田代 わこ

乳歯、毛髪入りや毒リングも…! 衝撃の「指輪コレクション」が世界遺産の美術館に集結

2023.5.2
国立西洋美術館の常設展示室で、小企画展『橋本コレクション展―指輪よりどりみどり』が開かれています。本展では、カルティエやブルガリなどの高級ブランドから、歯や髪の毛が入ったユニークなタイプまで、約200点の指輪が集結。今回、展覧会を担当された研究員さんに、展示の見どころなどをお聞きしてきました!

圧巻の指輪が約200点!

『橋本コレクション展―指輪よりどりみどり』展示風景

【女子的アートナビ】vol. 291

『橋本コレクション展―指輪よりどりみどり』では、国立西洋美術館が所蔵する約760点もの指輪コレクションからセレクトされた約200点の指輪を展示。

ダイヤモンドやルビーなどの宝石を使ったゴージャスな指輪や、カルティエやブルガリ、ヴァン クリーフ&アーペルなどの高級ブランド、さらにユニークな素材を使ったものや、彫刻作品のような指輪も見ることができます。

これらの指輪は、すべてコレクターの橋本貫志氏が集めたもの。橋本氏は、2012年に約870点もの宝飾品を同館に寄贈し、これらは「橋本コレクション」と呼ばれています。

今回、本展を企画された国立西洋美術館の学芸課主任研究員、飯塚隆さんに、見どころや指輪の楽しみ方をお聞きしてきました。

きれいな指輪ばかり、ではない!

『橋本コレクション展―指輪よりどりみどり』展示風景

――まずは、本展開催の経緯について、教えてください。

飯塚さん 国立西洋美術館の「橋本コレクション」は800点以上もあり、魅力的な作品があるのにもかかわらず、通常の常設展ではほとんど展示できていませんでした。

2014年には、寄贈していただいた記念にお披露目の大規模展覧会を開きました。そのときは、300点ほど展示しましたが、その後なかなか指輪に特化した企画展が開けませんでした。そろそろ、きちんと紹介したいと思い、今回200点以上を版画素描展示室で展示しています。過去の展覧会で紹介できなかった作品も、半分以上含まれています。

――展覧会のタイトルにある「よりどりみどり」には、どんな思いがこめられていますか?

飯塚さん 橋本コレクションには、一般的にジュエリーショップで買えるものと比べると、はるかに変化に富んだ、多種多様な指輪がそろっています。時代や素材、技法、様式もさまざま。紀元前2000年頃のものから、現代の作品まであります。

世界随一といってもいいぐらい、いろいろな作品が集まっているコレクションなので、「よりどりみどり」。きれいなモノばかりではなく、おもしろい指輪、不思議な指輪、とても指輪には見えない指輪。さまざまな指輪があるのが橋本コレクションの魅力です。

どこから見てもOK!

『橋本コレクション展―指輪よりどりみどり』展示風景

――展示の構成もユニークです。「ウェアラブルデバイス」や「素材なんでもかんでも」など、解説パネルを読むのも楽しく感じました。どのように構成されたのですか?

飯塚さん 展覧会というのは、たいがい学術的でお堅いものなので、あるテーマを定めて構成するのがふつうです。ただ、橋本コレクションの場合、時代や素材といった特定のテーマを立てると、取りこぼされる指輪も出てきて、かえって本来の魅力が伝わらなくなるおそれもあります。

そこで、最初からテーマを立てるのはやめて、純粋に指輪を見たときの驚きや戸惑い、おもしろみなど、私が感じた着眼点を切り取り、トピックを立てていきました。

例えば、「ゆびわ動物園」では、学術的あるいは動物学的な意味ではなく、単に動物をモチーフとした指輪を展示しています。各セクションは独立しているので、どこから見ても構わないような構成になっています。

乳歯や髪の毛入り、ポイズン・リングも…!

