アラサー女が知る「婚活の闇」|12星座連載小説#80~蟹座8話~
【12星座 女たちの人生】第80話 ~蟹座-8~
前回までのお話はコチラ。
婚活サイトに登録して半日も経ってないのに、こんなに良い男性に当たるなんて……私、ツイてるかも!
“石田誠二”と名乗る男性からのメールに目を通す。
「はじめまして。石田誠司と申します。IT企業に勤めています。
今回、サイト内で瀬名さんのプロフィールを拝見し、“人を幸せにする仕事”に就かれているとのこととても素敵だと感じました。
もしよろしければ、このようなメッセージを通して、お友達から仲良くさせて頂けたら嬉しいです。」
……きゃぁ! 男の人からこんなメッセージをもらうなんて、何年ぶりかしら。
学生時代の胸の高鳴りを思い出す。これでも、学生の頃はモテる方だった。他校の男子から告白されるなんてこともあって……。
はやる気持ちを抑えつつ……、石田さんにメールを返す。
『はじめまして。瀬名亜矢と申します。
この度は、わざわざご連絡有難うございます。実は、このようなサイトに登録したのは初めてで、不安に思っていたんです。
そんな中、このようなご丁寧なメッセージを頂けてとても嬉しいです。私も石田さんのお仕事についてとても興味があります。こちらこそよろしくお願い致します。』
よし、っと。送信ボタンを押す。
うん、なんだか達成感。
気づくと、23時を回っていた。
『いけない、もうこんな時間……』
急いで、お風呂に入る。
お母さんと由愛はもう寝ているみたい。“おやすみ”を言うの忘れちゃった……。
湯船につかりながら、今日一日を振り返る。
何だか目まぐるしい一日だったなぁ……。
あの、ジュエリーの戸部って子、いけ好かない女だったわ。
具体的にどこが嫌というわけではないけど、私が持っていないものを全部持っているような気がして……気に入らない。
ちょっと羨ましい。
私は外であくせく働いて、家に帰ったら育児が待っていて……。自由のない暮らしの中で、恋なんてできない。相手も見つからない。
でも、彼女はイキイキと仕事していて、独身生活を満喫しているように見えた。仕事と育児の両立の大変さなんて、きっと分からないわね。
……だけど、これからは違うわ。
私も恋をして、そして再婚して幸せになるんだから!
お風呂を上がり、髪を乾かす。
……一つだけ気になることがある。それは“顔写真”を登録していないで、よくあんなに連絡がくるなぁっていうこと。
27歳っていう年齢が、婚活市場では若めで魅力的なのかもしれないけど、それだけなのかな? 収入も平均より少し多めなだけだし。
男なんて、若い女なら誰でもいいのかしら……。
―――ここ数年、幾度となく参加した“婚活パーティー”のことを思い出す。
婚活パーティーでは人間の本性が出る。だから、驚くようなことがたくさん起きる。
そもそも成立カップルがいないパーティーなんてザラ。うまいこと成立したとしても、条件の一致で結ばれたカップルなんて、脆いもの。
婚活パーティー後、手を握りあって談笑している成立カップルがいた。
しかしその女性には、実は付き合っている男が別にいたようで……。
それを知った瞬間、男性は「じゃあ今回はなかったことで」と冷たく言い放ち、別の女性に「今から少し話しませんか?」なんて声を掛け始めた。
そんなものなのよね。
あと何より、変な人が多いわ。
休日や仕事後は基本的に、デートか合コンの予定で一杯で、「今日は三人と会わなきゃいけない!」なんて言っていている人もいた。昼~夕方にかけて合コン2回、夜デート1回なんて、私には考えられない。
婚活パーティーは、本当に“闇が深い”。私はすっかり疲れてしまって……、しばらく活動を休止していたのだ。
これまで私は、“婚活サイト”はどうしようもない男女が行き着く場所だと思っていた。でも無料登録するだけで、こんなに出会いがあるなんて……もっと早くからやっておけばよかった。
振り返ると、かなり無駄なことをしていたように感じる。
―――でも、それも今日でおしまいね。
喜々としながら、スマホをチェックする。初めて彼氏ができて、舞い上がっている“小娘”のように。
あっ! 来てるぅ~! 石田さんから1通、それ以外の男性からも4通。
何だかもう、クセになりそう。
すぐにメッセージを開く。石田さんのは最後にとっておこう。
私は好きものは残しておいて、最後に食べるタイプなのだ。
期待せずに、開封する。やっぱり“出会い目的”ね……。
ん?
この竹井さんって人、イケメン~! サラサラの長髪に少し醤油顔。鼻筋が通っていて、今風な容姿だ。
年齢は35歳、OK。ふむふむ、バツイチか。全然アリ。
私は、どんどん“婚活サイト”にハマっていった。
【今回の主役】
瀬名亜矢 蟹座29歳 ウェディングプランナー
バツ1子供あり(瀬名由愛・7歳)。仕事で、華やかな結婚式場のプランニングを企画しながらも、どこか冷めている自分に気づきつつある。婚活や合コンには頻繁に参加しているが、どこか満たされない”出会いイベントジプシー”な一面も。カップルの幸せを見送る立場でありながら、医者である元夫(二階堂恭二)との離婚を経験した自分に矛盾を感じている。
(C) gmstockstudio / Shutterstock
(C) Dmitry A / Shutterstock