――役作りで、ホストクラブへ見学に行ったとか。
桜井ユキ(以下、桜井):ホスト役の三浦翔平さんと八木勇征さんの3人で行きました。テーマパークみたいで、ずっとあの空間に浸っていたくなる気持ちがわかりました。圧巻だったのが、シャンパンコールです。プロの技を見せていただいて感動しました。
――さまざまなタイプのホストが登場するのも楽しみですが、桜井さんの推しは?
桜井:台本を読んだ段階では、三浦さんが演じる直樹です。けっして強引ではなく、少し下がったところから、私が演じる久美子を導いてくれるところが素敵です。
――久美子はどんな女性ですか?
桜井:さりげない立ち居振る舞いや発言がカッコいいです。ひと言ひと言に説得力があり、ハッとさせられます。
――久美子は34歳で、広告代理店の営業職です。一通りの仕事を覚えた中堅社員だけど、本当はコピーライター志望で悶々とする中、叔父のホストクラブを相続する話が降ってわき、歌舞伎町の世界へ。同世代の女性として、キャリアに迷う久美子に対して、共感できるところは?
桜井:私は、俳優としてのスタートが遅めだったので、自分の気持ちにリミットがかかっていたような状態でした。その頃のことを考えると、今の私がキャリアを変えるような大きな変化の波に乗れるかといったら躊躇してしまうかと思います。なので、久美子のまったく違う世界に飛び込んでいける勇気は、とても尊敬できます。
――キャリアの初期に、ご自身の気持ちに「リミット」をかけていたというのは?
桜井:俳優としてのスタートが遅かったこともあり、同年代の方々の活躍を見ると、自信を失ってしまうこともありました。それでも時間は過ぎていきますし、やらない後悔よりもやった後悔のほうがいいと思い進んできました。いま振り返ると、こうして主演ドラマもやらせていただけるようになって、諦めずに進み続けてきてよかったって本当に思います。
――諦めずに進んでこられた理由は?
桜井:自分から何かやりたいと親に初めて言ったことが、役者でした。反対されても始めたことに対しての親への意地が、くじけそうになった時の支えの半分になっていました。もう半分は、役者になるんだという純粋な想いでしたね。
――そもそも、小学3年生で俳優になりたいと思ったとか。
桜井:そうなんです。小学校の文集か何かに「将来は女優になる」と書いていました。ただ、ドラマをすごく見ている子供でもなかったですし、親がたくさん映画を観る環境で育ったわけでもなくて、きっかけがはっきりとあったわけでもないんです。でも、小学6年生の頃に地元の芸能事務所に応募して、親に黙って面接を受けに行きました。当然ですが、「ご両親とお電話で話さないと」ってことで、すぐにバレて「何やってんだ!」と怒られました(笑)。
――子供の頃の夢を叶え、入ったお芝居の世界はいかがでしたか?
桜井:見事なまでに心が折れました(笑)。お芝居がまるでダメだったんです。当時のマネージャーさんが、ワークショップである戯曲を読む私を見て、肩を落として部屋から出ていきました。感想を聞いたら「とても表には出せない。僕がOKを出すまではオーディションも受けさせない」と…。宣材写真も撮ってもらえなかったんです。演出家の石丸さち子先生のもとで基礎を学び、舞台に出させていただくようになってから半年くらい経って、ようやくオーディションOKが出ました。役者は演じる役柄が違えば、やることも全然変わるので、楽しいですし、飽きることが全然ないですね。
――役作りはどんなふうにしていますか?
桜井:私はリアリティを優先したいので、ゼロの状態から演じるのは難しいと思うんです。自分と役との共通点を手繰り寄せて、細かく繋いで落とし込んでいきます。
――そうした役作りをするようになったのはなぜでしょう?
桜井:若い頃は“私はこういう人です”ってキャラをガッツリ固めていたんです。そんな私を見抜いた石丸先生が「いつもニコニコしてるけど、自分のことかわいいとでも思ってるの?」と仰ったんですよね。人に気に入られたくてする愛想笑いはやめなさいと、それまでの自分を否定されたような気持ちになりました。その一方で、それまでの自分がまっさらの状態に戻った感覚があって、すごく楽になれたんです。それ以来、いろんなオーディションを受けながら、実は自分でも知らなかった面があると感じることが増えてきて。突飛な役であっても、自分の中にもそういう面があるかもしれないと思うようになりました。
――それで、まったく違うタイプの役を演じ分ける振り幅が生まれるんですね。
桜井:『真犯人フラグ』で個性的な役を演じさせていただいたのですが、あれが私の本性かもしれません(笑)。もはや、何が本当の自分なのか、わからなくなってきていますね(笑)。
――いろいろな体験を経て、芯の強さを手にしたようにお見受けしますが、落ち込むことは?
桜井:落ちる時はものすごく落ちます。でも一回だけ、その状態のまま翌日現場に行ってしまったことがあり、全然お芝居ができず猛省しました。その失敗から、落ちても朝起きたら全部リセットすることを学びました。昨日は昨日、今日は今日と引きずらないようにしています。
仕事への情熱を失いかけていた営業職の久美子。突然、叔父の遺言により、クセの強いホストたちと共に、潰れかけていた歌舞伎町のホストクラブを立て直していくことに。ホスト役に、三浦翔平、八木勇征、宮世琉弥、鈴木ゆうかほか。火ドラ★イレブン『ホスト相続しちゃいました』は4月18日23:00~、カンテレ・フジテレビ系にてスタート。
さくらい・ゆき 1987年2月10日生まれ、福岡県出身。2019年、主演ドラマ『だから私は推しました』で第46回放送文化基金賞 演技賞を受賞。’21年、デビュー10周年で初写真集『Lis blanc』を発表。映画『君は放課後インソムニア』が6月23日公開。ドラマ『ホスト相続しちゃいました』(カンテレ・フジテレビ系)で、民放連ドラ初主演。
※『anan』2023年4月19日号より。写真・小笠原真紀 スタイリスト・藤山晃子 ヘア&メイク・塚原ひろの インタビュー、文・小泉咲子
(by anan編集部)