左《毛髪の納められた指輪》(18世紀後期)、右《アール・ヌーヴォーの指輪》(おそらく1900年頃)いずれも国立西洋美術館 橋本コレクション

――乳歯や毛髪入りの指輪なども展示されています。なぜ、カラダの一部を入れる指輪が作られたのですか?

飯塚さん 基本的には、大切な人間への深い思いがあり、それに裏打ちされた作品だと思います。例えば現代なら、身近な人の写真を飾ったりしますよね。でも、時代を遡ると写真がない。肖像画はありますが、それを持てるのは一握りの人間だけです。大切な人を身近に感じたいとき、実際に人の髪の毛や歯など、カラダの一部を肌身離さず持ちたいと思い、その持ち運びに適していたのが指輪なのです。

容器のついたタイプの指輪は、古くから作られているので、そこに髪の毛などを入れる作業は比較的簡単にできました。裕福な人だけが持つ高価なものではなく、一般の人でも作りやすかったのだと思います。

《アメリカ陸軍空挺部隊のバッジが付いたポイズン・リング》1940年頃 国立西洋美術館 橋本コレクション

――毒を入れられるポイズン・リングや小型カメラつき指輪も飾られています。これらは、実際に使われていたのですか?

飯塚さん ポイズン・リングは実際に使われていた、という言い伝えがあります。モノを入れるタイプの指輪で、そこに毒を入れたり、薬や香水を入れたりすることもあります。今回展示されているポイズン・リングは、軍人が持っていたものなので、毒の可能性が高いと判断しています。

また、ロシアのスパイが使っていたカメラ付きの指輪もあります。カメラで撮った写真もあるので、実際にカメラとして機能していたようです。

「えっ!」「あれっ?」「オーッ」と楽しんで!

《ダンサーの指輪》(現代) 国立西洋美術館 橋本コレクション

――最後に、anan読者のみなさんにメッセージをお願いします。

飯塚さん 指輪は、非常に身近なものだからこそ、みなさんには一定のイメージがあると思います。でも、橋本コレクションの指輪を見ると、そのイメージをはるかに逸脱した指輪がごろごろあります。それを楽しむためにも、自分の指輪のイメージを忘れて、開かれた心で見ていただければと思います。

「えっ!」「あれっ?」「オーッ」と、そんな風に感じることが、橋本コレクションの魅力を味わっていることにほかならないのです。自分の概念が揺さぶられているのを感じて、楽しんでいただきたいです。

――貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

レプリカがミュージアムショップに!

飯塚さんのお話、いかがでしたか? 本記事ではご紹介しきれないほど、会場ではさまざまな指輪を楽しむことができます。

また、ミュージアムショップでは、なんと橋本コレクションのレプリカが販売されています!

デザインは4タイプ(1点は5月下旬ごろ販売予定)。橋本コレクションの感覚を自分の指で楽しめるなんて、うれしいですね。

販売時期や購入方法などの詳細は、ミュージアムショップのInstagramをご覧ください。

本展の開催は、6月11日まで。

世界遺産に登録されている美術館で、ぜひユニークな指輪をご覧になってみてくださいね!

Information

会期    :~6月11日(日)※休館日は月曜日(ただし、5月1日は開館)
会場    :国立西洋美術館 新館2階 版画素描展示室
開館時間  :9:30~17:30(毎週金・土曜日は20:00まで)※5月1日(月)、2日(火)、3日(水・祝)、4日(木・祝)は20:00まで開館 ※入館は閉館の30分前まで
観覧料   :一般 ¥500、大学生 ¥250、高校生以下および18歳未満、65歳以上は無料(入館の際に学生証または年齢の確認できるものをご提示ください)
※本展は常設展の観覧券または「憧憬の地 ブルターニュ ―モネ、ゴーガン、黒田清輝らが見た異郷」展観覧当日に限り同展観覧券でご覧いただけます。
※5月18日(木)は本展および常設展は観覧無料(国際博物館の日)

公式HP
https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2023hashimoto.html 

ミュージアムショップInstagram
https://www.instagram.com/nmwatokyo_shop/