田代 わこ

官能的で鳥肌ゾクゾク! 一生に一度は見る価値あり「あやしくてクールな展覧会」2選

2023.7.30
東京駅周辺の便利なエリアには、ステキな美術館がいくつか集まっています。今回は、そのなかから夏のおでかけにおすすめしたい「ゾクゾクする」アートが見られる展覧会を2つご紹介!

あやしい絵にゾクゾク!「甲斐荘楠音の全貌」

東京ステーションギャラリー

【女子的アートナビ】vol. 303

まずは、東京駅直結の美術館、東京ステーションギャラリーで開催中の「甲斐荘楠音の全貌」。大正から昭和にかけて活躍した日本画家、甲斐荘楠音(かいのしょうただおと/1894-1978)の代表作が集まる過去最大規模の展覧会です。

甲斐荘は、京都生まれ。御所近くの裕福な家庭で育ち、幼少のころから歌舞伎好きで劇場に通うような子どもでした。その後、京都市立絵画専門学校(現:京都市立芸術大学)に進学。ルネサンス美術にも関心をもち、《モナリザ》の模写などもしていました。卒業後は、革新的な日本画を次々と発表し、注目を集めます。

《幻覚(踊る女)》1920年頃、京都国立近代美術館

彼が描く「あやしい」雰囲気の作品は、おもに大正時代に制作されました。女性の姿が独特な色彩やタッチで表現され、かなりのインパクト。ちょっと官能的でもあり、ゾクゾク鳥肌が立ちます。

《春宵(花びら)》1921年頃、京都国立近代美術館

ゾクゾクを通り越して、ギョッとする作品もあります。白粉をたっぷり塗った顔がやや不気味にも思える《春宵(花びら)》は、花魁を描いた作品。描きかけの部分もあるので、未完作といわれています。この花魁と似たような姿をした画家自身の写真も、参考資料として展示されています。

太夫に扮する楠音、京都国立近代美術館

芝居好きの甲斐荘は、ときどき女形として素人歌舞伎の舞台に出ることもありました。さらに、異性装で「女性」として振る舞うこともあり、彼が遊女や女形に扮した写真も多く残っています。

《春》1929年、メトロポリタン美術館、ニューヨーク
Purchase, Brooke Russell Astor Bequest and Mary Livingston Griggs and Mary Griggs Burke Foundation Fund, 2019 / 2019.366

また、本展には海外からの出品作もあります。

展覧会のメインヴィジュアルにも使われている《春》は、アメリカのメトロポリタン美術館から来日。本作品は、甲斐荘が所属した絵画団体「新樹社」の第1回に出品された作品です。描かれている女性の顔は、以前の画風にあったあやしい雰囲気が薄まり、優しく微笑んでいます。本作は、新しい画風を切り拓いたといわれる作品で、2019年にメトロポリタン美術館所蔵となりました。

映画衣裳の世界でも活躍!

『旗本退屈男 謎の南蛮太鼓』衣裳、東映京都撮影所 ©東映(映画公開:1959年、監督:佐々木康、製作・配給元:東映株式会社、衣裳着用者:市川右太衛門)

あやしい絵のイメージが強い画家ですが、本展では知られざる後半生についても紹介しています。甲斐荘は、風俗の考証家として、時代劇映画の衣裳制作にも携わっていました。

会場では、「旗本退屈男」シリーズの豪華衣裳を多数展示。甲斐荘が映画『雨月物語』(溝口健二監督)のために考案した衣裳は、アカデミー賞衣裳デザイン賞にもノミネートされました。世界も認めたデザインセンスをもつ甲斐荘の着物は必見です。

《虹のかけ橋(七妍)》1915-76年、京都国立近代美術館

最終章では、画家が60年もかけて描き続けた大作《虹のかけ橋》を展示。21歳のときに構想した作品で、少しずつ手を入れたり、顔を描き直したりしながら、最後まで女性の美を追求していたようです。

まさに、甲斐荘の「全貌」を見ることができる展覧会は、8月27日まで開催。

クールな絵にゾクゾク!「ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開」

アーティゾン美術館外観

続いてご紹介するのは、東京駅から徒歩圏内にあるアーティゾン美術館で開催中の「ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開」。本展では、印象派から1960年代ごろまでのアート作品をとおして抽象絵画の歴史を紹介しています。

展示されている作品は、ヨーロッパやアメリカ、アジアの作家など多岐にわたります。

各作品は、ポンピドゥー・センターやフィリップス・コレクションなど、海外の美術館や個人コレクションから30点も来日。国内からも、国公立、私立美術館、個人コレクションもあわせて約70点が出品されています。

さらに、アーティゾン美術館が新収蔵した作品95点を一挙に公開。あわせて約250点ものクールな抽象絵画を楽しめる大規模展覧会です。

ポール・セザンヌ《サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール》1904-06年頃 石橋財団アーティゾン美術館

展示構成は、12のセクションに分かれています。

最初のセクション「抽象芸術の源泉」では、マネ、ゴッホ、モネなどの印象派作品を展示。まず1作品目は、セザンヌの作品が紹介されています。セザンヌは印象派を代表する画家のひとりですが、やがて印象派の仲間から離れて独自の革新的な絵画を制作します。彼の作品は、その後キュビスムやフォービスム、抽象絵画へと影響を与えることになりました。

抽象絵画の創始者は…

フランティセック・クプカ《赤い背景のエチュード》1919年頃 石橋財団アーティゾン美術館【新収蔵作品】

セクション3「抽象絵画の覚醒」では、抽象絵画の世界を切り拓いた代表的な画家カンディンスキーやモンドリアン、ドローネーなど、巨匠たちの作品が多数登場。

なかでも必見作は、展覧会のメインビジュアルにも使われているクプカの作品です。抽象絵画の創始者のひとりといわれるクプカは、当初、挿絵画家として生計を立てながら絵画のスタイルを模索。構図を単純化してしき、やがて作品は抽象絵画へと変化していきました。

ほかにも、古賀春江や岡本太郎、ミロ、デュシャン、草間彌生、白髪一雄、瀧口修造など、巨匠たちの作品や、現在活躍している作家の絵画も展示されています。

なお、各フロアへの入り口にもぜひ注目してみてください。ポロックやアルトゥングの作品が大きくデザインされ、展示への期待感がグッと高まります。

抽象絵画を心ゆくまで楽しめる展覧会は、8月20日まで開催。

Information

展覧会名:甲斐荘楠音の全貌 絵画、演劇、映画を越境する個性
会期:~8月27日(日)  ※会期中、展示替え有[前期7/1~7/30、後期8/1~8/27]
休館日:月曜日[7/17,8/14,8/21は開館]、7/18(火)
会場:東京ステーションギャラリー
時間:10:00~18:00(金曜日~20:00) *入館は閉館30分前まで
観覧料:一般¥1,400  高校・大学生¥1,200  中学生以下無料
公式HP: https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202307_kainosho.html 

展覧会名:「ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開」
会期:~ 8月20日(日)
休館日:月曜日、7月18日(火) ※ただし、7月17日(月・祝)は開館
会場:アーティゾン美術館
時間:10:00~18:00(8月11日を除く金曜日は20:00まで)*入館は閉館の30分前まで
観覧料:日時指定予約制 ウェブ予約チケット ¥1,800 、窓口販売チケット¥ 2,000 、学生無料(要ウェブ予約)
*予約枠に空きがあれば、美術館窓口でもチケットを購入可能
*中学生以下の方はウェブ予約不要

公式HP: https://www.artizon.museum/