
「実際に被害者がいる事件なので、どう書くかはすごく迷いました。資料も読みこみましたが、それらは頭から取り払い、フィクションの人物を創り出しました」
被告の梶井真奈子は料理教室に通い、男性たちに料理を振る舞っていた。面会した里佳は、彼女に勧められた料理を作り、レストランに通う。そう、本作の鍵は“料理”だ。
「事件の記事を読んだ時、料理で傷ついた人がたくさんいる気がしたんです。彼女と同じ料理教室にいる人はショックだっただろうし、“女が料理教室に通うのは婚活のため”“料理上手な女は家庭的”といったありがちな言説をさんざん聞かされて、料理が嫌になった人もたくさんいるだろうと思って」

仕事に追われ痩せぎすだった里佳は次第に脂肪を蓄える一方、梶井との間には不穏な空気が漂いはじめる。そんな里佳を心配しつつ、意外な行動に出るのは親友で料理上手な専業主婦・伶子だ。
「梶井真奈子の影響でどんどん大きくなっていく里佳に対し、伶子はどんどん小さくなっていく存在です」
途中からは里佳と伶子、その周囲の人間模様がクローズアップされ、男女それぞれの生きづらさが浮き彫りになる。里佳もどん底に突き落とされるような体験をするが、
「死ぬほど悩んでいる時に人に“助けて”と言えたら、そして自分で野菜を茹でてタッパーに入れて保存できたら、人は生きていける」
自分とも周囲とも向き合うなかで、事件の本質を見つめていく里佳のひと言ひと言に、はっとさせられる。そして彼女がたどり着いた境地とは。
「人は、自分の適量を知ることが大切だと思うんです。レシピにある“塩少々”も、人によって分量は違う。自分で料理して失敗を繰り返しながら適量を見つけていくしかない。それは食に限らず、ライフスタイル全般に言えることだと思う。この小説は、自分にとっての適量を知って、オリジナルレシピを見つけるまでの話だといえます」
ゆずき・あさこ 作家。1981年生まれ。2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞。’15年、『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞受賞。
※『anan』2017年6月13日号より。写真・岡本あゆみ インタビュー、文・瀧井朝世
(by anan編集部)
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