ずっと彼を信じ、やっと結婚まで辿り着いた…|12星座連載小説#29~蟹座2話~

文・脇田尚揮 — 2017.3.2
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第29話 ~蟹座-2~


前回までのお話はコチラ

……よかった、山岡さんはまだお見えになってないようね。

メイクが崩れてないか、今一度チェックし、襟をただす。

私は最高の結婚式を提案するプランナーなんだから、お客様の信頼が第一!

私はこれまで、350組近くのカップルの結婚式のプランニングをしてきた。

プランニング段階では、みんな不安そうにしているんだけど、いざ式を迎えるとどのカップルも最高の笑顔になる。

そんな姿を見るのが私は大好きなんだ。

……ただ、いつも思うのは、“結婚で幸せになれなかった私”が結婚式をプロデュースしていいのだろうか、ということ。

「瀬名さんは、さぞ素敵なご結婚式をされたんでしょうね?」

ほとんどのお客様が、目をキラキラと輝かせ、私に尋ねてくる。

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―――確かに、素敵な結婚式だったわ。

……その時は。

その後の“元”夫との、数年にもわたる泥沼争いを思い出すと、美しい思い出も霞んでしまう……。
式がゴールじゃないってことを、教えてあげたくなるくらい。

……なんて、ウエディングプランナーがそんなこと考えてちゃダメよね。

幸せな結婚生活を夢見ているであろう、二人の足音が聞こえてきた……。

『フン!』と鼻から息を吐き出し、私も今一度気合を入れ直す。

ドアが開くと……、いかにも“長いお付き合いの末の結婚です”といった感じの、お似合いの二人。

何組ものカップルを見てきたからこその、”カン”みたいなものが、私にはある。

“できちゃった婚”……いえ、今では“おめでた婚”って言うのよね。
そんなカップルは、女が強くて男が引っ張られてる感じ。

若い女との年の差婚は、男が一生懸命で女がリードされてる印象。そして、20代前半同士のカップルは、危なっかしいけど勢いがあるわ。

……まぁ、とにかく二人のオーラというか、雰囲気を見れば一目瞭然なワケ。

ちょっと前に話を伺った清水さんたちみたいなカップル……かな。
清水さんも彼とかなり長い付き合いって言ってたわね。あれから連絡ないけど、どうしてるのかしらね。

こういったケースは”永すぎた春”にならないように、ケジメをつけなくちゃダメなのよ。

見た感じ、男性の収入はそれほど多くなさそう。ここへは彼女に押されて、渋々来たわね。彼女は、ずっとずっと彼を信じてきて、やっと結婚まで辿り着いた……そんな顔つきだわ。

こんな時は……そう、プラン内容とお金の話からしてあげるのが良いわね。

『初めまして。今回お二人の特別な日をコーディネートさせて頂きます、瀬名亜矢と申します。』

少し鼻にかかった声で自己紹介し、名刺を差し出した。

「よろしくお願いします! 山岡靖子と言います。半年後でまだまだ先ですが、彼と結婚を考えていまして……でも、どんな風にしたらいいか……、予算もそんなにありませんし……。一度お話を伺いたくて、予約させてもらいました」

『そうなんですね、ではまずプランの説明からさせて頂いてもよろしいでしょうか?』

結婚式は、本当にピンキリだ。身内だけで厳かに済ますカップルもいれば、これみよがしに盛大にやるカップルもいる。
だからこそ、お客様をよく観察して、二人に一番合ったプランを提案しなくちゃいけないの。

日取り、衣装から招待状の手配まで、決めるべきことは山ほどある。
二人の意見や要望を聞きながら、それら全てに最善の案を出し、素晴らしい式になるようトータルサポートするのが私の使命。

『まず、このBプランですと……』

もう何百回も口にしてきた内容だ。何も見ずとも全て頭に入っている。
でも、この二人にとっては、全てが初めてのこと。気を抜くわけにはいかない。

『……と、以上がプランの紹介になります。』

一通り、彼女たちに合ったプランについて話をさせてもらった。

二人の顔を見る。少しでも表情に陰りがあれば、再提案だ。

とにかく二人にとって最高のプランを提案できるまで、何度も希望のすり合わせを行うのだ。私にとっては、数ある結婚式の中の一つでも、彼女らにとっては一生に一度の大切な式なのだから。

「あの、すみません」

口を開いたのは、彼氏の方だ。

「招待する人たちの車代って、いくらくらいかかりそうですか?」

『何名ほど招待される予定でしょうか?』

確かに、意外と重要な問題よね。

「う~ん、親族や学生時代の連中を入れたら、ざっと30人くらいになりそうなんですけど……私は北海道出身なもので、遠方から呼ばなくちゃいけないんですよ」

『それでしたら、片道分の交通費と宿泊費をお持ちするのが一般的ではないでしょうか。このCタイプのホテルですと……』

地方からお呼びする場合、式を挙げるホテルに、前後二泊していただくのが安心かな。多少費用はかさむけど、荷物も多いし。

でも、このCタイプのホテル込みコースなら、安く抑えることができるのよね。

説明を終えると、彼の顔に赤みがさしてきた。

……どうやら安心した様子だ。

二人のどちらか一方に不安が残っているうちは、私は説明をやめない。

それが私のスタイル。



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【今回の主役】
瀬名亜矢 蟹座29歳 ウェディングプランナー
バツ1子供あり(瀬名由愛・7歳)。仕事で、華やかな結婚式場のプランニングを企画しながらも、どこか冷めている自分に気づきつつある。婚活や合コンには頻繁に参加しているが、どこか満たされない”出会いイベントジプシー”な一面も。カップルの幸せを見送る立場でありながら、医者である元夫(二階堂恭二)との離婚を経験した自分に矛盾を感じている。

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