何かに没頭したり、自分を甘やかしたりとご自愛の形は十人十色。多様なアクションを紹介する前に、まずは現代の“ご自愛”とはどんなものなのか、ポッドキャスト『私より先に丁寧に暮らすな』から、歌人、文筆家の上坂あゆ美さんと僧侶、物書きの鵜飼ヨシキさんが深く思考を巡らせます。
Index
上坂あゆ美(以下、上坂) 近年“ご自愛”という言葉が注目されているのはなぜなのかと考えると、それは競争社会の反動ではないのかなと。今の時代、キャリアアップ、結婚、出産などいろんなプレッシャーがあって、SNSを開けば他者と自分の比較も容易にできてしまう。そんな状況からの揺り戻しのような感じで“自分を大事にしよう”というムーブメントが起こっているのかも。
鵜飼ヨシキ(以下、鵜飼) 他者との比較もそうだけど、「こんなはずじゃない」と、今の自分を否定している人も多いんじゃないかな。そのカウンターとしての“ご自愛”という気もする。
上坂 鵜飼さんと一緒にやっているポッドキャスト(『私より先に丁寧に暮らすな』)にも、自分を大切にできていない人のお悩みはわりとくるよね。
鵜飼 他者を優先しすぎることで、結果的に自分を愛せないという。
上坂 最近、そういうお悩みをもらった時に言ったのは、「他者の幸せを優先するのは素晴らしいことだけど、あなた自身の幸せはどこにあるの?」ということ。
鵜飼 今は推し活がご自愛になっている、という人も多いようだけど、推し活には2つの側面があると思うんです。一つは推しをある種、宗教的に崇める行為。でも、そうなると自分というものが希薄になってしまう。一方で、“推しと自分”というそれぞれ独立した強固な関係がつくれたら、それは自分を癒す手段になる気がして。みんなどっちの感覚で推し活をしているんだろう?
ご自愛には対症療法と根本治療の2つがある

上坂 推し活以外にも、エンタメとか趣味とか、ご自愛のツールっていっぱいあるよね。私たちの番組では、しんどい時は泥団子を作ったり、アイロンビーズをしたり、ぬり絵をしたり、とにかく何かに熱中するといいよって話をよくしているんですけど、それは自分のインナーチャイルドを泣きやませるため。あとは、目の前の荒波を乗り越えなきゃいけない夜も絶対にあるけど、そういう時は何かに熱中することでやり過ごせる。ただ、ご自愛には対症療法と根本治療があると思っていて、これらはあくまで対症療法。一時的な嵐を耐え抜くための手段だと思っておいたほうがいいと思います。
鵜飼 それって船みたいな話だなと思いながら聞いていたんだけど。甲板とか表面的に壊れた部分だけ修理して、軸になるところを直さずにずっと走り続けている感じ。その“軸”ってどこにあるんだろうと考えると、上坂さんが言っていたインナーチャイルド、つまり過去のトラウマだったり、自分の弱いポイントにあったりするのかも。そこに気づければ根本治療に近づくとは思うけど、そういう話題はなかなか直視できないというか。しんどくて、対症療法に逃げたくなってしまう。
上坂 心の安定のためには、逃げてもいいんじゃないかな。その間に、時間が解決してくれるということもあるから。ただ、欲望を履き違えてはいけないよね。一時的な癒しが、本当に自分のやりたいことだと思っているのだとしたら、それは違うと気づいてほしい。
鵜飼 自分自身、根本治療につながるご自愛を何かしているかというと、それはノートを取ることだと思います。その日にあったことや疑問などを、思いのままにびっしりノートに書くんです。そうすると「こんなひどい言葉を使う一面があるんだ」とか、逆に「意外とピュアな部分があるんだな」とか、それまで意識していなかった自分への理解が深まってくる。これは僕なりの自分の愛し方なのかなと思いました。
自堕落なことでも考え方次第でご自愛に

上坂 私が真っ先に思いつくご自愛は、12時間寝てパズルゲームをすること。「自分って最悪」と思う日もあるけど、だらだらすることに関しては後ろめたさがまったくなくて、数少ない自分の好きなところです。それが数日続くと不安になるかもしれないけど、そういう時は「十分に休息が取れたから、働きたくなっているんだな」と思うようにしているかも。
鵜飼 それ、以前読んだ上坂さんのエッセイにも書いてあった。人によっては自堕落に思えるかもしれないけど、自分にとっては必要なだらだらなんだと。そういう自分を認める気持ちさえあれば、自分にとって大事なご自愛になる。
上坂 そう考えると、根本治療に必要なのは、自分が本当は何をしたいのかを知ることなんじゃないかな。それがわかっていないと、自分ではご自愛をしているつもりでも、実は競争社会の言いなりになっていた、というケースがあると思う。たとえば、私たちの番組は『私より先に丁寧に暮らすな』っていうタイトルですが、「みんな丁寧に暮らしてご自愛しているから自分もしなきゃ」みたいに、競争的にご自愛をするのはおかしいじゃないですか。私は全然丁寧に暮らせていないけど、自分自身に必要なご自愛とそうでないものがあると思う。ただ、自分の本当の欲望に気づくのは、けっこう難しいので、そのきっかけとして、メディアや人が紹介しているご自愛を始めてみるのも、一歩目としていいんじゃないかと思います。
鵜飼 そうしていくうちに、誰かから与えられたテンプレではなく、自分オリジナルのご自愛が見つけられるようになる。
上坂 あとは自己否定しないことも、ご自愛の第一歩なのかなと思います。そもそも私がそうなんですけど、人には絶対言わないようなひどい言葉を、自分には言っちゃう時ってありませんか? 最近、それを逆手に取れないかと考えているんです。自己否定しそうになったら、他者の目線に立つ。たとえば、大好きな友だちが「自分は最悪だ」と言っていたら、全力で止めたくなりますよね。それと一緒で「私がこんなことを考えていたら、あの子が悲しむだろうな」と思うと、自己否定したくなる気持ちが薄れるんじゃないかなって。
鵜飼 心の中の他者に救われるっていうことはあるかもしれないね。
上坂 今、ご自愛しようとしている人は、たぶん何かしらの傷を抱えていると思うんです。まずは自分の心とペースを大切に。そして、傷ついた自分を自覚して、「偉いね」って思ってほしいです。
Profile
上坂あゆ美
1991年生まれ、静岡県出身。歌人、文筆家。2017年より短歌を詠み始め、'22年に第一歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』(書肆侃侃房)でデビュー。近著はエッセイ集『会社ではおならをしてはいけません』(双葉社)。
鵜飼ヨシキ
1986年生まれ、京都府出身。京都・裏寺にある極楽寺の僧侶、物書き。僧侶の一般的な業務に加えて、Podcastや執筆を行う。寺院やカフェなどを利用した企画の運営、音楽イベントへの出演など、幅広く活動する。
Information
Podcast『私より先に丁寧に暮らすな』
上坂あゆ美さんと鵜飼ヨシキさんがパーソナリティを務めるポッドキャスト番組。通称「よりすな」。リスナーから寄せられた恋愛、家族、人間関係、生きづらさなどの悩みや、日々の雑多な話題を、二人ならではの視点で語り合う。Spotifyなど各種サービスで配信中。27人の選者たちによる、今がしんどい10代に聴いてほしい「生きのびプレイリスト」をメッセージとともに公開中。大人世代にもおすすめ。https://yorisuna831.studio.site/
anan 2514号(2026年10月7日発売)より
































