志村 昌美

韓国の人気俳優キム・ダミに「つねにワクワクさせられた」監督が明かす最新作の裏側

2024.2.21
大ヒットドラマ「梨泰院クラス」でヒロインのチョ・イソ役を演じ、日本でも人気の高い韓国の俳優キム・ダミ。まもなく公開を迎える話題の主演最新作をご紹介します。

『ソウルメイト』

【映画、ときどき私】 vol. 637

公募展で大賞に選ばれた1枚は、「作者・ハウン」という記載だけで応募されたある絵画。そこには高校生のミソが描かれており、ギャラリーの担当者から「ハウンとコンタクトを取りたい」と連絡を受ける。ところが、ハウンのブログには2人の深い関係が綴られているにもかかわらず、ミソは幼い頃に遊んだだけの仲だと語るのだった。

ミソとハウンは性格も価値観も育ってきた環境も正反対だが、小学生からの大親友。唯一の共通点は、絵を描くのが好きなことだった。2人はずっと一緒に生きていくと約束していたが、17歳の夏、ハウンに恋人ができたことで少しずつ気持ちがすれ違っていく。16年が経ったある日、疎遠になっていたハウンは2人だけの“秘密”を残して忽然と姿を消してしまうことに…。

『少年の君』などで高く評価されている香港の映画監督デレク・ツァンの単独監督デビュー作となる『ソウルメイト/七月と安生』をリメイクした本作。そこで、制作の裏側についてこちらの方にお話をうかがってきました。

ミン・ヨングン監督

2010年の初監督作品『短い記憶』でさまざまな賞に輝き、華々しいデビューで注目を集めたミン・ヨングン監督。今回は舞台を韓国に移した本作で、実写映画として韓国興行収入ランキング初登場1位となるほど、大きな反響を呼んでいます。作品に込めた思いや自身にとってのソウルメイト、そして日本から影響を受けていることなどについて、語っていただきました。

―リメイクするうえで、設定を変更した部分とオリジナルを尊重した部分があると思いますが、そのあたりのバランスで意識されたことはありますか?

監督 まずは映画を観てから小説を読んだのですが、2つのコンテンツに方向性の違いは多少あるものの物語の核となる部分は同じだと感じました。なので、私もリメイクをする過程では、しっかりとそこを維持したいという気持ちは強かったです。

それは何かというと、2人の女性たちが長い時間をかけて友情を育み、お互いに似通っていくというモチーフ。一度離れた2人がふたたび出会ったとき、相手に自分の姿を見い出していく瞬間を描いてみたいというのは、この作品に惹かれた一番の理由です。

そのほかに大切にしていたのは、彼女たちの顔。光り輝く10代からときを経て変わっていくところまでを見せたかったので、描くうえでこだわったのは鉛筆による超写実主義の絵です。そこがオリジナルの映画や小説とは大きく異なる部分になっています。

キム・ダミさんは予想以上ものを毎回見せてくれる

―幅広い年代を見事に演じ切った主演のキム・ダミさんは素晴らしかったですが、キャスティングした理由を教えてください。

監督 本作ではミソとハウンの10代から30代までの長い時間を描いているので、それを表現できる顔と演技力が必要だと考えていました。実際のキム・ダミさんは、幼い少女のようでありながら、いっぽうでとても思慮深くて人生の蓄積を感じられるようなところを持ち合わせています。

そういった両方の気質を持っている俳優なので、彼女が役に寄せていくというよりは、彼女自身が持っている自然な姿を映画のなかに溶け込ませてほしいという気持ちになりました。

―「現場で彼女の姿を見ているだけでワクワクした」ともコメントされていますが、撮影中の忘れられない瞬間といえば? 

