【誘惑は失敗!?】部屋で男と2人きり…|12星座連載小説#96~天秤座9話~

文・脇田尚揮 — 2017.6.13
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第96話 ~天秤座-9~


前回までのお話はコチラ

え……、薫さんが私の家に!?

時刻は21時を回っている。こんな遅くに男性を家に呼ぶのは、さすがに……とも思うけど、明日になってもサイトが落ちたままだと、職場の皆に迷惑を掛けてしまう……。

今日だけは、薫さんを頼るしかないわ。

LINEで薫さんに住所を伝える。男性に自宅の住所を教えるのは、これが初めてかもしれない。

不思議と抵抗はない。むしろ、今から会えるのが嬉しい。

薫さんから、

「了解しました。すぐに向かいます」

と、返信がきた。

彼氏以外の男性を家に上げる……何だかドキドキしてきた。

はっ……こうしちゃいられないわ! 急いで掃除しなきゃ。

比較的、片付いているほうだと思うけど、見られたらちょっと……というものもある。余計なものは片付けておかないと。女性らしいイメージは保ちたいもの。

“レディースコミック”や“BL本”などを、クローゼットの中に隠す。女子なら、こういった趣味の一つや二つあるはずよね……。

薫さんには、恥ずかしくて見せられないわ。

バタバタと掃除を始め、20分くらい……

可愛い部屋着に着替え、メイクを直し、歯磨きもしておきたい。あと、ちょっとした焼き菓子とお茶くらいは用意しておかないと、気が利かない女だって思われちゃう!

スマホを見ると、「あと5分で着きます」と薫さんからLINEが届いていた。

『あ~、もう! 時間がない~』

とにかく家にあるもので何とかするしかないっ―――

メイクが八割方完成した頃、薫さんから電話がきた。

仕方ない、マスカラは諦めよう……。急いでエレベーターに乗り込み、エントランスへと向かう。

『ふふっ』

普段は、何時間も男を待たせるような私が、待たせないようにと焦っている。何となく笑えてきた。

余裕を持たなくちゃ、余裕を。美しくないわ。深呼吸をして“いつもの恭子ちゃん”に戻る。

エントランスに着くと、眼鏡の男性が肩掛けバッグを大事そうに抱えて待っていた。息切れしているようだった。

……薫さんだ。本当に来てくれた。

『こんばんは薫さん、こんな遅くに本当にゴメンなさい……』

「いやぁ……サイトに入れないなんて、大変じゃないですか。それに私のアドバイスミスだったかもしれないし」

『助かります。よろしくお願いします』

薫さんとエレベーターに乗り込み、部屋がある7階のボタンを押す。

『ここまで来るのにどれくらいかかりましたか?』

大体分かっているんだけど、あえて聞いてみる。

「そうですね……35分くらい、でしょうか」

狭い空間に二人きり。この瞬間が、ずっと続けば良いのになんて思っちゃう。

――7階に到着。

『こちらです』

ドアを開ける。丁寧に靴を揃え、彼が私のプライベートな空間に入ってくる。

「早速、サイトを拝見して良いですか?」

彼は肩掛けバッグを下ろし、中から何やら取り出そうとしている。

薫さん、少しソワソワして落ち着きがない。………カワイイ♡

『こちらなんですけど……』

職場のサイトにログインした状態のPCを、薫さんに渡す。

難しい顔で、彼が文字列とにらめっこしている。

「恐らくですが……HTMLの中に余計な文字を入れてしまったか、逆に消してしまったのでしょう」

『そう……なんですね』

あまり詳しいことは分からないけど、解決しそうで安心したわ。さすが薫さんね。

「僕が持ってきたHTMLの文字列をチェックするためのツールをインストールさせてもらって良いでしょうか? 目視で間違いを探すとなると、朝までかかっちゃうと思うので……」

『ええ、ぜひお願いします』

そう言うと、彼は鞄からUSBを取り出して、何やら作業を始めた。

『あの、私、ちょっとお茶を入れますね。薫さんはどのフレーバーがお好みですか? ジャスミン、レモン、アップルなどいろいろありますが』

「すみません。私はストレートで大丈夫です」

そうだった、彼はシンプルなのが好きだったわ。台所に立ち、ティーポットの中の紅茶葉にお湯を注ぐ。

何とかなりそうなのは嬉しいけど……。多分、この調子だと1時間くらいで終わってしまう。

「それじゃあ、直りましたので私はこれで失礼します」

とか何とか言って、彼は帰ってしまうに違いない。良い意味でも悪い意味でも、彼はそういう人だ。

私の部屋で薫さんと二人きり……こんなチャンスなかなかあるもんじゃないわ。

誘惑……しちゃおっかな!

彼だって、オトコだもの。イヤじゃないわよね。わざわざこんな時間に家まで来てくれるくらいだもの。

ちょっとだけ、勇気を出してみよう。

『お待たせしました』

トレーにティーポットとカップ2つ、焼き菓子を乗せ、テーブルまで運ぶ。

「ありがとうございます」

彼は、インストールしたツールを起動させ、じっとモニターを見つめている。

やるなら今ね……!

『薫さん』

振り向こうとした彼の頬に軽くキスをした。

「………え」

彼の顔がみるみるこわばり、眼鏡の奥の瞳が色を失う。

「何……で……?」

沈黙が二人を包み込んだ―――

天秤座 3章 終


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【今回の主役】
佐々木恭子 天秤座27歳 アパレル店員
センスがよく整った容姿の女性。男に困ったことがなく、広く浅く男性と付き合う、いわゆる“リア充”である。将来の夢は玉の輿に乗ることで、毎週タワーマンションで催される会員制パーティー『ロイヤル・ヴェイル』に参加している。仕事仲間からは陰口を叩かれているようである。


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