全部違うので、役者としてすごくワクワクする存在なんです。あとは彼女と共演すれば、きっと僕もよりよい役者に見えるんじゃないかなという思いもありましたけど(笑)。
―(笑)。ただ、クリスティンは製作陣とミーティングしたあと、数か月経っても連絡がなかったので、出演できないと諦めてアフリカ旅行に出発してしまったとか。連絡がつかずに、危うく役を逃しかけたと聞きましたが、そのときのことを教えていただけますか?
アンディさん ミーティングではすごくいい感じだったので、オファーをした瞬間に「やりましょう!」という返事が来ると期待していたんです。でも、3日間くらい経っても何の連絡がなかったので、もしかして本当はやりたくないんじゃないかなと……。
そしたら、「いまクリスティンはアフリカのど真ん中にいて、連絡が取れません」と言われたんですよ(笑)。そういう事情があったんですけど、最初はナーバスになりましたね。でも、実は彼女も僕と同じようにフラストレーションを感じていたと聞いて、うれしかったです。
自分は負のループにはまらないように気をつけている
―無事にクリスティンに決まって本当によかったです! また、こういったタイムループものだと、何度も同じテイクを重ねて大変だったと思いますが、特に苦労したのはどのあたりですか?
アンディさん 今回の撮影方法としては、ロケーションごとにわけて、そこで起きていることを脚本に沿って撮りました。キャラクターが経験する感情面を順番に追いながら撮影できたのは、演じるうえで助けになったと思います。
ただ、毎回目を覚ますシーンは一番大変でしたね。というのも、セリフがないぶん、その前に何が起きていたのかを踏まえて、表情だけでニュアンスを表現しなければいけなかったので。そういう意味では、ユーモアがあるような派手なシーンのあとのほうがワッと言って起きればいいので楽でした。今回は同じ衣装で同じ場所で演じていることが多かったので、いろんなバージョンでたくさん撮れたのはよかったと思います。
―劇中では、ナイルズもサラも孤独や絶望のループから抜け出せなくなっている姿が描かれていますが、ご自身にもそういう経験はありますか?
アンディさん 最近の話で言うと、ここ1年は僕が住んでいるエリアはずっとロックダウンなので、そういう意味では負のループから抜け出せていない感じはありますよね。
ただ、この作品で描いているのは、僕たち人間が陥りやすいパターンや何度も繰り返してしまう選択について。僕自身は、なるべくそういうループにはまらないようには気をつけています。だからこそ、僕はこの映画が好きなのかもしれないですね。
自分のミスから学んで、新たに進むことが大事
―ちなみに、どのようにしてそのループにはまらないように意識しているのでしょうか?
アンディさん 人にとって大事なのは、自分がミスを犯したら一歩下がってそれが何なのかに気づくこと、そして同じミスに再び向かってしまいそうならその自分を止めることだと思います。それはとても難しいことではあるけれど、自らの間違いから学び、自分を許したうえで新しい方法に取り組むべきではないかなと。
そんなふうに対応できれば、人生をうまく生きていると言えるんじゃないかなと思います。僕自身はそこまで大きな壁にぶつかったこともフラストレーションを感じたこともないので、すごく恵まれているのかもしれないですけどね。
ただ、人間関係においては、同じ間違いを繰り返さないようにしているので、友人たちともきちんと連絡を取り合うように心がけています。とにかく、いまのロックダウンから抜け出せないのは、誰にとってもつらいことだよね。
―もしタイムループにはまってしまったとしたら、ご自身の人生のなかで、何度でも味わいたい最高の日ともう二度と味わいたくない最低な日をそれぞれ教えてください。
アンディさん 最悪な1日で思い出すのは、高校時代かな。詳しくは言えないけど、屈辱的な日もたくさんあったからね(笑)。
人生で最高な日は、妻と結婚した日や娘が生まれた日だけど、あまりにも強烈な出来事だから、それを毎日経験したいかというとどうかな。何度も繰り返したら、「はいはい、娘が生まれるんだよね? わかったわかった」ってなっちゃうかもしれないですから(笑)。
そういう意味では、子どものころに家族とビーチに行った日は、天気も風の具合もランチもすべてがちょうどよかったので、繰り返すとしたらそんな“ちょうどいい日”がいいですね。
インタビューを終えてみて……。
オンラインでの取材ではありましたが、画面越しでも伝わってくるアンディさんの人柄の良さと優しい笑顔にすっかり魅了されました。本作でもアンディさんのさまざまな魅力が全開となっているので、物語とともに存分に堪能してください。
憂鬱な気分も一気に吹き飛ばしてくれる!
タイムループものとしてはもちろんのこと、ラブストーリーとしても、コメディとしても、ドラマとしても見どころ満載の本作。同じことを繰り返しているような感覚に陥っているいまだからこそ、1日1日の大切さを教えてくれる秀逸な1本として必見です。
取材、文・志村昌美
ストーリー
砂漠の保養地であるパーム・スプリングスで、恋人と結婚式に参加していたナイルズは、幸せムードになじめずにいるサラと出会う。一見お調子者だが全てを見通したようなナイルズにサラは興味を抱き、2人はいい雰囲気になる。ところが、そこに謎の老人が現れ、ナイルズを襲撃。負傷したナイルズは洞窟へと逃げ込み、サラはあとを追いかける。
その後、一度眠りに落ちると結婚式の日の朝にリセットされる“タイムループ”に閉じ込められたことに気がつくサラ。ナイルズは、先にループにハマっており、すでに同じ日を数えきれないほど繰り返しているという。果たして2人は、永遠に続く時間の迷宮から抜け出すことができるのか……。
何度も見たくなる予告編はこちら!
作品情報
『パーム・スプリングス』
4月9日(金)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
配給:プレシディオ・Filmarks
https://palm-springs-movie.com/
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