監督 キム・ダミさんはテイクごとに期待を抱かせるような演技をしてくれたので、予定していた以上のものを毎回見ることができました。事前に話し合っていたことや準備していたことを忠実にこなすのではなく、カメラが回った瞬間に彼女は相手の俳優に応じてさまざまな顔を出してくれたのです。

その場で生まれる感情をものすごい瞬発力で受け止め、そして表現していく。彼女はそういうタイプの俳優なので、モニター越しに見ていてもつねにワクワクしていたほどです。特に予測できない感情が見れたときには、「次のカットにはどうやって繋いでいくんだろう?」と楽しみにさせられるくらい、変化に満ちた演技を見せてくれました。

妻とのご縁は神秘的なものを感じる

―本作では“ソウルメイト”となるミソとハウンの姿が描かれていますが、監督にもソウルメイトとなるような存在の方はいますか? 

監督 実は、この作品のシナリオを書いている最中に父を亡くしたのですが、同時に伴侶となる妻とも出会って結婚をしています。本作では人生における唯一無二の存在と出会う瞬間と、大切な人との別れについて描きたいと考えていましたが、そういった自分の経験もあったから『ソウルメイト』という映画を撮りたいと思ったのかもしれません。

僕にとってソウルメイトというのは、もっとも自分らしく生きていけるような相手のこと。まさに妻が私にとってはそういう存在ですが、この映画を作りながらそう思える人と出会ったというのも非常に興味深いと感じています。

―奥様で俳優のユ・ダインさんは、監督にとってインスピレーションを与えてくれるような方なんですね。

監督 この作品が先にあってそのあとに結婚したので、順番としては逆ですが、それはあると思います。というのも、妻とはいろんな偶然が重なり、長い時間をかけて出会った経緯がありましたから。ご縁の不思議さというか、何か神秘的なものを感じています。

ほかの監督はわかりませんが、僕の場合はシナリオを書いているときも、演出をしているときも、重要なのは作品のなかに感情移入できることです。俳優が役に入り込んで演技するのと同じように、カメラの後ろにいたとしても監督がその世界に入り込んでいったほうがより良い映画が撮れるのではないかなと。自分の人生で感じたことは、映画にとっても“栄養分”となるような気がしています。

日本の監督とは感情表現や描き方がフィットする

―確かに、ご自身の経験がにじみ出る部分はあると思います。

監督 今回は「ソウルメイトの定義は何ですか?」といった質問をたくさん受け、僕自身も「本当の意味は何だろう?」とずいぶん悩みました。ただ、自分の人生で似たようなことを経験したこともあって、そこで僕が大事だと感じたのは、他人のように振る舞ったり、飾ったりすることなく自分がありのままでいれるかどうか。そういうふうにいさせてくれる相手こそが、ソウルメイトなのではないかと思うようになりました。

―素敵ですね。それでは最後に、まもなく公開を迎える日本について影響を受けているものや好きなものなどがあれば、教えてください。

監督 これまで日本には何度も行っていますが、特に好きなのが北海道です。僕が大学に入ったのは90年代半ばで、ちょうど日本映画が解禁になった時期とも重なることもあり、いろんな作品を観ました。なかでも興味を持つきっかけとなったのは、韓国でもとても人気のあった岩井俊二監督の『Love Letter』です。

そこからますます日本映画に関心を持ちましたが、実際に映画を作ってから感じるのは、自分と日本の監督は人物の感情表現や描き方の好みがフィットするということでした。地理的に近いこともあって、共感する部分が多いのかもしれませんね。

ほかにも北野武監督や成瀬巳喜男監督など、さまざまな日本文化や映画から影響を受けています。あとこれはあくまでもファンの立場になってしまいますが、蒼井優さんといつかお仕事できるチャンスに恵まれたらうれしいです!

思いもよらぬラストが待ち受けている

固く結ばれた友情の裏に隠された“秘密”に心を揺さぶられる本作。予測できない展開の連続と俳優陣の繊細な演技に、誰もが引き込まれる珠玉の1本です。


取材、文・志村昌美

胸を締めつけられる予告編はこちら!

作品情報

『ソウルメイト』
2月23日(金・祝)新宿ピカデリーほか全国公開
配給:クロックワークス
https://klockworx-asia.com/soulmatejp/
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