音楽業界の成長と環境への配慮を両方とも諦めない。
――SKY-HIさん率いるBMSGが“音楽業界を持続不可能にしないための提言”を行い、アクションを起こし始めてから約1年。手応えは感じていますか?
SKY-HI:感じています。まずCD販売に依存しないことで、アーティストにより多く分配できるようになったのがわかりやすい変化で、自社としては極力健全な方向でビジネスが成長できていると思います。次に、業界内に僕らのアクションに対する賛同者が増えたこと。音楽や動画をストリーミングで楽しむ人が増える一方でCDプレーヤーを持つ家庭が減っているので、CDという形態にこだわり続けるのは、難しい部分があるのが現実だと思います。物を売ることについて改めて考えなければいけない、ということに気づき始めた人たちに動きが出てきたように思います。
――BMSGの取り組みの具体的な成果として、CD製造段階のプラスチック使用量10t削減、CDやグッズを含む作品にかかる総売り上げが提言前の約2倍に伸びたというデータもありますね。これは素晴らしい成果かと。
SKY-HI:ありがとうございます。ただ、ある程度アーティストバリューがある場合の成功パターンともいえます。BMSGはリリースの数やクリエイティブにかけているお金は現行の事務所の中でもかなり大きいので、この取り組みが展開可能な成功体験になったと思うけど、国内アーティストの全てに当てはまるわけではない。そしてアーティストやそのマネジメントをする事務所、レコード会社などの活動資金や利益の還元まで含め、お金まわりを牽引するのは圧倒的にマーチャンダイジングの分野なので、そこがうまく可視化されただけなのかも。まだこれが正解とはいえない、複雑なところです。それでも“持続不可能にしない”方向に舵を切るためのアクションを続けて、今後の音楽ビジネスにとって展開可能な成功体験にしていかなければいけないと思っています。
過激派にならず、持続可能な目標を立ててクリアしよう。
――“持続不可能にしない”について、具体的に教えてください。
SKY-HI:夏フェスが盛んになってきていますが、年々気温が上がり体調不良を訴えるお客さんも増えていて、環境問題としての持続不可能はもう目の前にあると言っていい。ただ、じゃあ電気使用量をゼロにすればいいかというと、電気がないとレコーディングもライブもできない音楽業界は持続不可能になる。プラスチック問題も同じ。CDに関しても過激派になるのではなく、持続可能な目標を立ててクリアしていこうという考えです。
――業界内の賛同者をさらに増やしていくために大事なことはなんだと思いますか?
SKY-HI:音楽のみならず、エンターテインメントビジネスに関わる全ての人が、エンタメを通して社会全体をよくしたいという認識でやっていることを思い出してもらうことが一番かな。本来エンタメというのは、世の中に生きる人々の生活をちょっと豊かにしたり、心の栄養を補給する部分を担っていると思うんです。知識やお手本にもなるような教科書的要素と、感動を与えたり感情に訴えかけたりするようなアート的要素の両方を持っているはずなのに、現状は教科書的要素があまりない。そこで、電気使用量を少しずつ減らそうよとか、可能な限り無駄なプラスチックを減らしていかないとやばいよね、って。環境への配慮と、音楽業界を持続不可能にせずにビジネスを成長させることの両方を絶対に諦めてはいけないんです。
――今後も提言を続けていくために必要だと思っていることは?
SKY-HI:一人一人が持続可能なアクションを起こす必要があることを世の中へ浸透させること。例えば、鰻の乱獲が問題になっているけど、夏だったり、お祝いの時は、やはり食べたい。罪悪感はありつつもそこは切り分ける器用さを持てるのが人間。夏場の電気使用もエアコンの使用はやめられないけど、設定温度を少し上げることでCO2削減に繋がるとか。それから、ストリーミングはじめインターネットを駆使した音楽の楽しみ方やそこで得られる喜び、国内アーティストがグローバル進出する後押しになることへの意識を浸透させることも必要です。世論は最も大きな原動力になりますから。
――なるほど。他に自身として、また会社としてSDGsを意識されていることはありますか。
SKY-HI:レッスンスタジオやレコーディングスタジオを含めBMSGの社屋を1か所に集めたことで、移動から生まれる排ガスなどさまざまなロスを減らすことに繋がっていると思います。またライブの時に関係者からいただく祝花の代わりにお金をいただくご相談をしたり、演出の花を観葉植物にして次の会場でも使ったり。それを最後にスタッフが持ち帰ればフラワーロス対策にもなります。ちなみに僕はプライベートで生ゴミを肥料に変えるディスポーザーを活用していますが、それにより作られた肥料をライブ会場から持ち帰った観葉植物にあげることで植物は元気に育っていますよ(笑)。決してドラスティックな改革ではなく、みんながほんの2ミリぐらい意識を変えてくれるだけでこの社会はだいぶ変わると、僕は思っています。
Message/From SKY-HI
いま買おうとしているモノは本当に必要なのかを考えること。
普段なにかモノを買う時、本当にこれは必要なものなのかを考えてみてください。これが今すぐに、消費者ができることだと思います。そして応援してくれるファンのみなさんは、僕らアーティストからすれば本当にありがたい存在です。だからこそ、もっと純粋に音楽を楽しんでほしいという気持ちがあります。僕自身、CDを買いたいというファンの方々の気持ちはとてもよくわかります。だからこそ実際に聴いたり、保存用に取っておきたいもの以外は、欲しかったグッズを買うための資金に回すのもひとつの楽しみ方。それで環境にも配慮できたら、素晴らしいんじゃないかなって。僕ら発信する側とファンである消費者と、一歩ずつ健全な社会に近づいていくことが理想です。
PROFILE プロフィール
SKY-HI
スカイハイ 1986年12月12日生まれ、千葉県出身。ラッパー、シンガーソングライター、音楽プロデューサー。2020年にマネジメント/レーベル「BMSG」を立ち上げ、代表取締役CEOに就任。BE:FIRSTやMAZZELのプロデュースなどを手がける。アーティストとしては今夏、ニューアルバムをリリース予定。
anan 2437号(2025年3月5日発売)より