「初めてヨルグの作品を観た時、その面白さに大興奮したんです。彼は14歳からジャグリングをやっている人なんですが、ジャグリングの技術を使いながらダンスのようでもある。舞台上で奏でられる音楽も、ヨルグ自身が作っていて、サーカスの技術を用いたフランスのカンパニー『Anomalie&…』に出演した時は、演劇ともサーカスともダンスともつかない、私がこれまで体験も想像もしていなかった世界を見せつけられたんです。年齢や国籍を問わず楽しめて、驚きもあり、どこか考えさせられる部分もある。しかも私が幼少期に体験した移動遊園地のような後ろ暗さも感じられたり。私が舞台作品に関わり始めた頃から漠然とやりたいと思っていたことが、すべてそこに実現されている気がしました」
ただ、制作を開始してからは困難続き。もともと頭で考え、それを言語化することで作品のコンセプトを探っていく束芋さんとは対照的に、ヨルグさんは目の前で起こることを感覚的に掴み表現していくタイプのアーティスト。そこをコロナ禍が襲い、クリエイションも約2年近く日本とフランス間でのリモートに。
「昨年9月にようやく渡仏できたんですが、そこで彼と合わせてみたら、それまで想定して作ってきたものが何も機能しなかったんです。ただ、実際に一緒にやり始めると、全然違う展開というのも生まれて、これまで作ったものを全部捨てても、ここで今生まれているものを活かしていったほうがずっと価値があると感じて、約1年かけたアニメーションを全部捨ててリスタートしました」
そして生まれた新作は、ヨルグさんのディレクションによる第1章、束芋さんによる第2章、そしてその世界が融合した第3章で構成。
「一個人に焦点を当てる作品になりました。ある個人の内外で起こっていることが、さまざまに影響し、ひとりの人間の見え方が変化していきます。舞台作品を手がけるようになって感じるのは、携わる人たちの出し惜しみのない姿勢。それに見合うものをと自分に命じて作ってきました。鑑賞できる人の数に限りがある舞台作品だからこそ、少しでも多くの方にこの作品を体験していただけたらと思っています」
日仏共同製作 束芋×ヨルグ・ミュラー『もつれる水滴』 構成・演出/束芋、ヨルグ・ミュラー 出演/ヨルグ・ミュラー、間宮千晴 美術/束芋 富山公演/4月28日(木)~30日(土)オーバード・ホール 舞台上特設シアター 一般4000円ほか https://www.aubade.or.jp/ 東京公演/5月3日(火)~5日(木)池袋・東京芸術劇場 シアターイースト 一般3500円ほか https://www.tact2022.jp/global/suiteki 他に山口、沖縄公演もあり。©watsonstudio
たばいも 1975年11月30日生まれ。’99年に大学の卒業制作として発表したインスタレーション作品「にっぽんの台所」で注目される。近年は音楽家、ダンサーなどとのコラボレーションも精力的に行っている。
※『anan』2022年4月20日号より。インタビュー、文・望月リサ
(by anan編集部)