人間関係を見つめる本。
自己愛と自己肯定感のバランスに苦しんでいる恋愛下手な人、必読。
『傲慢と善良』辻村深月/¥891(朝日文庫)
婚約者が失踪し、手がかりを求めて彼女の故郷へと向かった主人公。見えてきた真実とは。恋愛との向き合い方を見つめ直すきっかけにも。「現代の日本社会で起きている、恋愛や母娘のすれ違いを凝縮している本だなと思いました。文庫の帯に〈人生で一番刺さった小説〉とあって、刺さる=感動するというイメージで読み始めたんですが、実は自分自身があぶり出されて、気づきたくなかったところを容赦なく突き刺してくるという意味でした(笑)。男女双方の視点で描かれ、つき合っている同士でもお互いをどこか見下し合っていたりなど、自己愛や自己肯定感のねじれが描かれます。人間は、ある種の傲慢さを抱えずには生きられないけれど、それを越えていい関係を結んでいくこともできるのだなと」
特別なふたりのさりげない瞬間。ふたりの本質的な関係に好感度UP。
『ふたりたち』南 阿沙美/¥2,200(左右社)
注目の写真家が、自身の美術短大時代の元同級生とその息子や、コールセンターバイトの仲良し元同僚、夫婦、飼い主とペットなど、12組の“ふたり”をテーマに撮ったスナップとエッセイ。「南阿沙美さんが『この関係っていいな』と思ったふたりを撮った、ちょっとユーモラスな写真の数々が、尊いというか、まばゆいというか。電気グルーヴのふたりが入っていますが、ほとんどが市井の人です。ばっちり決めた記念写真では出てこない、ふたりにしか出せない味があって、その特別な関係性の魅力を際立たせている感じがします。撮影しながらあれこれ聞き出したことや、自身との関わりなどを加えて、ふたりにしかない絆を文字でも紹介しているので、それを読むと、被写体のふたりにより興味が湧きます」
心理療法家が真正面から論じた、友情とは何かという思索のヒント。
『大人の友情』河合隼雄/¥572(朝日文庫)
日本で心理学を広めた人物が、友達が欲しい、男女間の友情は成立するか、友情と同性愛など多角的に問いかけた友情論。「うちの書店でもコンスタントに売れ続けている本です。時代が変わっても、連帯感の楽しさ、反対に誰ともつながれない寂しさは普遍的な感情で、それだけ、友情に悩むことがあるのだろうなと感じます。著者が長年感じていらしたことが本質的な言葉でまとめられていて、夫婦でも上司と部下のような関係でも、長い時間を経て友情めいたものは生まれてくると言っています。結婚や転職などで自分の環境が変わると、いままでみたいなつき合いができなくなるのもすごく悩みだったりするし、大人だからこそ友達について考え直さないといけない時期があるなと思うんですよね」
家族や恋人や友達など、美化して語られがちなつながりを問い直す。
『人間関係を半分降りる――気楽なつながりの作り方』鶴見 済/¥1,540(筑摩書房)
近すぎる関係性を少し離して、流動的なつながりをたくさん持つ。そのためのノウハウもアドバイス。「平成のミリオンセラー『完全自殺マニュアル』の著者が、この本に込めたのは、人間関係の捉え直しです。著者自身が人生でいちばん悩んだのは人間関係だと書いていて、自身の虐待の記憶やパワハラ体験などを振り返りながら『自分を苦しめるしがらみからは降りても大丈夫ですよ』と提案してくれているんですね。家族は大事だとか恋愛はすべきだといった既存の価値観に踊らされる必要はないし、それでしんどい思いをしている人にこそ、たとえばお店とお客さんのような緩い関係性を複数持つことが気楽に生きるコツだと言っています。この時代らしくて、いま必要とされているアイデアだと思います」
違和感、反発、裏切り…、友情はネガティブな体験からも芽生える。
『うちらきっとズッ友―谷口菜津子短編集―』谷口菜津子/¥880(双葉社)
嘘ばかりつく転校生と彼女が気になる少女、気の合わない嫁と姑、ゲームを介して友情を育む少年少女などを描く、目からウロコの友情オムニバス。「フェミニズム視点と等身大の言葉で男尊女卑的な枠組みをどんどん解放する谷口菜津子さんは、もっとも注目されているマンガ家さんのひとりだと思います。ここがしゃくに障るなど内面が細やかに描かれ、イヤなやつと思いながらもそこに関係性が出来上がるのが面白い。人間関係って人の数だけあるのだなと改めて思いました。頻繁に会っておしゃべりしたり飲みに行ったりする関係性だけが友達だと思いがちですが、これを読むと、こういう関係も友情と呼んでいいのかもしれないという気づきをくれる。友達というものの可能性を広げてくれるマンガです」
簡単に切れない関係だからこそ、続けるための努力が不可欠。
『子どもにキレちゃう夫をなんとかしたい!』水谷さるころ(著) 山脇由貴子(監修)/¥1,100(幻冬舎)
キレやすい夫に変わってほしいと、夫婦と6歳の息子全員でカウンセリングを体験。家族問題はどう変わったかのルポコミック。「離婚したらいい、親子の縁を切ればいいと言うのは簡単ですが、著者のように、基本的にパートナーを尊敬していて好きだからこそ、イヤだと思っている現状を我慢しないし諦めないという姿勢がすごくいいなと思います。人間関係は、諦めてなあなあに済ませたり、感情的になって終わらせてしまったりという人が多いと思うので、見違えるような変化というわけではないですが、変えることができるお手本があるのは希望ですね。プロのカウンセラーの手を借りろということではなく、お互いフィードバックし合ったりという地道なコミュニケーションが大事なのだなと感じました」
はなだ・ななこ 1979年、東京都生まれ。『蟹ブックス』店主、作家。『ヴィレッジヴァンガード』に12年勤めたのち、いくつかの個性派書店で店長を経験。書店員歴は20年以上。女性ファッション誌や新聞書評などの連載多数。
※『anan』2023年3月8日号より。写真・市原慶子 取材、文・三浦天紗子
(by anan編集部)