志村 昌美

14歳の少女がスーパースターと恋愛関係に…ソフィア・コッポラ監督が語る新作の裏側

2024.4.10
多くの人が一度は夢見たことのあるものといえば、スーパースターとの運命的な出会い。そこで今回ご紹介するのは、まるで映画のような恋を経験した女性の真実に迫った話題作です。

『プリシラ』

【映画、ときどき私】 vol. 643

世界が憧れるスーパースターのエルヴィス・プレスリーと出会い、恋に落ちた14歳のプリシラ。彼の“特別”になり、夢のような時間を過ごしていた。やがて彼女は両親の反対を押し切って、エルヴィスと一緒に暮らし始めることに。

そして、「グレースランド」と呼ばれる彼の大邸宅で、プリシラは魅惑的な別世界に足を踏み入れる。彼の色に染まり、そばにいることが彼女のすべてだったが、そこには思い描いたものとは違う現実が待ち受けていた…。

主演のケイリー・スピーニーが14歳の夢見る少女から自立した大人の女性になるまでを見事に演じ、昨年のベネチア国際映画祭で最優秀女優賞を受賞したことでも話題を呼んでいる本作。そこで、作品の魅力について、こちらの方にお話をうかがってきました。

ソフィア・コッポラ監督

『ロスト・イン・トランスレーション』や『マリー・アントワネット』といった大ヒット作を手掛け、女性監督のなかでも第一線を走り続けているコッポラ監督。映画監督でありながら、ファッション・アイコンとしても高い人気を誇っています。今回は、制作の裏側やプリシラ本人とのエピソード、そして本作の見どころなどについて語っていただきました。

―監督はこれまでにさまざまな女性像を描いていますが、当事者が存命の映画は初めてということで、これまでと違う難しさもあったのではないでしょうか。

監督 そうですね、確かに難しさを感じる瞬間はありました。特に、私自身が表現したいことや真実に迫りたい気持ちを追求するだけでなく、彼女が居心地よくいられるものでないといけませんでしたから。そういう部分は責任を持って考える必要はありました。ただ、いつでも話を聞きに行くことができて、質問にも答えてもらえたので、そこはアドバンテージだったと思います。

―ご本人とお話するなかで、特に印象に残っていることは?

監督 当時のことを話す彼女はまるでタイムスリップしているみたいで、細かいところまでよく記憶しているのには驚かされました。グレースランドにいたエルヴィスの友達のことや何を食べていたとか、そんなことを聞くのはとても楽しかったです。

プリシラには、誰もが共感できるはず

―プリシラに対して監督は共感を覚えたとのことですが、どのようなところに感銘を受けましたか?

監督 彼女が若かったことは知っていましたが、グレースランドに住みながら高校に通っているのは知らなかったので、その状況を考えるとかなり大変だったのではないかなと想像しました。あとは、大人になる過程でエルヴィスが求める理想の女性像も同時に目指さなければいけなかったので、その重圧はとても大きかったはずです。そんななかでも、自分自身を見つけて自立することができたので、そういう彼女の姿に感動しました。

―そこにはご自身がこれまでに味わった感情と重なる部分もあったのでしょうか。

監督 たとえば、初めて異性と一緒に過ごしたときのことやファーストキスのこと、そして自分の求めていたものが実は違っていたことに気付く瞬間など、とても普遍的な出来事だと感じました。おそらくみなさんも経験することばかりだと思うので、そういう意味で私だけでなく誰もが共感できると考えています。

あとは、感受性が豊かなところや周囲に合わせて大人っぽく振る舞ったりする姿、それから相手に対する失望などもとても人間的な感情なので、そういう部分も響いたのかなと思います。

衣装を見ることが現場の楽しみだった

―ananwebでは6年前にも取材させていただいており、その際に「理由は自分でもわからないけれど、限られたスペースを舞台にすることが多い」とおっしゃっていました。本作のプリシラもある意味では、限られた世界に生きる女性だったと思いますが、6年のときを経たいま、そういう題材に惹かれる理由についてご自身で解明できた部分はありますか?

監督 あははは、どうでしょう(笑)。でも、周りから期待されたり、誰かにこうあってほしいと見られたりするような状況は、きっとみなさんにもありますよね? 葛藤しながら自分のアイデンティティを見つける過程というのは、誰しもが通る道だと考えています。だから私にとっても興味深いテーマだと感じてしまうのかもしれませんね。

―なるほど。また、監督の作品といえばファッションがつきものですが、今回はどういったところにこだわりましたか?

