
左から、エースさんと寺家(じけ)さん。
昨年12月の『M‐1グランプリ2024 』(以下『M‐1』)で準優勝。一気に知名度を全国区に押し広げたバッテリィズ。取材当日も「食べる時間、なかったんで」と夕飯のコンビニ弁当をかき込みながらのインタビューとなった。
――忙しいですか?
寺家:ありがたいことに忙しいですね。今朝も7時30分新大阪発の新幹線で東京に来て、企業さんの広告のお仕事やって、打ち合わせを何本かして、で、ananさんのこのインタビュー。最終の新幹線でまた大阪に戻る予定です。
エース:今日、朝起きたら6時半過ぎとって、さすがに乗り遅れるかと思いました。ガッツで御堂筋線から新幹線に乗り換えて。間に合ってよかったです。
寺家:ガッツでなんとかなる問題ちゃうで。よく間に合ったな。
――お茶のCMで近藤勇と千利休に扮するなど仕事の幅も広がっているなと、いちファンとしても感じます。さまざまな現場を経験していかがですか?
エース:楽しいです。ずっと楽しいが続いてます!
寺家:これは本当に僕も同じ感想。今はまだやったことないことをしたり、行ったことない場所へ行けたりが多いんで、なんでも新鮮で楽しいんです。もちろん劇場行ったら、「おめでとう!」みたいな感じのお客さんのあったかいのもあって、うれしいですし。いろんなテレビ番組に呼んでいただけるのも光栄なこと。さらにそこで憧れていた先輩芸人の方々から、「『M‐1』惜しかったな」「面白かった」と声をかけてもらえる。もうそれだけで「今日はええ日やった」となるから、もしクイズ番組でエースも僕も1問も答えられんかったとしても、なんかずっとポカポカとしてますね(笑)。
エース:そうやね。僕、楽しいっていうのは、ずっと変わらないんです。だってこれまでの人生ずっと楽しいしかないですから。最近は、そこにありがたいなと思うことが増えました。こうやって取材してもらうのとかもありがたいですし、いろんな番組とか呼んでもらって、声かけていただいて、ありがたいことだらけです。
僕たち、実は考え方はバラバラなんです。(寺家)
――芸人さんの草野球チームで実際にバッテリーを組んだことがコンビ結成のきっかけ。当初から『M‐1』優勝が目標でしたか?
寺家:そうですね。僕は『M‐1』を見て芸人になりたいと思ったので、そこで優勝をすることがひとつの大きなゴールになっていました。NSCに入ったときからそれに向けて小さな目標を自分の中で設定していった。例えば、最初の5年でよしもと漫才劇場のメンバーになる、次の5年で『M‐1』の決勝まで残る、とか。一つひとつの課題を達成できなかったら辞めようと自分で自分を追い込んでやってきた。そうやって自らタスクを作り、1個ずつクリアしていくのが僕には向いている。ただ、エースはまったくそういうタイプじゃないんで。それを一緒に共有して同じ目標意識を持ってほしいということはないんです。コンビですが僕ら考え方はバラバラ。人を笑かしたいという真ん中の柱の部分だけ一緒で。性格的には真逆だと言っていい。でも、それがいいんだろうなと思っています。
エース:真逆だと僕も思います。寺家さんはいっぱい考えている人。考えすぎやろと思います。野球をしているときも寺家さんはデータ派でずっと考えてる。何の球を投げるかのサインなんてパパッと出してくれよと思うけど、じっくり考えて考えて出してくる。漫才でも一緒です。
寺家:こっちは考えすぎて行き詰まってドツボにハマることがよくある。それをスパッとエースが戻してくれることはけっこう多くて、ありがたいなと思ってます。
エース:『M‐1』はこうだから、ああだからって言うけど、おもろいネタやってウケれば通るやろ。それだけで大丈夫やって思う。
寺家:こういうところです。
――エースさんは『M‐1』に対してはどんな思いで?
エース:僕は子どもの頃からみんなを笑顔にするテレビスターになりたいと思っていたんで。そこに辿り着くには『M‐1』の決勝に出るのが最短やろうと。だから僕からすると別に『M‐1』はゴールとかじゃないですね。ここがスタートなんですかね?
