ドナルド、ジーニー、スティッチの声も! 山寺宏一、ディズニー作品との思い出&裏話

2023.7.22
多彩な声色を使い分け、今やディズニー作品を語るのに欠かせない声優となった山寺宏一さん。約40年近くのキャリアの中で思い出に残る作品を貴重な裏話とともに振り返ってもらった。

共に歩んできた思い出深い作品。――タレント、声優・山寺宏一さん

「初めてディズニー作品に参加したのは、1992年日本公開の『美女と野獣』。その1年ほど前に野獣役のオーディションがあったんです。当時、僕はまだ若手でしたし、ベテランの声優さんたちが数多くエントリーしていたから、ダメ元で受けてみたんですよ。野獣は低くて野太い声ですし、迫力も必要。何度も練習しましたね。合格の連絡をいただいた時は『まさか自分が!』と。野獣の声はほぼ加工なしで自分の声をそのまま使ってもらっているんです。映画を観た先輩から『山ちゃん、野獣の声とってもよかったよ』と感想をいただけたのも嬉しかった。この時、声優として自信がついた気がしました。

そしたら、次にドナルドダックのオーディションがあると聞いて。それまで日本ではいろんな声優さんがドナルド役を演じていましたが、僕、友達にやり方を習ったことがあって、ダックボイスができたんですよ。それをオーディションで披露したら『すごい! じゃあダックボイスでセリフをしゃべってみて』と。いやいや、無理だろうと思ったけど(笑)、『あなたができなかったら日本でする人いないから』って言われて。本国から発声マニュアルをいただいて、3か月くらい徹底的に練習しました。その甲斐あって、ウォルト・ディズニー・カンパニー本社からお墨付きをいただいて、30年近くやらせてもらっています。長くやっていてもドナルド役は毎回苦労する難役ですね。

ディズニー作品には人間以外の個性的なキャラクターが数多くいますから、発声方法もアプローチも変わってきます。例えば『リロ&スティッチ』に出てくるエイリアンのスティッチ。彼の場合も独特の発声をマスターするのに苦労しました。スティッチは特に日本での人気が高く、沖縄を舞台にした『スティッチ!』というテレビシリーズも作られたんです。チャレンジという意味では『ロジャー・ラビット』のロジャー・ラビット役も。声もテンションも高いので冒頭のシーンだけで声がかれそうに(笑)。また、ミュージカル映画『メリー・ポピンズ』は、歌のハードルが高かった作品。僕が演じたバートの歌『チム・チム・チェリー』は、キャラクターソングとは違って正統派で歌い上げないといけない名曲で必死に練習しました。“スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス”の早口は、今では歌えないかも(笑)。こうしてさまざまな役を演じさせていただいたおかげで自分の役幅が広がったと思っています」

そして、山寺さんとディズニー作品を語る上で忘れてはならないのが、『アラジン』に登場するランプの魔人ジーニー。

「ユーモアに富んだ口調でジョーク好き。さらに、子どもから老人、女性などさまざまな声色を駆使するエンターテイナーなジーニーは、本当に魅力的な役。僕、声優になる前はものまねタレントになりたいと思っていましたから、この役こそ自分の力を120%発揮できると思ってオーディションに臨んだんです。ジーニーは天才コメディアンで俳優のロビン・ウィリアムズに当て書きして作られた役ということもあってファンが多い。吹き替え版でその魅力が半減しないよう、ロビン・ウィリアムズに負けないぞという気持ちでやってます。

ディズニー作品は本国の声優陣がアカデミー賞俳優ということも少なくなく、吹き替えの声優にも高い表現力や演技力を求められます。『ムーラン』の守護神ムーシューは、エディ・マーフィが声を担当していますから豪華ですよね。実写版『アラジン』はウィル・スミスがジーニーを演じたことで話題になりました。この作品の日本公開をきっかけにウィル・スミスとイベントで共演したのもいい思い出です。そうそう、僕はコンサートなどでジーニーの十八番『フレンド・ライク・ミー』を歌わせていただくことが多いのですが、『アラジン/ジャファーの逆襲』『アラジン完結編/盗賊王の伝説』など、スピンオフ作品にも隠れた名曲が多いのでぜひ聴いてみてほしいです。ディズニー作品に携わっていると、ジーニーのように長い付き合いになるキャラクターも少なくない。過去の自分に負けないよう、表現力を磨き続けようと思えるのもディズニー作品のおかげですね」

こうして役と向き合いながら、力をもらっているという山寺さん。

「『シュガー・ラッシュ』はゲームの中の悪役にスポットライトを当てた珍しいストーリー。不器用だけど心優しいラルフが仲間はずれの少女ヴァネロペと出会い、友情を築き上げる。演じていてすごく心が温まります。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』は、はみ出し者たちがそれぞれの弱さを補い合いながら、銀河を守るために戦う姿に勇気をもらえる。失敗ばかりの僕も誰かの役に立てるかもしれない。ディズニーやマーベル・シネマティック・ユニバースなどのキャラクターを演じているとそういうふうに前向きな気持ちになるんです」

