
ME:IのMOMONAさんが、旅をするなかで触れた新たな経験や、日々過ごす中でふと出合った「未知」のことやものを語るエッセイ連載「みちをさがして」。初回は白川郷へ旅したときの偶然の出会いと、そこから生まれたある思いについて綴ります。
どこまでも広がる空の薄群青、森林に柔らかく響き渡るひぐらしの鳴き声。
白川郷は、ずっと前に抱きしめられたことがあるようなひどく懐かしい感覚と、まるで神隠しにあってしまったかのような錯覚に陥るほど、神秘的な美しさが存在していた。
2025年の夏、突然できた連休に思い立って妹と二人旅をすることにした。この時とにかく自然に触れたくて、以前から気になっていた岐阜県の「白川郷」に目星をつけた。
合掌造りが立ち並ぶ田園風景がとても有名で、この集落一帯は1995年にユネスコ世界文化遺産に登録されている。
白川郷の風景といえば特に、合掌造りの茅葺き屋根に雪が積もった、美しい銀世界の風景が有名だ。そのため、夏に行くのはいかがなものかと、計画を立てた当初は迷っていた。けれどインターネットで調べて四季折々の田園風景を見ていくごとに、期待と惹かれていく気持ちはどんどん増していった。
思い切って、東京駅から金沢駅行きの新幹線と金沢駅から白川郷までのバスのチケットを二人分購入すると、もう心は既に白川郷まで向かっていて、豊かな自然に包まれているようだった。
出発の朝、8月の頭だったので気温はとても高く、快晴の日差しに包まれながら、期待で足取りがとても軽かった。
金沢駅から白川郷までのバスの中は、三分の二以上が海外から観光でやってきた人々だった。東京から新幹線を用いても片道4〜5時間ほどかかる日本の辺境に、これほどまで多く海外から人々がやって来るだなんて、とても不思議だった。
白川郷のバスターミナルに降り立つとまず、喫茶店や食事処などが立ち並んでいるのが見える。道路も綺麗に塗装されており、集落といっても観光地として辺り一帯整えられている印象を受けた。それでも目線をほんの少し高く上げると、すぐそばまで広大な山々に囲まれており、初めて目の当たりにする景色から感じる非現実感と、その中に確かに存在する、人々の生活の光景から日常感や懐かしさを強く感じた。とても不思議な感覚だった。
中心部へ歩いて向かう途中も、合掌造りをさっそく見つけて胸が躍った。実際に目にすると、その造りの緻密さやこの現代まで綺麗に保存されてきた事実に感動させられる。
白川郷に到着したのはお昼過ぎだったので太陽はかんかん照りで、観光名所の集まる中心部は人でごった返していた。その様子を見て、ひとまず一息吐こうと喫茶店に入ることにした。
その喫茶店は合掌造りの地下にあって、ぜんざいを注文すると、なんと囲炉裏にあるお鍋から自由におかわりできる。席に着いて周りを見渡すと、魅力的なそのメニューを頼む人はやはり多く、私たちも注文することにした。
席はテーブルやカウンターなど、色々な形式があるが、私たちが通されたのは囲炉裏を囲む席だった。とてもロマンを感じて、妹と静かに声を潜めながら興奮していたのを覚えている。
ぜんざいは、白色と桃色と若草色の3色の白玉があんこと一緒に器に入っていて、とてもかわいらしい。囲炉裏の中の大きなお鍋の蓋を開けるとたっぷりのつぶあんが入っていて、そこからおたまで直接自分の器に注ぐ作業は、体験としても新鮮で、楽しかった。
この喫茶店の思い出は、美味しい食べ物やコーヒーだけじゃない。帰り際に店主のおじいさんがこの喫茶店にまつわる思い出話をしてくれたことが、時間が経った今も、私にとって大切な記憶として心に残っている。
おじいさんは、ある一枚の絵を私たちに見せてくれた。昔有名な漫画家さんがまだ駆け出しだった頃、コーヒーを飲みに来たついでに描き残していった絵なのだそう。私はその漫画家の方の描く作品が、自分のアイデンティティの一部ともいえるくらい人生で多く触れてきたものだったので、思わず声を上げてしまうほど驚いた。
店主のおじいさんはそういった漫画などの作品に詳しくなく、後からやって来たお客さん達に教えられて、とても有名な作品だと知ったのだそう。
もっと作品が世間に知られるようになってからもコーヒーを飲みに来てくれたり、不思議と他の有名な方もやって来ることがあったらしく…おじいさんはそんな思い出話をしながら、頬を綻ばせとても楽しげだった。
話に花が咲いて思わず長居してしまった後、帰り際に「あなたも有名になったらまた来てね」とお茶目な笑顔で、おじいさんに言われた。
この時私は自分のお仕事の話は一切しなかったし、おじいさんも私が芸能活動をしているなんて、見当もついていなかったと思う。
だからほんの、冗談だったと思うけれど、それが私にとっては嬉しくて仕方なかった。
必ずまたここに来よう。その時は今よりもっと素敵な人になっていよう、と心から強く思ったのだ。
旅先での人との出会いは、とても不思議なもので、もうこの場限りで二度と会わないかもしれないし、またこの場所か全然違うところで再び出会うかもしれない…そんな不確定な未来を想像する。でもそんな曖昧な未来の輪郭が、どこか煌めいているように感じられるのだ。
この先人生の路がどうなっていくかは分からないけれど、遠い未来またこの場所を旅先として選ぶ理由は既に存在している。
