動物を知れば人間もわかる!? 前代未聞の生物学ラブコメ。
「この作品はリチャード・ドーキンス博士の『利己的な遺伝子』という書籍に感銘を受けた結果、生まれました。生物学は人間の感情や営みやその他すべてのことに答えを示す学問なのかもしれないと思い、人間の生(なま)の感情を描きやすいモチーフとなり得るのかなと思ったのです」
1巻の冒頭、高校教師の久慈は付き合って間もない彼女に浮気をされる。子どもの頃から色白&華奢で「男としてイケてない」というコンプレックスを抱いてきた半面、ジェンダーフリーとされる現代に望みを託していたが、現実はうまくいかず。
「生物学は要所要所で残酷かつ不快な真実を突きつけてくる学問なので、久慈先生は読者に寄り添う一般的で優しいキャラとして描いています」
そんな久慈の前に、モデルでインフルエンサーの超優等生女子・阿加埜(あかの)が現れ、生物学部の顧問になるよう迫る。彼女は見た目に反してエキセントリックで、クジャクを例にモテない男子を一刀両断してしまう。
「生物学を語る以上、不愉快なキャラになってしまうので、いっそ変に好かれようとはせず、アクセルを思い切り踏もう! と描いた結果、このようなキャラに(笑)。当初はもう少しクールな予定で、ここまで暴走するのは想定外かもしれません」
男子を巡って争う女子の身勝手さを海に飛び込むペンギンを例に説明したり、セックスレスの末にフラレた女性教師に対し、ネズミの生態について講釈を始めたり。“あくまで”動物の話なのだけど、強引さ込みで妙に説得力があるから面白い。さらにジェンダーやルッキズムなど、炎上しかねない価値観に切り込み、揶揄ではない形で笑い飛ばす力強さも。
「たしかに阿加埜の言動は際どいものが多いと思います。ただ作品自体は何かを否定する構造にはなっておらず、すべてのキャラクターに愛すべき点をきちんと描いて、安心して読めるものを目指しています」
生物学の解説に笑いつつも気になるのは、なぜ阿加埜ほどの才女が久慈につきまとうのかという点。
「キャラが再登場して輪が広がる、学園モノならではの賑やかな雰囲気を大事にしつつ、3巻以降は阿加埜の過去が掘り下げられ、久慈先生との仲もぐっと変化する予定です!」
小出もと貴『あくまでクジャクの話です。』2 “男らしくない”という理由で彼女にフラれた教師の久慈と、彼につきまとう生物学部の部長・阿加埜。生物学で生徒や教師の悩みを解決(?)する痛快コメディ。講談社 759円 ©小出もと貴/講談社
こいで・もとき マンガ家。モーニング編集部の新人賞「MANGA OPEN」に応募し編集部賞を獲得。著書に『サイコろまんちか』『iメンター』など。
※『anan』2024年7月31日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子
(by anan編集部)