【Disney】『アラジン』(1992)

陽気な魔人ジーニーを魅力たっぷりに演じた当たり役。

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砂漠の国アグラバーに暮らす貧しい青年アラジンは洞窟の奥に眠るランプの魔人ジーニーと出会う。ランプの力を使い、悪名高い魔法使いジャファーと戦いながら、ジャスミン王女の心を射止めようとする。2019年には実写版も公開。© 2023 Disney

【Disney】『美女と野獣』(1991)

ハンサムな王子のイケボと、野獣の唸り声が聞きどころ。

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魔女の魔法で恐ろしい野獣の姿にされてしまった美しい王子。人を愛し、愛されなければ永遠に獣のまま。心を閉ざし、絶望の日々を送っていた野獣に光を与えたのは、聡明で美しい女性ベル。二人の出会いが互いの運命を変えていく。© 2023 Disney

【Disney】『ダックテイルズ』(2017~2020)

ドナルドダックのかわいい甥っ子たちが大活躍!

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ドナルドダッグの伯父スクルージ・マクダックと3つ子の甥っ子ヒューイ、デューイ、ルーイが主人公のテレビアニメシリーズのリブート版。オリジナルは1987年に放送開始。山寺さんは30年にわたってドナルドダックを担当。© 2023 Disney

【Disney】『リロ&スティッチ』(2002)

不思議なスティッチ語がクセになるハートフルな作品。

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ハワイ・カウアイ島に暮らすリロは両親を亡くした孤独な少女。ある日宇宙からの逃亡者であるエイリアンのスティッチと出会い、一緒に暮らし始める。破壊することしか知らなかった暴れん坊のスティッチはリロとの交流で人を思う心を知る。© 2023 Disney

【MARVEL】『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014)

チャーミングな悪役ヒーロー、ピーター・クイルの魅力が炸裂。

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Marvel’s Guardians Of The Galaxy..Peter Quill/Star-Lord (Chris Pratt)..Ph: Jay Maidment..©Marvel 2014

幼い頃に地球から誘拐され、宇宙のトレジャーハンターとなったピーター・クイル。刑務所に収容されたピーターは4人の凶悪犯たちと銀河の危機を救うため立ち上がる。はみ出し者たちがヒーローになる冒険活劇。© 2023 MARVEL

【Disney】『シュガー・ラッシュ』(2012)

厄介者扱いされてしまう悪役の知られざる一面を描いた傑作。

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悪役に嫌気がさし、自分のゲームを飛び出したラルフ。ヒーローとして活躍できるゲームを探して、お菓子の国のレースゲーム「シュガー・ラッシュ」へ忍び込む。そこで仲間はずれにされていた少女ヴァネロペと出会い、友情を深めていく。© 2023 Disney

【Disney】『ロジャー・ラビット』(1988)

笑わせることが生きがいの映画スターが名探偵と駆け回る!

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舞台はアニメーションと実写が交錯する街トゥーンタウン。殺人の容疑者になったロジャー・ラビットは、追っ手から逃れた先にいた探偵エディと共に、真犯人を捜すことに。実写とアニメーションをCGで合成した画期的な作品。© 2023 Disney

【Disney】『メリー・ポピンズ』(1964)

名曲揃いで楽しい気持ちにさせてくれるミュージカル映画。

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ジョージ&ウィニフレッド夫妻のやんちゃな子どもたちの元にやってきた不思議な力を持つ家庭教師メリー・ポピンズ。山寺さんが吹き替えを担当したバートはメリーの昔からの友達。彼が歌う「チム・チム・チェリー」はアカデミー賞歌曲賞を受賞。© 2023 Disney

【Disney】『ムーラン』(1998)

ムーランを陰で支える守護神、ムーシューの活躍から目が離せない。

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ファ家の一人娘ムーランは父の身代わりとなり、男性と偽って国の命運を左右する戦いに身を投じていく。山寺さんが声を吹き込んだムーシューは茶目っ気いっぱいの赤竜でムーランの守護神。アメリカではエディ・マーフィが声を担当。© 2023 Disney

掲載作品は、すべてディズニープラスで配信中
視聴には、月額990円、年額9900円の2プランがあり。詳しくはhttps://disneyplus.disney.co.jp/

Koichi Yamadera 1961年、宮城県生まれ。幅広い声色を使い分け、「七色の声を持つ男」といわれる。’85年のデビュー後、アニメの吹き替えのほか、エディ・マーフィなど多数のスターに声を当ててきた。ディズニーの名曲で構成された『フレンズ・オブ・ディズニー・コンサート』にも出演。

※『anan』2023年7月26日号より。取材、文・浦本真梨子 構成・野尻和代

(by anan編集部)