「あの喫茶店のおじいさんに会いに行こう」
それだけでまた、やって来る動機になるのだ。それってなんて不思議で、素敵なことだろう。私はまた必ず、白川郷にやって来る。決まった計画はないけれど、そう思う。
喫茶店を出て中心部の奥まで歩みを進めると、白川八幡神社という神社までやって来た。
そこではひぐらしがよく鳴いていて、西日が背の高い木々の葉を照らしていた。木陰で聴覚を研ぎ澄ませるように目を瞑ると、とても神秘的に感じられた。ゆるやかな風に吹かれて揺れる葉や、ひぐらしの鳴き声は、都会では耳にしない音たち。夕方になっただけで人気がだいぶなくなり、より異世界感というのが増していた。
東京からやって来た私ですらそんな感覚を覚えるのに、海外から観光にやって来た人達はどんな感想を抱くのだろう。そんなことをぼうっと考えながら、自然の豊かな香りや音に包まれていた。
その後は、白川郷を一望できるスポットを目指して山道を登り、なんとか登り切った頃には夕方の17時頃だった。
辺り一帯を見下ろすと、大きな山々に囲まれながら、立派な川が白川郷の中心を流れている。川は庄川といって、岐阜県北部および富山県西部を流れているらしい。山と川に囲まれたこの豊かな土地に、大昔から集落が存在し続けられているのはなんだか納得できた。
美しい夏の田園風景は、日本全国至る所に存在すると思うけれど、私にとってこれ以上のものはないと思った。
山道を下った後、宿へ向かいチェックインを済ませ、温泉に入ったり思う存分羽を伸ばすことができた。その後は、妹と語り明かして夜を過ごし、とても穏やかな気持ちで眠りについた。
そして二日目は、歴史的な合掌造りの民家の中を実際に見て回ったり、飛騨牛を使った朴葉味噌焼きという郷土料理を食べたり、"白川郷ならでは"を沢山体験することができた。そんな思い出の一つ一つもすごく大切だけれど、何よりお互いに成人して初めて、妹と二人で遠出をした事自体が感慨深くもあった。
三姉妹の次女、二番目である妹とは幼い頃犬猿の仲だった。何かと取っ組み合いの喧嘩をして、常に意地の悪い言葉を掛け合っていたと思う。私がひと足先に社会に出て酸いも甘いも知っていくごとに、家族に対して思うことや感じることが変わり、物理的な距離も生まれたことで、やっと優しくできるようになっていった。今となっては、良き理解者であり自分の分身のような、不思議で心地の良い感覚を抱いている。
私の家族は、一筋縄ではいかない軌跡を辿って来たし、妹達もそれぞれ幼い頃から色んな苦労や葛藤を抱えて来ていたのを知っていた。私はそれを分かっていても、10代なんて特に自分にも余裕がなかったりして、妹の精神と上手く向き合ったり理解しようと歩み寄ることが、できていない瞬間も多々あったと思う。
今こうして私が大人になって、妹も大人になって、お互いにまだ大人の中では子供だけれど、それでも…妹はこの旅の間ずっと本当に、優しかった。
初めて経験すること、挑戦すること、自分で選んだことの責任、選択の余地もなく降りかかって来る試練、そんな物事が多かったこの頃の私は、多くの悩みを唯一対等に言えるのが、妹の存在でもあった。
妹は私に「生きていてほしい」「そのままでいていい」と、よく口にしてくれていた。二十歳を迎えたばかりのあの子が、私にそんな言葉をくれた事は、この先どれだけ時が経っても忘れないと思う。
一緒に経験した苦労、私の知らない妹だけの苦労、お互いにお互いをすり減らしてしまった過去の時間さえ、ありがとうとこの旅の帰り道に強く思った。
二人だけで、初めてやって来る土地で一泊二日の時間を過ごしたからこそ、それまで知らなかった、私よりも大人びた妹の顔を知る事ができたのだと思う。
白川郷の夏の、豊かな自然と生ぬるい風に抱きしめられながら、私はより素直な心、ありのままの自分でいられたような気がする。大事な人の大事なところを改めて見て、知らなかった愛おしい部分を知った。そんな大切な記憶があの風景と共にある。
だからまた、必ず白川郷へ行きたい。
その時は…あの喫茶店のおじいさんと再会する時は、私はもっと素敵な大人になって、そしてまた愛する妹と隣並んでいたいと思う。
あの喫茶店は、ホットコーヒーを頼むと幾つかあるカップの中から、自分が好きなものを選べる。あの夏はとても暑くて頼めなかったから、今度は冬に行ってホットコーヒーを頼もう。
それでうんと可愛いカップを選ぶんだ。

喫茶店で頼んだぜんざい

合掌造りのそばで
Profile
MOMONA
2003年10月22日生まれ、神奈川県出身。日本最大級のサバイバルオーディション番組のガールズ版 『PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS』 から誕生したガールズグループME:Iのリーダー。今年8月からは、2度目となるアリーナツアー「2026 ME:I 2ND ARENALIVE TOUR“ME:1WAY”」を全国4都市で開催。12月2日(水)には5TH SINGLE『Rock & Roll Pretty』をリリース。個人としては映画「口に関するアンケート」に出演するなど、活動の幅広げている。
撮影・中島慶子 写真、文・MOMONA スタイリング・松尾正美