監督 本作は衣装がとても多くて、1から作らなければいけないものもたくさんありましたが、50年代から70年代までのいろんなファッションが見られて、現場に行くのが楽しみでした。衣装を見るだけで、どこのシーンを撮っているのかがわかるので、それもおもしろかったですね。

―そのなかでも、注目してほしい衣装があれば、教えてください。

監督 1つを選ぶのは難しいですが、結婚式のドレスはシャネルがオートクチュールで作ってくれたので、気に入っています。そのほかも、昔の写真を見て再現していますが、その作業は楽しかったです。

プリシラはエルヴィスの人間的な部分を見ていた

―色使いに関しても、全体的に意識されたことは多かったのではないでしょうか。

監督 50年代のドイツのパートは少し灰色っぽい感じにしていますが、グレースランドはビビットでカラフル、70年代は少しナチュラルなイメージにしています。ターコイズやピンクの服であったり、ゴールドのカーテンであったり、そういった色を使っていますが、過去の記録や写真を見ながら色彩設計をするのもおもしろかったです。

―また、音楽も素晴らしかったですが、今回はご自身の夫であるトーマス・マーズさん率いるポップロックバンド「フェニックス」が手掛けています。一緒にお仕事されてみていかがでしたか?

監督 彼だけでなく、バンドのみんなとも仕事ができたのですごく楽しかったですね! それぞれが好きな楽曲をプレイリストとして持ち寄り、そこから作品に合いそうな音を見つけていくという方法を取りました。普段、私はこの時代の音楽はあまり聞かないほうではありますが、すごくおもしろかったです。音楽では大きなラブストーリーのなかにいるプリシラのエモーショナルな部分を表現したいと考えました。

―エルヴィスといえば、これまで主人公として描かれることがほとんどだったので、本作のように脇役として映画に登場することは珍しいことだと思います。プリシラから見た彼をどのように描きたいと考えましたか?

監督 プリシラにとってはロマンティックな人ですが、同時にすごくもろい部分を持っているとも感じました。だからこそ、彼女もどうにかしてあげたいという思いがずっとあったのではないかなと。演者として公でパフォーマンスをしている姿よりも、彼女はエルヴィスの人間的な部分を見ていたのだと思います。

日本の文化と一緒に育った感覚がある

―日本に対しての印象もおうかがいしたいのですが、日本での撮影を経験されているだけに、監督にとっては縁がある国ではないでしょうか。

監督 そうですね。日本に初めて行ったのは6歳くらいでしたが、その後も家族と一緒に何度も訪れているので、日本の文化とともに育ったような感じすらしています。日本の好きなところは、モダンでありながら美しい伝統と見事に両立しているところです。

本作の公開時期に行けないのは残念ですが、今年の後半にはもしかしたら日本に行けるのではないかなと考えています。いつも日本の友達にいろんなところへ連れて行ってもらっていますが、文房具屋さんを見たりするのが好きです。

―監督にとって、創作の源となっているものは何ですか? 今後どのような作品に取り組みたいと考えているのかを教えてください。

監督 モチベーションとなるのは、「ものを作るのがただ好きだから」という思いだけですね。自分の見ている世界を表現して、みんなと分かち合うことに喜びを感じています。

これからの予定については、手を付け始めた企画がいくつかあるものの、まだはっきりとは決まっていない状況です。ただ、『マリー・アントワネット』を制作していたときに私の母がずっとカメラを回していたので、それでドキュメンタリーを作ろうと考えています。

―楽しみですね。それでは最後に、ananweb読者に向けてメッセージをお願いします。

監督 自分が惹かれるものがあるとすれば、あなたと同じように惹かれている人が世界のどこかにきっといます。なので、自分の直感に従って、好きなことを追求してもらえたらいいかなと。他人がどう思うかよりも、まずは自分のことを信じてください。

繊細で美しい物語に引き込まれる

さまざまな葛藤を抱えながらも一人の女性として成長していく姿を描き、多くの共感を呼んでいる本作。ファッション、音楽、インテリアにいたるまで、ソフィア・コッポラ監督の生み出す世界観を存分に堪能できる必見作です。


取材、文・志村昌美

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作品情報

『プリシラ』
4月12日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
配給:ギャガ
https://gaga.ne.jp/priscilla/
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