寺家:それはananさんに聞いても答えに困ることやな。
エース:お互いそれぞれやりたいことがあって、寺家さんと僕は行かなあかんところが一緒だった。じゃ、一緒に行こか! となった。そういう感じやと思います。
――エースさんのピュアさに寺家さんが翻弄されるスタイルのネタは大ハマりしました。審査員のオードリー若林(正恭)さんが「ワクワクするバカが現れた」とコメントしたように、エースさんの存在そのものが衝撃的でした。
寺家:どこまでネタなのか、本物なのかとよく言われます。僕たちは、僕たちがしている会話をそのままベースにネタ作りをしている。だってエースの“人”の部分がいちばん面白いから。だから、エースのことをキャラだとか言われるのが僕は不思議で。こんなんキャラででけへんやろと思いますし、キャラじゃここまでネタが面白くならへんと思います。エースの地の人間力を基にしているから、作ったキャラより濃くて面白い。
エース:僕、嘘つけないですから。そのまんまです。
寺家:エースの本質で勝負している分、僕らは強いとも思っています。どんだけネタを作るのがうまいやつがいたって、素の“人間”の面白さには勝てない。計算より本質。それが僕らのたどり着いた答えだと思っています。
――寺家さんのエースさんへの信頼がとても厚いんですね。
エース:それはよくわからないですけど…。でも、僕という人間が出せれば絶対に負けないとは思ってます。僕より面白い先輩も後輩もたくさんいるのはわかってます。でもトータルで考えたとき、僕が絶対に人をいちばん幸せにできると思う。自分が誰より幸せだって思っているから。そんなやつ、ほかにいないと思います。
――そういうエースさんの自己肯定感の高さがみんなを惹きつけるのだと思います。
エース:……。
寺家:“自己肯定感”、意味わかるか? わからんか…。
エース:だいたいの話の流れで褒められていることはわかるよ。
――(笑)。まさにバッテリィズですね。では、この戦い方で今年の『M‐1』の優勝を目指す?
エース:そこは逃げられへんかなと思ってます。ここで逃げたらダサいし、やるしかない。みなさんに期待してもらっているのも大きいです。それがある限り僕は楽しいって思えるから挑戦できます。
寺家:僕は『M‐1』を初回から1000回以上繰り返し見て、研究・分析を続けていますが、競技漫才の勝ち方って昨年の令和ロマンしかり、答えが出ているところがある。それに加えて優勝するまでの過程までもはや公式化されている感があります。メディアへの出演は絞って、劇場出番を多くして……みたいな。でも僕たちはそれをもっとバッテリィズらしいやり方で目指せたらと思ってます。
――4月から東京に進出されるのも、お二人らしいスタイルを貫くためなのでしょうか。
寺家:それはもうコンビを組んだときからの約束で。
エース:テレビスターになるには東京に行かないと、って思っていたので、もう一昨年くらいからいつ行こうかと考えてました。
寺家:本気で考えだしたのは昨年の『M‐1』決勝進出が決まったタイミングですかね。でも、僕は8位以下だったら行きたくなかった。下位だったら、またいちからネタを作って大阪でしっかり準備して勝負したいと考えてたんです。それをエースの名付け親でもあるニッポンの社長の辻(皓平)さんに話したら「お前ら、5位以下になることはあり得へんで」と言われて。めっちゃ尊敬する先輩に背中を押してもらえて、今勝負するんでええんや、と腹くくれました。
エース:そうなんですが、いざ決まると寂しくなってしまって。
――エースさんは西成生まれの西成育ち。好きすぎる地元を離れるのはいかがですか?
エース:30年住んでるんで。大阪愛がめちゃくちゃ強いですから、決まってから一瞬だけ、それこそ2%くらいですけど、初めて迷いました。やっぱ行くのやめようかなと。でも、一度決めたことはやらなあかん! となりました。
寺家:僕は家族がいるのでまずは単身赴任。寂しいけど毎朝の保育園の送りをやらなくてよくなるので、早起きしなくてすむ。それはちょっとうれしいです。
――東京でこういう仕事をしたいというのはありますか。
エース:もう全部やりたいです。僕にやってほしいと言っていただけることは全部やっていきたい。
――お笑い以外のことも?
エース:はい! ドラマとか映画とか歌を歌うとか。僕が興味を持っておもろいなと思えることならなんでも挑戦したい。できないことはないです。あ、でもオバケは怖いからいややな……。オバケ関係はやめてください。それ以外のことならなんでもしたいです。
寺家:僕はやっぱり野球に関する仕事をしたいですね。野球にずっと育ててもらったんで。その恩返しがしたい。夢は僕らの冠がついた野球番組を持つことです。それと東京でも草野球チームを持ちたい(笑)。あ、でも大阪の草野球チーム、上方ホンキッキーズもちゃんと続けますよ!
――3月31日には『バッテリィズなんばグランド花月初単独ライブ「バッテリー」』を開催。大阪時代の締めくくりとなる大舞台です。
寺家:NGKで単独ができるなんてと驚いてます。大きな節目となるライブになるかなと思います。
エース:今まで応援してきてくれたファンのみんなに最高の笑顔を届けたいと思います!
PROFILE プロフィール

右・エース
1994年生まれ、大阪府出身。草野球チーム〈上方ホンキッキーズ〉では背番号11番、投手。7種の変化球を投げ分ける技巧派ピッチャー。
左・寺家(じけ)
1990年生まれ、三重県出身。背番号27番、捕手。2017年にコンビ結成。『M‐1』には結成当初から参加し、’22年準々決勝、’23年準決勝進出と結果を残し、昨年準優勝を果たす。
INFORMATION インフォメーション
大阪拠点のラストライブは、3月28日によしもと漫才劇場での『バッテリィズ卒業公演「幻の一日」』、3月31日になんばグランド花月での『バッテリィズなんばグランド花月初単独ライブ「バッテリー」』の2本を予定。それぞれ配信もあり。詳しい情報は、よしもと漫才劇場となんばグランド花月の各HPで確認を。
anan 2439号(2025年3月19日発売)より