「男」に囲まれてこそ私は輝く|12星座連載小説#12~天秤座3話~

文・脇田尚揮 — 2017.2.7
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第12話 ~天秤座-3~


前回までのお話はコチラ

「私はこっちだから、じゃあこれでね」

絢芽さんが口元に笑みを浮かべ、電車に乗り込む。いやらしいくらいスマートだ。時間からして、今から仕事というわけではないのだろう。

『はい、どうぞお気をつけて』

私は手を振りながら、何とも言えない気持ちになった。

ついさっきまで、男たちとの飲み会にウキウキしていたのに、今はイライラしてる。

私だってちょっと名の通ったブランドを扱ってるのに、何も聞いてこないなんて! 何だか、まったく興味を持たれず去られてしまった感じ……。

なによ、銀座で働いてるからって偉そうに! 水商売で稼いでるだけじゃない。どうせ男に貢がせてるんでしょ。私は堂々と昼の仕事で生きているんだから。


「……ご乗車の際はお足元にご注意ください」

はっ! 渋谷行きの電車が到着していた。

普段なら気にも留めないホームのアナウンスが、今日は妙に耳についてウザったい。おまけに電車も混雑していて、ホントに嫌になっちゃう……。

人の波に流されながら、私は電車に乗り込む。

絢芽さんは確かに、いつもトップだったわ。でも、私だってその気になればトップくらい取れたはずよ。男に媚びたり周りから嫉妬されるのが嫌だっただけ。ナンバー入りするくらいがちょうど良かったんだから。それに、いつまでも夜の仕事なんて続けられるわけない。愛人止まりの人生なんて、私には耐えられない。

そんなことを考えながら、車窓に映る自分の顔を見るのが嫌で、ずっと俯いていた。

……何をムキになってるんだろう。


渋谷についてメイクを直し、祐太たちが待つお店へ向かう。

テーブルにつくと3人の男たちがいた。

「おー! 恭子! 待ってたよ!」

「超カワイイじゃん!」

「どうも。こんばんは」

一斉に沸く男性陣。これこれ、この反応ッ!!!

『待たせちゃってゴメンネ』

テへっと、軽く舌を出してみる。

「いや、俺たちも来たばかりだからさ、さっき注文したところ」

「恭子ちゃんは何飲む?」

「ここ、ローストビーフが美味しいみたいだよ」

3人の男たちが、あれこれと私に気を遣ってくれる。女と違って、男は本当に付き合いやすい。小さい頃から一緒に遊ぶのはいつも男の子だったし、父や兄も私によく構ってくれたもの。

『私はカシスオレンジが良いかな。食べ物はみんなのお任せで』

本当は生ビールを飲みたいんだけど、女子はカシオレが王道。オヤジ系女子と思われてしまったら、途端に扱いが雑になるんだもん。

「おい、祐太。紹介してくれよ」

そう言ったのは、ちょっとチャラ男風の茶髪ロン毛だ。顔は……まぁ悪くない。

「そうだな。恭子、紹介するよ。俺の友達で美容師やってる隆史」

裕太がチャラ男を指しながら、紹介する。

「ども~。祐太から凄い可愛い子がいるって聞いてさ。恭子ちゃん、ホントにカワイイね! 俺、原宿で美容師やってるんだ。良ければいつでも来てよ。恭子ちゃんみたいな可愛い子なら大歓迎だよ。サービスするからさ!」

うわ~グイグイ系。トークも軽快でモテるんだろうけど、私はないわ~。

私は、美容師・バンドマン・バーテンダーとは絶対付き合わないって決めてるんだから。これまで色んな美容師を見てきたけど……、女を食い物にする男が就く仕事3つ「通称・3B」の1つって言うのは、あながち間違ってないと思うの。

私が目指す、“理想の結婚”には遠い存在だわ。

「はい! ヨロシク♡」

そう答えながらも、私はもう1人のメガネ君のほうが気になっていた。

「ねぇ、祐太。メガネの彼とも私、初対面だよね?」

さりげなく振ってみる。意外とああいう地味めの男が掘り出し物だったりする。

これまで数多くの男を見てきた私には、独自の判断基準があるのだ。

黒髪で比較的小顔、メガネを外したら案外イケるかも。やや童顔で可愛い系に分類されるかな。カーディガン姿も品が良く、さっきもこのお店のオススメについて一言くれたわね。気遣いもちょうど良い感じで○。
猫背でちょっと背が低いのと、自信なさそうな感じがマイナスだけど、及第点。

あとチェックすべきは、“仕事”ね。

「あ~、カオルね。こいつはWEBクリエーターやってて、結構綺麗なサイト作るんだぜ」

ふ~んWEB屋ねぇ。

「はじめまして。四谷薫と言います。」

薄っ! 反応、薄! そんだけ?

「ああ、恭子、コイツ大人しい奴だから気にすんな。今日はこの二人しか捕まんなくてさ」

申し訳なさそうに、頭を掻いている。

「カオル君、ヨロシクね♡」

笑顔でニッコリ。こういうタイプには、こっちから色々話題を振っていかなくちゃね。面倒だけど、地道に掘っていけば、距離が縮まるのも早かったりするのよね。

今宵、大都会渋谷で、女1人×男3人の飲み会がスタートしようとしている。

次回、“第13話 「高級クラブのママが思いを馳せる「女の幸せ」~懺悔と羨望~」”は2月8日(水)配信予定。


【これまでのお話一覧はコチラ♡】

【今回の主役】
佐々木恭子 天秤座27歳 アパレル店員
センスがよく整った容姿の女性。男に困ったことがなく、広く浅く男性と付き合う、いわゆる“リア充”である。将来の夢は玉の輿に乗ることで、毎週タワーマンションで催される会員制パーティー『ロイヤル・ヴェイル』に参加している。仕事仲間からは陰口を叩かれているようである。

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